横浜F・マリノス−清水エスパルス 観戦記

横浜フリューゲルスと横浜マリノス、ふたつのクラブのサポーターの想いを踏みにじり、企業のエゴから誕生した新クラブ、横浜F・マリノス。
全日空と日産自動車を利することになるのも、横浜国際総合競技場で観戦するのも正直嫌だった。
翼をもがれた戦士が5人、このクラブに移籍したが、競技場に足を運ぶことはなかった。
東戸塚のトレセンを訪れることはあっても、お目当ては練習試合の対戦相手のほうだった。
それでも── 気にならないといえば嘘になる。そんな存在だった。

そして観戦に誘われた── もちろん、(株)横浜マリノスが大量にばら撒いている"招待券"で。
エスパルスの優勝のかかった大事な一戦ということもあったが、テレビカメラを通して見る映像ではなく、一度くらいはこの目でF・マリノスのサッカーを観ておきたいということもあった。
そして、その厚意に甘えることにした。

この日陣取ったのは、もちろんアウェイ側ゴール裏。二階席のバックスタンド寄り。
エスパルスのオレンジ色は一階席に留まらず、二階席にまで広がっている。
一階席の中央だけが青いF・マリノスのサポーターを、数では大きく圧倒している。
そういえばフリューゲルスのJリーグ開幕戦も、三ツ沢をオレンジ色に染められたっけか。

横浜F・マリノスの布陣
GKが川口。最終ラインは中央に上野、右に小村、左に波戸。ウイングバックは右に深澤、左に神田。
中盤はボランチにヤット兄(遠藤)とアツ、中央に永井。前線は柳相鐵と城。

大事な一戦に、松田、井原、中村、バウベルの主力4選手が出場停止というていたらく。
上野のリベロは昨年のナビスコカップで、井原と小村が不在の間に試されていたのでいいとして、
問題は右のウイングバックに起用された深澤。確か波戸や一樹と違って生粋のFWだったはず。
足の遅い小村は頼りにならないし、ひとりでアレックスを押さえられるのだろうか。

清水エスパルスの布陣
GKが真田。最終ラインは中央に戸田、右に斉藤、左に西澤。ウイングバックは右に市川、左にアレックス。
中盤はボランチに伊東輝とサントス、中央に澤登。前線は久保山と安永。

0分
エスパルス陣内深く、澤登がボールを奪って後方のアレックスにいったん戻す。
ボールを動かした後のアレックスの足に深澤のタックルが入り、深澤にイエローカードが出される。

敵陣深くで何を要らぬ無理をしているのだろう。危惧していたことが早くも現実になってしまった。

1分
最終ラインで戸田がキープして、ゆっくりとラインを押し上げていく。
同じスピードで左サイドを上がっていたアレックスが、ハーフウェーラインを越えてから急激に加速する。
戸田からの正確なロングパスがアレックスに渡り、トラップひとつでペナルティエリアに切れ込む。
深澤のタックルでバランスを崩されたが、二歩で立て直して角度のないところから左足でシュート。
アウトサイドで回転をかけたボールは、遠いサイドのポストに当たってゴールの中に跳ね返る。
戸田のパスからアレックスのトラップ、そしてシュートに至るまでの一連のプレー──すべてが素晴らしかったが、ここで問題にしたいのはまたも深澤。
完全に裏を取られたあげく、ペナルティエリア内で右足を高く上げてのスライディングタックル。
しかもボールには遠く及ばず、代わりに飛び越えようとしたアレックスの右足を払っている。
アレックスのボディーバランスのよさに助けられたかたちになったが、もし転倒していれば、当然エスパルスにはPKが与えられ、深澤はこの段階でピッチを去っていたことだろう。
ディフェンスの選手であれば、あのようなプレーは恐くて絶対にできないはずである。

8分
アツの右CK。右足でカーブをかけたボールに、柳相鐵が頭で合わせてあっさり同点に追いつく。
「は?」(思わず呆気にとられる)
柳相鐵をマークしていたのは西澤だと思うが、足が止まって完全に置き去りにされてしまっていた。
ゴール正面、至近距離からフリーでシュートを許しては、得点されて当然。

18分
波戸が前方の神田にちょんと出して、神田が左足で速いアーリークロスを上げる。
城が入ってきてヘディングで合わせるが、真田が正面でしっかり押さえる。
戸田は上背があるほうではないので、城のヘディングシュートには注意を払う必要がある。
日本代表ではともかく、Jリーグでの彼は時に素晴らしいパフォーマンスを見せることがあるので。

21分
最終ラインの戸田から、左サイドの伊東輝、そしてタッチライン際のアレックスへとボールが渡る。
突っ込んでくる深澤を嘲笑うかのようにボールを前方に出して、アレックスは横をすり抜けようとする。
深澤は抜かれまいとユニフォームをつかみ、後方から足がかかってアレックスが転倒する。
岡田主審から深澤に、この日2枚目のイエローカードが出される。
深澤仁博、退場。
深澤は右手でユニフォームの前の裾をつかみ、抜かれる瞬間にさらに左手を後ろの裾に伸ばして、見事な持ち替え(苦笑)を披露してくれた。

深澤仁博
本来なら文末に記すところだが、早々にピッチを去ってしまったので忘れられないうちに。
不慣れなポジションだったことを差し引いても、アレックスとは役者が違った。
マークにつくのが遅すぎるため、あっさりドリブルでかわされる。
かといってマークについたらついたで、距離が詰められずに易々とクロスを上げられる。
それならば攻撃で汚名返上── となればよかったのだが、こちらもまるで駄目。
ポジションが中途半端でやりたいことがはっきりせず、永井もパスを出すに出せなかった。
赤子の手をねじられるかのごとく、アレックスに翻弄されただけの20分間。
この日の出来を採点するとしたら、まず間違いなく"3"以下であろう。

横浜F・マリノスの布陣 そのに
前線にいた柳相鐵を最終ラインの左に一気に下げて、波戸を本来の右サイドに回す。
柳相鐵ってほんと使い勝手がいいよなぁ。韓国人選手のなかでは過大評価されている部類だろうけど。
ついでにエスパルスのディフェンスを相手に、城のワントップじゃ通用しないと思うけどなぁ。

23分
左サイドからアレックスがアーリークロスを上げ、神田がヘッドでクリアしたボールが伊東輝に渡る。
伊東輝は永井を落ち着いてかわし、波戸が寄せてくる前に前方の安永にパスを出す。
ゴールに背を向けていた安永は、絶妙なトラップで小村と上野の間を抜け出し、ペナルティエリアのラインに沿って左サイドに流れ、素早い振り向きから左足でシュートを放つ。
低く押さえられたボールは、川口の伸ばした手の先を抜けて、右のサイドネットを大きく揺らす。
安永はスペインから帰ってきたときも見違えるほど成長していたが、エスパルスでさらに上手くなった。
伊東輝にしたら、いったん安永に預けて左サイドに流れてリターンパスをもらおうとしたのだろうが、安永はひとりでなんとかしてしまった。

39分
波戸が右サイドをドリブルで上がり、ペナルティエリア手前の城にアーリークロスを入れる。
城が胸で落としたボールを、走り込んだ永井がトラップして、勢いそのままに直進。
進路にいた西澤を突き飛ばし、ボールを落ち着かせてから右足でシュートを放つ。
横に飛んだ真田の手に当たってコースが変わり、右のポストに当たった跳ねかえりを真田が押さえる。
惜しかったなぁ…… でも永井の場合、GKがいて狭くて近いほうのサイドを狙うって、ある程度読めるから。

ロスタイム(45分)
斉藤のクリアボールがF・マリノスの最終ラインにまで届き、これを柳相鐵がトラップミス。
久保山が奪って中央やや右を疾走し、ペナルティエリアに入って右足でシュート。
川口の正面に行ってしまい、弾いたところをディフェンスにクリアされる。

前半の感想
深澤の退場がすべて。
波戸と柳相鐵を動かして応急処置を施したが、傷口がふさがる前につけ込まれてしまった。
アレックスと市川によるサイド攻撃は威力充分、久保山と安永のコンビネーションもいい。
しかし、決してエスパルスの攻撃が機能していたわけではないのだが。

横浜F・マリノスの布陣 そのさん
柳相鐵を中盤の左の攻撃的な位置に上げて、波戸を再び左のストッパーに戻す。
アレックスと対峙する右サイドにはアツを回し、ヤット兄のワンボランチに布陣を変更。

62分
アレックスがアツを振り切って、左サイドからクロスボールを上げる。
近いサイドに走り込んだ久保山がヘッドで合わせるが、わずかにゴールの右に外れる。
ヘッドでクリアしようと足を止めた上野の前に、するするっと入り込んだ久保山。
こういう動きには、フリューゲルス時代から定評があった。

63分
選手交代:安永聡太郎→ファビーニョ
安永が反スポーツ的行為で警告を受けると、ペリマン監督はすかさずファビーニョを準備させた。
F・マリノスに退場者が出ているので、どうしても主審の判定はエスパルスに辛くなりがちだからね。
ちなみに安永の反則は、ダイビング、シミュレーション、オーバーアクションなどと呼ばれるもの。

横浜F・マリノスの布陣 そのよん
60分前後からしばしば見られたのだが、小村が右サイドに出て、高い位置で張っている。
エスパルスも大して注意を払ってないと見えて、結構フリーでボールを持たせてもらえるのだが、
大学時代からストッパー一筋の彼に、素晴らしいクロスボールが上げられるわけもなく、
結局アツの上がりを待って、いったん戻してクロスを上げてもらっている。
しかも小村の抜けた最終ラインのカバーをしているのもアツ。はっきりいって無意味。

72分
アツが右サイドのスペースに走り込むのを見て、タッチライン際にいた小村が前方にパスを出す。
またぎフェイントで西澤を翻弄し、左足でクロスボール気味のシュートを放つ。
城が合わせようとするが、斉藤がきっちりブロックして、ボールはそのままエンドラインを割る。

77分
左サイドでアレックスがアツと対峙し、一気にスピードを上げて中へ切れ込む。
久保山にボールを預けて小村とアツの間を抜けて、ペナルティエリアに入ってリターンパスをもらう。
ディフェンスの間から放った右足のシュートは、上野の足に当たって大きくコースが変わり、右のポストに嫌われて、跳ねかえったところを川口に押さえられる。
コースが変わったことで、川口は完全に逆をつかれたのだが……

横浜F・マリノスの布陣 そのご
しばしば攻撃参加を見せていた上野を中盤に上げ、最終ラインには小村と波戸だけが残る。
ディフェンスにも気を配るアツを除き、左サイドの神田もボランチのヤット兄も前がかりになる。

83分
選手交代:久保山由清→大榎克己
澤登を前線に上げて、ベテランの大榎を中盤に投入。
清水東三羽ガラスが後ろに控えているというのは、エスパルスのなによりの強みだと私は思う。

85分
選手交代:永井秀樹→ヨビチェビッチ
U-18ユーゴスラビア代表、U-20クロアチア代表、U-23クロアチア代表と経歴だけは立派だが、年を経るごとに出場機会も得点も激減しているのが、伸び悩んでいるなによりの証し。
7年間もレアル・マドリードにいて、大した実績も残していないのもうなずける。
愛称がイゴールだそうだが、ロシア生まれの大男(レディアコフ)のほうがよっぽど役に立った。
もう27歳。過去の実績だけで、来季の移籍先が見つかると思ったら大間違いだよ。

本来であれば、試合が停滞してきた70分前後に選手を交代させて、流れを変えたかったのだろうが……
なにせベンチの中は張子の虎(登録されているだけの選手)で一杯。
サテライト暮らしが長すぎて、出場したところでとてもコンビネーションが合うとは思えなかったしぃ。

そして──
主審の長い笛が吹かれ、清水エスパルスのセカンドステージ優勝が決定した。
歓喜に包まれるサポーターをぼんやりと眺めつつ、様々な想いが頭を過ぎった。
フリューゲルスもあと一歩だったんだよなぁ……
やはりJリーグで優勝したかったなぁ……
ともに喜び、涙を流せるチームが存在するというのは、羨ましいよなぁ……
共感、羨望、かすかな嫉妬、そして一抹の居心地の悪さも覚えた。

波戸康広
右サイドではアレックスに走り負けず、左サイドではファビーニョの突破に体を入れてボールを奪い取る。
エスパルスに追加点を許さなかったのは、彼のおかげといっても過言ではない。
デラクルス監督にストッパーにコンバートされて、ほんとディフェンスが粘り強くなった。
おかげで日本代表候補に選ばれてしまった(トルシエは間違いなくこの試合を観て選んだと思われる)。

三浦淳宏
一点リードされている場面で、最終ラインのカバーを要求されるのは、彼の本意ではないだろう。
確かにボランチも右サイドも無難にこなしてはいたが、こなしていただけという気もする。

永井秀樹
右サイドは使えないわ、使えるのが来たときには前線が一枚減っているわで、何をしろと?
左サイドにアツがいれば少しは違ったかもしれないが、彼にとって選択肢があまりに少なすぎた。
城のポストプレーから、二度ほどいいシュートを見せたのだけが救い。

佐藤一樹
この試合で出番がないということは、すでに来季の戦力構想からは外れていると見るべきだろう。
心ならずもサテライトの右ウイングバックに固定されてしまったが、デラクルス監督の優先順位としては、永山邦夫、遠藤彰弘、波戸康広、三浦淳宏、そして深澤仁博の方が上だったということだろう。
※京都パープルサンガへの移籍が決定しました。(99.12.2)

久保山由清
フリューゲルスから巣立っていった中では、最も成長した選手だろうなぁ。
ペナルティエリア内でクロスボールに合わせる動きにも、一段と磨きがかかってきた。
いいチームに移籍できたし、安永というパートナーにもめぐりあえたし、優勝もできたし。
ほんとF・マリノスに行かなくて正解だったね。
 

吉田孝行
城をスペインに移籍させるか、さもなくばレンタルでいいから出場できるチームに移籍させてあげようよ。
確かにポジションを奪えないのは、実力だけでなく精神的に弱いとかいろいろあるんだろうけど。

服部浩紀
サテライトでストッパーまでこなして、十も年の離れたユースの選手から指示を出されることも。
フリューゲルスでも前線からのチェイシングには定評があったが、それにしても不憫……いや不遇な。
来季は新天地で頑張ってくれることを期待してます。で、どこへ移籍するの、アニキ?
チームカラーといいサポーターといい、FC東京が似合いそうな気もするけど。

バウベル
ま、いいや。

横浜F・マリノス
前半清水エスパルス
後半
会場:横浜国際総合競技場/観衆:44028人
得点:0-1 アレックス(1分、アシスト=戸田和幸)
   1-1 柳 相鐵(8分、三浦淳宏)
   1-2 安永聡太郎(23分、伊東輝悦)

横浜F・マリノス清水エスパルス
GK川口能活GK真田雅則
DF小村徳男DF市川大祐
DF上野良治DF斉藤俊秀
DF波戸康広DF西澤淳二
MF深澤仁博DF戸田和幸
MF遠藤彰弘MF伊東輝悦
MF三浦淳宏MF澤登正朗
MF神田勝夫MFサントス
MF永井秀樹MFアレックス
FW85ヨビチェビッチFW久保山由清
FW柳 相鐵MF83大榎克己
FW城 彰二FW安永聡太郎
SUB小沢英明FW63ファビーニョ
SUB田沢浩之SUB羽田敬介
SUB大橋正博SUB田坂和昭
SUB佐藤一樹SUB長谷川建太

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