2002 FIFA World Cup Korea/JapanTM Group E
カメルーン−サウジアラビア戦 観戦記

埼玉高速鉄道(とても高速とは思えないが)に揺られ、終点の浦和美園駅で下車。

第三セクター方式の鉄道の例に洩れず、とにかく運賃が高い(初乗り210円は首都圏の最高値)。
それでいて利便性には乏しく、おそらく赤字路線になることは間違いないと思われる。
スタジアムにより近い車両基地に、臨時駅を設ける計画が潰えたあたりは、推して知るべし。
試合開始まではおよそ一時間、それまでにやらなければならないことがある。
なんとかなるだろうとここまで来てしまったが、実のところチケットを持ってないのだ(笑)

「チケットを譲って下さい(I NEED THE CHIKET)」と書いた紙を掲げる手もなくはないのだが……
ダフ屋と宗教関係(キリスト教)の連中を適当にあしらいつつ、駅前をうろついて相場を見極めることに。
あらかた定価で取引されているようだが、いかんせん"需要>供給"の様相を呈しているのがどうにも。
諦めかけていたとき、背広姿のふたり組の男性が目に留まる。
数枚のチケットを手に、立ち止まってなにやら考え込んでいる風なので、すかさず声をかける。
「余っているのでしたら、一枚譲っていただけませんか?」

数分後、私の姿はスタジアムへと向かう"歩行者専用道路"にあった。
カテゴリー3を定価の7000円で。時間も圧していたので、交渉に時間を費やす気にはならなかった。
試合開始を告げる笛は、チケットをもぎられた直後に聞いた。まぁ、初めてにしては上出来か。

サポティスタによれば、相場は定価の半額。最低購入者は650円(驚愕)だったそうだが、場所と時間帯が併記されていないので、その信憑性についてはコメントのしようがない。
シャトルバスに乗ることを考えれば、浦和駅や東浦和駅でのことならありえない話ではないが……
 
カメルーンサイドのゴール裏、ほぼ中央の前から5列目。お世辞にも観戦しやすい座席とは言えない。
サッカー専用スタジアムではあるが、ピッチと観客席の高さにそれほど差がないのだ。
実際、大型映像装置で流される国際映像の助けなしには、試合の全体像を把握するのは難しい。
とはいえ、それはそれでまた別の楽しみ方があるというもの。ゴールラインまではわずか19m、アジア最高のGKアルデアイエのプレーを、この距離で見れる機会などそうはあるものではない。

ちなみに、私と同様に恩恵に預かった人たちに続いて、譲ってくれたふたりが着席したのは12分過ぎ。
さすがに怒られたとのこと。まぁ、あれだけあからさまに紙幣をやり取りしていてはね(苦笑)
 

カメルーンの布陣
GKはアリウム。最終ラインは中央にカラ、右にソング、左にチャト。サイドハーフは右にジェレミ、左にウォメ。
中盤はボランチがフォエ、右にローラン、左にヌゴム。前線はエトーとエムボマ。

サウジアラビアの布陣
GKはアルデアイエ。最終ラインは中央にアルシャハリ、右にトゥカル、左にズブロマウィ。
サイドハーフは右にアルジャハニ、左にスリマニ。中盤はボランチがアルワケイド右にイブラハム・アルシャハラニ、左にアルハスラン、中央にアルテミヤト。最前線はオベイド・アルドサリ。

7分
アルワケイドが右サイドからアーリークロスを上げる。
遠いサイドに流れたオベイド・アルドサリがヘッドで合わせるも、クロスバーを越える。
オベイド・アルドサリ、ディフェンスの背後へ抜け出す動きは確かに素晴らしいが……
フリーであれを外すかね(苦笑)

10分
ソングのスルーパスを受けて、エムボマが中央を抜け出してアルデアイエと1対1に。
バランスを崩しながらも、アルデアイエをかわして左足でゴールネットを揺らすが、判定はオフサイド。
パスが出る瞬間、確かにエムボマの姿は明らかなオフサイドポジションに。

27分
右サイドでイブラヒム・アルシャハラニ、アルハスランとつなぎ、最後はアルテミヤトが左足でシュート。
ディフェンスにブロックされ、ボールは力なくアリウムの胸に収まる。

35分
選手交代:オベイド・アルドサリ→アルヤーミ
オベイド・アルドサリは負傷交代。ボールを追った際の転倒が原因、いわゆる自損事故。

41分
アルテミヤトがちょんと浮かせて、ディフェンスの頭上を越したボールを、アルヤーミが前線でキープ。
わずかに戻りながら前方に向き直り、走り込むアルテミヤトめがけてスルーパスを通す。
アルテミヤトが右足を振り抜くが、ボールはゴールの左へと外れていく。
くさびになったアルヤーミへのプレッシャーが甘すぎる。簡単に前を向かせているようでは……

42分
ジェレミが右サイドから中央へ切れ込みつつ、右足で最終ラインの裏へと放り込む。
ローランがヘディングでゴール右隅に決めるが、判定はオフサイド。
遠いサイドのエトーはともかくとして、後方から飛び出したローランは明らかにオフサイドではない。
両腕を広げて訝しがるのも無理はないだろう。

ロスタイム
カメルーンのクリアボールを、アルワケイドがオーバーヘッドで前線のアルテミヤトへ。
すかさず前を向いて、ペナルティエリアのすぐ外から右足で放ったシュートは、大きく右に外れる。
右足のトラップから前を向くまではほぼ完璧。しかも、完全にフリーだったにもかかわらず……

前半の感想
大方の予想を覆して、試合はサウジアラビアのペース。カメルーンは見るからに体が重そう。
後はゴールを決めるだけなんだが、いかんせんシュートが枠に飛ばないからなぁ(苦笑)

ハーフタイム
スタジアムを5周もしたウェーブ。口火を切ったのはカメルーンサイドのゴール裏、私のすぐ横(笑)

45分
選手交代:ヌゴム→オレンベ
スピードがあり、運動量も豊富なオレンベを投入して、左サイドから切り崩しを図る。

48分
オレンベが左サイドからペナルティエリアに切れ込み、中央へとボールを戻す。
ローランが右足でミドルシュートを放つが、アルデアイエが体を倒しながらボールを押さえる。
ゴール前にサウジアラビアのディフェンスが密集していたので、判断は正しかったと思われる。

58分
自陣左サイドでアルジャハニのパスを受けて、アルテミヤトがローランを振りほどいてドリブル突破。
──のタックルをかわして、ペナルティエリアに入ったところで左足シュート。
ゴール左下を狙ったボールは、アリウムが体を寝かせてかろうじてセーブ。
こぼれ球に走り込んだアルヤーミが、アリウムに倒された……かに見えるも、判定はシミュレーション。
角度によっては接触したようにも見えるのだが、アルヤーミの左足の動きがあまりに不自然。
アリウムがクリアしようと伸ばした右足に引っかけるつもりが、その右足が引っ込められたことで、アルヤーミの左足は行き場をなくして、あのような不自然な倒れ方になったのだろう。

65分
オレンベがチャトのパスを受けて左サイドを突破、ペナルティエリアに切れ込んで中央に折り返す。
一度はボールを奪われたものの、イブラヒム・アルシャハラニのロングパスは、ディフェンスがクリア。
自陣右サイドでボールを拾ったジェレミが、一気に最終ラインの裏へロングパスを通す。
エトーが抜け出してアルデアイエと1対1になり、右足アウトフロントで落ち着いてゴールに流し込む。
ユニフォームを脱ぎ捨てながら、一目散にシェーファー監督の下に走り寄り、熱い抱擁を交わすエトー。
最終ラインを上げようとした矢先の出来事で、ズブロマウィがわずかにひとり残っていたか。
エトーは右足を振り抜くと見せて、腰を落としたアルデアイエを嘲笑うかのように、ゴール右隅を突いた。

71分
選手交代:ズブロマウィ→アルジュマン
この試合に勝利しなければ、事実上セカンドラウンド進出の望みを絶たれるサウジアラビア。
前線の枚数を増やして勝負に出る(引き分けでも可能性は残るが、得失点差の争いになると……)。

73分
選手交代:エムボマ→ヌディエフィ
おつかれさま。正直、本調子からは程遠いように思えたので。

78分
アルヤーミ(?)のパスを受けて、アルテミヤトが胸トラップでボールを前方に浮かせると、落ち際を狙ってロングレンジから右足を一気に振り抜く。ボールはゴールの左に大きく外れる。

80分
アリウムのゴールキックを、サウジアラビアがヘディングに競り勝って右サイドに展開。
アルジュマンの折り返しをアルテミヤトが落として、イブラヒム・アルシャハラニが右足でシュート。
ディフェンスに跳ね返ったところを、さらにアルテミヤトが右足でボレーシュート。ゴールの右に外れる。
一連の流れの中で、アルテミヤトは完全にフリー。後は枠にさえシュートが飛べば(こればっかり)。

84分
選手交代:ウォメ→ヌジャンカ
左サイドでもプレーするが、ヌジャンカの本職はストッパー。守備を固めてきた……んだろうなぁ。

86分 選手交代:アルハスラン→アルハウサウィ

88分
センターサークル付近から、フォエが中央にぽっかり空いたスペースをドリブルで突破。
ペナルティエリアに入って左足でシュートを狙うが、トゥカルがスライディングでかろうじてブロック。
棒立ちになっていたというよりは、当たりに行くべきか迷っているうちに突破されたという印象。
センターバックふたりが、あっさり間を抜かれたからなぁ(苦笑)

試合終了
テリエ・ハウゲ主審、ノルウェーでは試合終了を告げる笛は5回も鳴らすのですか?

後半の感想
カメルーンが意地を見せて、シュート数でサウジアラビアを上回ったものの、前半と大差ない内容。
エトーのゴールは素晴らしかったが、それ以外に見せ場があったかと問われれば、言葉に詰まる。

モハメド・アルデアイエ
これまでは驚異的な反応だけが取り上げられてきた感があるが、そんな彼ももう30歳になる。
なにより経験が物を言うポジション。これからどう円熟味を増してくるのか、非常に楽しみでもある。
しなやかな身のこなし、ペナルティエリアにまで届くパントキック、そして持ち前のキャプテンシー。
ドイツ戦の大敗から5日、そのポテンシャルはこの試合で遺憾なく発揮されたのではないだろうか。

ナワフ・アルテミヤト
2000年アジア最優秀選手。
アルメシャルが負傷で登録を外れ、アルジャバーは虫垂炎を患い、オベイド・アルドサリも途中退場。
ストライカーが相次いで姿を消したことで、彼にかかる負担が増したのはもちろん確かだろう。
とはいえ、生粋のパサーだからといって、それはシュートが下手な言い訳にはならない。

カメルーン 評
アフリカ選手権を連覇し、シドニーオリンピックでも金メダルを獲得した「不屈のライオン」。
とはいえ、実力の"片鱗"程度すら見せてもらった気がしない。
ドイツとの最終戦が控えているだけに、最小得点差での勝利は"負けにも等しい"と言わざるを得ない。

サウジアラビア 評
ドイツに0−8で敗れた影響が懸念されたが、アルジョハル監督が見事に守備を立て直してきた。
しかし、このままでは引き分けることはできても、おそらく勝つことはできないだろう。
くどいようだが、シュートが枠に行かないのだから。4年前、日本がフランスでそうだったように。

余談
サウジアラビアの選手名。とにかくメディアによってまちまちで、ひとつとして同じ表記がない(苦笑)
公式プログラムや配布される先発メンバー表、雑誌などを参考にしつつ……まぁ、通りのいい名前で。
カミス・アルドサリなんて書かれても誰のことだか。ちなみに、アルオワイランのことね。

 
コラム「スタジアムの中だけがワールドカップか」
試合終了後、再度チケットの礼を述べると、吐き出されるようにしてスタジアムを後にする。
無料シャトルバス乗り場へ向かうが、浦和駅行きはすでに長蛇の列。一向に動く気配すらない。
早々に見切りをつけて(はなから期待なんてしてなかったけど)、浦和美園駅へ。

途中、警察車両と警察官によって作られた人垣で、交通規制が行われている。
本来であれば15〜20分程度で済む距離を、人波に揺られながら黙々と1時間もかけて歩く。
左は一面の畑、右は水路。道中見かけたのは、唐揚げや焼そばを売る屋台と"帽子"を売る外国人がひとり。
プラットホームへと順送りにされ、到着した電車に乗り込んで、王子駅でJR京浜東北線に乗り換える。

──はたと思う。本当にそれでいいのか、と。
改めて言うまでもないが、ワールドカップは"祭り"だ。少なくとも、これまでの大会はそうだった。
スタジアムのみならず、街そのものが喧騒とは無縁ではいられなかった。だが、"ここ"にはなにもない。
浦和美園駅前にはコンビニが一軒だけ。日商1200万円という数字が、選択肢のなさを物語っている。
はたして、勝利に沸くカメルーンサポーターは、どこで歓喜し、歌い、踊ればいいのだろうか。

 
ボランティアのみなさんには申し訳ないが、ひとりひとりの表情(かお)が見えなかった。
カメルーン人やサウジアラビア人のサポーターが、決して多くはなかったのも事実だろう。
それらを考慮に入れた上で、あえて言わせてもらう。

この試合は、「スタジアムの中ですらワールドカップではなかった」と。
サッカーどころ"さいたま市"の盛り上がり様は、永遠に窺い知ることはできなかった。

カメルーン

前半サウジアラビア

後半
会場:埼玉スタジアム2002/観衆:52328人
得点:1-0 エトー(65分、アシスト=ジェレミ)

カメルーンサウジアラビア
GKアリウムGKアルデアイエ
DFチャトDFアルジャハニ
DFウォメDFトゥカル
DF84ヌジャンカDFズブロマウィ
DFソングFW71アルジュマン
DFカラDFアルシャハリ
DFジェレミDFスリマニ
MFローランMFI・アルシャハラニ
MFフォエMFアルハスラン
MFヌゴムMF86アルハウサウィ
DF45オレンベMFアルワケイド
FWエトーMFアルテミヤト
FWエムボマFWO・アルドサリ
FW73ヌディエフィ FW35アルヤーミ
SUBソンゴーSUBザイド
SUBカメニSUBバブクル
SUBメトモSUBアルハシー
SUBエパレSUBA・D・アルドサリ
SUBアルヌジSUBアルサカフィ
SUBヌドSUBアルシャルフーブ
SUBスフォSUBアルオワイラン
SUBジェンバSUBアルガムディ
SUBジョブSUBアルジャバー

注釈:時間は手元の時計で計っていますので、1分程度の誤差はあります。

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