第78回全国高校サッカー選手権大会 準決勝
市立船橋高校−前橋育英高校 観戦記

市立船橋高校の布陣
GKは黒河。最終ラインは右から千坂、中澤、羽田(主将)、駒形。
中盤はボランチが藤沼、右に秋田、左に永井、中央に本橋。前線は長沼と原。

前橋育英高校の布陣
GKは岩丸。最終ラインは右から小渕、青木、田中光、茂木。
中盤はボランチが中野と松下(主将)、右に小林、左に佐中。前線は佐藤と伊藤大。

4分
永井の右CK。中澤の頭を狙って左足で蹴ったボールを、岩丸が左手で遠いサイドへかき出す。
秋田が拾ってすかさず右足でシュートを放つが、岩丸が体を倒してしっかりと押さえる。

16分
左サイドで永井が小渕に競り勝って、左足でゴール前にクロスを上げる。
原がディフェンスのマークを外してヘッドで合わせるが、ゴール右に外れる。

19分
千坂の右サイドからのスローイン。右サイドにいた本橋が、戻りながらペナルティエリアに入り、ダイレクトに左足でボレーシュートを放つが、ゴール右に大きく外れる。

28分
中央やや左から永井が大きく右に開き、走り込んだ秋田が右足ダイレクトでゴール前に折り返す。
青木に体を入れられながら、本橋が懸命に足を伸ばしてボールに触れるが、クロスバーを越える。

39分
自陣から永井が右サイドのスペースに大きく展開する。
秋田が走り込んで、詰めてこない茂木を尻目に易々とゴール前にクロスを上げる。
原(か長沼)が大きく頭を振って合わせようとするが、ボールはわずかにその上を通過する。

前半の感想
前橋育英はスピードある突破で何度となくサイドをえぐるが、肝心のクロスがゴール前で阻まれる。
一方、市立船橋は永井や本橋が中盤から大きなサイドチェンジを絡めるなど、前橋育英のディフェンスを揺さぶる工夫をしている分、クロスが味方の選手までしっかり通っている。
その差が、両校の決定機の数の差として現れている。

50分
佐藤が前線で粘って右に流し、小林がペナルティエリアに切れ込んで右足でクロスを上げる。
佐中が千坂と競りながらヘディングで合わせるが、ゴール左に外れる。

56分
選手交代:佐藤正美→茂原岳人
100m走11秒4の快速FW佐藤に代えて、左足を痛めて先発を外れた茂原を満を持して投入。
茂原は本来のボランチではなく2列目の左に入り、佐中が前線に上がって伊藤大とコンビを組む。

56分
本橋が中央やや左でキープして後方に戻し、永井がペナルティエリア右端で待つ長沼にロングパスを通す。
長沼が切り返して左足でシュートするが、かわされたかに見えた茂木が懸命に足を出して、威力が弱まったところで岩丸が押さえる。

64分
本橋が左サイドに開いた原に出し、原が軽快なステップで小渕をあっさりかわして縦に突破。
ペナルティエリアに切れ込んで、エンドライン手前から右足アウトサイドでラストパスを送る。
ゴール前に走り込んだ本橋には合わなかったものの、中野のクリアが小さくなったところを、長沼が追いかけて、体勢を崩しながらも振り向きざまに右足でシュートするが、ゴール右に外れる。
敵陣深く、左サイドのタッチライン際からペナルティエリアにかけて── 原の最も得意とする地域。
彼がボールを持った瞬間、サイドを鋭くえぐってゴール前に折り返す映像が、脳裏をかすめた。
突破を許しながら、ゴールを割らせなかった前橋育英の分厚いディフェンスを誉めるべきだろうか。

67分
松下の右CK。右足でアウトに回転をかけたボールに、遠いサイドで茂原が頭で合わせるが、突き刺さったのはサイドネットの外側。それともその前にゴールラインを割っていたか。
ユース年代にも、こういうボールを正確に蹴れる選手が出てきたんだと、再認識させられた。
一瞬、直接ゴールに吸い込まれるかと思ったもんなぁ。

69分 選手交代:長沼彰太→渡辺誠人

72分
選手交代:伊藤大智→岡本勇輝
岡本はそのまま前線の右に入り、2列目の茂原と小林が位置を入れ替える。

75分
自陣ペナルティエリアでボールを奪ってカウンター。フィードを受けた渡辺が左サイドに抜け出す。
ドリブルで敵陣中程まで進入したところで、岩丸の位置を見て左足でロングシュートを放つ。
ミスキックになり枠からは外れていたものの、岩丸の手に触れてゴールラインを割る。

ロスタイム
右サイド深くから小渕のスローイン。
青木が戻したところをダイレクトに左足で浮かせ、ペナルティアーク手前の松下に送る。
松下がヘッドで左に流し、最終ラインの外側から走り込んだ茂原が左足でシュート。
右に大きく外れていたが、ディフェンスに当たってゴールラインを割る。

後半の感想
前橋育英もサイドを効果的に使うようになり、前半に比べて精度の高いクロスが上がるようになったが、高さのある市立船橋の中澤と羽田の前に、ことごとく跳ね返されてしまう。
ゴール前にボールを入れられたとしても、決して前を向かせない強さが市立船橋にはあった。
決定機と呼べるのは、お互いわずかに一回ずつ。
中盤でレベルの高い潰し合いが行われた結果の、PK戦での決着ということだろう。

PK戦
【市立船橋】○藤 沼 ×駒 形 ○原   ○永 井 ○羽 田
【前橋育英】○松 下 ×小 林 ○茂 原 ×田中光    
市立船橋の黒河と前橋育英の岩丸。
両校ともU-18代表のGKを擁するだけあって、非常にレベルの高いPK戦となった。

1人目、藤沼、松下ともにゴール左下にきっちりと沈める。
2人目、まず駒形が完全にコースを読まれて止められ、直後に小林のキックが左のポストを叩く。
3人目、原のシュートは岩丸の手に当たりながらもネットを揺らし、茂原は中央に豪快に蹴り込む。
そして運命の4人目──
まずは永井が、2年生とは思えないほど落ち着き払って、岩丸の動きを見てからシュートを決める。
一方の田中光は、黒河に気圧されていたのだろうか、コースが甘く黒河に易々と弾かれる。
5人目の羽田のシュートがゴール左上に吸い込まれた瞬間、市立船橋の決勝進出が決定した。

羽田は黒河としっかり抱き合い、センターラインに並んでいたイレブンが駆け寄る。
そんな中、シュートを外した駒形だけが、駆け出すことなくひとり涙を流していたのが印象に残った。
 

前橋育英高校 評
センターラインには岩丸史也、青木剛、松下裕樹、茂原岳人、佐藤正美のU-18代表クインテット。
青木を本来のボランチから最終ラインに下げたことで、ディフェンスの安定感も増したように思える。
茂原の体調が万全ではなかったため、松下にかかる負担が大きくなってしまったのが残念ではあるが。
岩丸史也、茂原岳人、松下裕樹── 彼らがJリーグで活躍できるかどうかは別問題として、市立船橋と互角の戦いをしたという事実が、高校生離れしたチームの実力を物語っている。

前橋育英高校の応援
市立船橋高校のチアリーダーも素晴らしかったが、前橋育英高校のそれはさらに上を行っていた。
とくに「カズ・ゴール♪」の曲での振り付けは、試合を忘れて思わず見入ってしまうほど。
別にチアガールに目を奪われていたわけでは……と、否定すればするほど嘘に聞こえるのはなぜ?

池田貴族
30分頃に前橋育英のブラスバンドが、池田貴族の"Miyou"を演奏したのには驚かされた。
応援歌には似つかわしくない選曲なので、ブラスバンドに彼のファンでもいたのだろうか。
行進曲とは異なり音量は小さかったものの、市立船橋のブラスバンドが演奏していなかったこともあって、メインスタンドからもはっきりとメロディを聞いて取ることができた。
市立船橋の応援団も思わず聞き惚れていたと考えるのは、いくらなんでも穿ちすぎだろうか。

池田貴族はロックバンド"rimote"のボーカルとして活躍していたころから知っているので、
肝細胞がんに体を蝕まれながら、愛娘美夕ちゃんに贈った形見ともいえるこのメッセージ・ソングは、
涙なしには聴くことができない。
一美さんとの結婚、そして一粒種の美夕ちゃんの誕生── がんが発症してからの彼の三年間の生き様に、私も少なからず影響を受けた。
1999年12月25日3時35分没、享年36歳。合掌。

市立船橋高校

前半前橋育英高校

後半
PK戦
会場:国立競技場/観衆:17740人

市立船橋高校前橋育英高校
GK黒河貴矢GK岩丸史也
DF千坂教雄DF小渕良幸
DF駒形嘉則DF田中光男
DF中澤聡太DF青木 剛
DF羽田憲司DF茂木一希
MF藤沼清登MF松下裕樹
MF秋田政輝MF中野和彦
MF本橋卓巳MF小林卓也
MF永井俊太MF佐中貴人
FW原 竜太FW佐藤正美
FW長沼彰太MF56茂原岳人
FW69渡辺誠人FW伊藤大智
SUB小林道和FW72岡本勇輝
SUB渡辺 駿SUB明石悠嗣
SUB山崎篤史SUB笹本 優
SUB青木大輔SUB堀越克明
SUB姜 成浜SUB里見仁義
SUB西角ダニエルSUB伊藤 健
SUB阿部翔平SUB須田剛史
SUB岩本哲也SUB相川進也

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