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「ホーホケキョ となりの山田くん」

3分間試写の衝撃

文責/叶 精二

※以下の文章は「COMIC BOX/99年6月号」(99年6月1日/ふゅーじょんぷろだくと発行)に掲載されたものです。


 漫画文化と深い繋がりを持つ日本のアニメーションは、リミテッドの発展によって時空間を寸断する技法を定着させて来た。コマ漫画のリズムよろしく、トメ・トメ・口パクの短いカットで予算も技術も省力化することが大量生産の秘訣であった。
 試写で見せてもらった「ホーホケキョとなりの山田くん」の3分間は、その技術的対局にあった。原作と比較すれば一目瞭然。15秒で読み飛ばせる4コマを濃密な3分に拡大。膨大な動画枚数の駆使によって、コマとコマの間にリアルな時間と空間を紡ぎ出す。それは、日本の主流派アニメーションが30年近く放棄して来た「動きの機微によって全てを見せる」試みではないか。複雑な裏設定も、緻密な背景美術も、思わせぶりの台詞も、SEXと暴力描写も、美少年・美少女キャラクターも何もいらない。いわばアニメファン受けする要素の全てを削ぎ落とした“スーパーアンチ・ジャパニメーション”作品。隔歴史的作品の登場に、否が応にも期待は高まる。
 「山田くん」の総動画枚数は「もののけ姫」を凌ぐ15万枚代にのぼる予定と聞く。しかし、観客は感じることだろう。「えっ!どこにそんなに枚数がかかっていたの?」と。それこそが高畑監督の狙いではないだろうか。

      


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