当高畑・宮崎作品研究所は、「二馬力・畑研究」誌上において、かねてからディズニー社とスタジオジブリの配給上の提携の可能性を示唆して来たが、ついにこのドリーム・タッグが実現した。
去る7月23日、徳間グループ(徳間書店、スタジオジブリ、大映)は、ウォルト・ディズニー社 (ディズニー・スタジオ、ブエナ・ビスタ・インターナショナルなど)と、映画・ビデオの世界配給で業務提携することを発表した。
提携の内容は、(1)97年7月公開予定の「もののけ姫」のアメリカ・ブラジル・フランス・ドイツ・イタリアなどでの配給、(2)「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「おもひでぽろぽろ」「紅の豚」「平成狸合戦ぽんぽこ」「耳をすませば」の八作品の世界配給、(3)ヒット作「Shall we ダンス?」の世界配給、公開中の「ガメラ2」の世界配給の検討、以上の3点。
スタジオジブリ取締役の鈴木敏夫氏によれば、「海外配給の申し出は複数社からあったが、《ノーカット》《ストーリィや音楽をいじらない》というオリジナル尊重の条件をOKしてくれたのはディズニーだけだった。それを信用したのと、世界的な市場相手の長年の経験で窓口になってもらえれば、ジブリに損になることは一つもない。」とのこと。
これまでも、ジブリ作品は台湾・香港などで公開されているが、いずれも短縮版。「ナウシカ」にあっては、最悪の短縮版「WARRIORS OF WIND」が欧米で公開されている。オリジナルのまま吹替え版で公開された作品は、数年前アメリカで公開された「となりのトトロ」と、昨夏イタリアで公開された「紅の豚」くらいだ。「幼児向け」イメージの強いアニメーション映画の興行で、2時間近い作品というのはリスクが大きいと判断されているようだ。今回は実写映画同等の評価を勝ち得た提携であり、その意味でも画期的と言える。なお、新潮社製作の「火垂るの墓」は提携作品から除かれている。
7月23日当日はホテルオークラで記者会見が開かれた。
ディズニー社からはプロバード氏、ミラー氏が出席。徳間側からは、徳間康快社長と宮崎駿氏が出席し、提携確認の書類を交わした。
席上は、ニューヨークタイムスの特派員記者から「宮崎さんはあんまり最近のディズニーは好きじゃないと言っておられましたが、そこから自分の作品が配給されるというのはどういう気分でしょう?」という大変鋭い質問も飛び出した。
宮崎氏は、苦笑しつつ「今までだって東映や東宝が大好きだったわけではないので同じですよ。」と語ったとか。
記者会見の席上では、各種資料と共に「もののけ姫」のストーリィ概略と、宮崎氏による「演出覚書」が配布された。
それによれば、「もののけ姫」の舞台は混沌の室町時代。主人公は蝦夷の王族の血をひく少年「アシタカ」。彼はもののけとなった猪神に死の呪いをかけられ、その謎をとくために旅へ出る。
そして訪れた西の国で、「エボシ御前」率いる「たたら製鉄集団」と出会う。虐げられた者たちを集め、人間中心の社会を作るべく、森を拓こうとするエボシ御前。これに対し、山犬に育てられたもののけ姫「サン」は、荒ぶる森の神々と共に、森を守るために人間と闘っていた。更に、不老不死の力が秘められているというシシ神の首を狙う侍たちが絡み、森をめぐって凄絶な死闘の様相を呈していく。
アシタカとサンは惨劇の中で出会い、心を通わせていくが……。という展開。
宮崎監督は「演出覚書」で、「荒ぶる神々と人間との戦いにハッピーエンドはあり得ない。しかし、憎悪と殺戮のさ中にあっても、生きるにあたいすることはある。素晴らしい出会いや美しいものは存在し得る。」と制作動機を記している。
なお、キャッチコビーは「生きろ。」に決まっている。
原作絵本の欠片も見つからない何ともハードな設定である。しかし、これほど深刻な宮崎作品であるからこそ、「最後の長編」にふさわしいと言えるのかも知れない。「砂漠の民」や「シュナの旅」を彷彿とさせる生と死の凄絶なドラマ、環境破壊か保全かという現代的テーマ、漫画版「ナウシカ」を発展させた人間の行き着くべき地点の模索。そして、誰も見たことのない「土着民の視点からの時代劇」の構築。宮崎監督は、陰鬱とした混沌の現代日本を生きる私たちに、これまでの思想的・技術的総決算をかけて作品創作に望んでいる。心して待とう。
開設されたジブリのインターネット・ホームページの掲載分を含め、現在までに判明している「もののけ姫」の制作スタッフは以下のような顔ぶれである。
原作・監督・脚本・絵コンテ 宮崎駿
作画監督 安藤雅司
原画 篠原征子ほか
動画チェック 舘野仁美 ほか
美術監督 男鹿和雄・山本二三・黒田聡・田中直哉・武重洋二
背景 田中恭子・太田清美・春日井直美・伊奈凉子・平原さやか ほか
特殊美術 福留嘉一
CG 百瀬義行・菅野嘉則
音楽 久石譲
CD付情報誌「MPEGSPECIAL/VOL.2」(9月2日発売・アスキー)の「世界に輸出される日本のアニメ特集」のスタジオジブリの紹介項目1ページ分「ジブリというブランド。(2000字)」を当研究所・叶が書きました。なお、このタイトルは編集部によるもので、こちらの意向ではありません。抗議しましたが、間に合いませんでした。
発行元の株式会社アスキー・TECH編集部から突然依頼されたもので、ジブリ直々のご紹介とのこと。
7月31日、徳間書店より「風の谷のナウシカ・水彩画集」と、宮崎駿監督の発言&エッセイ集「出発点」が発売されました。この2冊の編集の際、ジブリ出版部から当会に協力の要請があり、昨年末から今春にかけて協力させて頂きました。
「画集」の方は、各イラストの初出・商品化検索や中表紙用「アニメージュ」など掲載資料の提供、「出発点」の方は再録用資料・イラストの検索と提供などで協力。素晴らしい仕上がりに一同感動しています。