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「高畑勲・宮崎駿の世界」第一期講義

「高畑勲・宮崎駿作品の系譜」全13回の報告

2002.4.12.〜7.12.

文責/叶 精二


 叶による講義「高畑勲・宮崎駿の世界」は、亜細亜大学国際関係学部の企画と招聘によって、2002年4月に開講しました。対象は亜細亜大・亜細亜短大各学部に籍を置く全学生でしたが、単位対象は新入生のみでした。開講に当たっては、高畑・宮崎両監督の著作、作品関連図書、主要な東映動画制作長編とスタジオジブリ作品のビデオソフトを図書館に配備して頂きました。
 第一期講義は「高畑勲・宮崎駿作品の系譜」として、約40年に及ぶ両監督の経歴を作品毎に紹介・分析することを主旨としました。毎週金曜日5時限目(午後4時10分〜5時40分)の講義で、毎回自主参加型の課外授業として同日午後6時から図書館内プレゼンテーションルームにて上映・討論会を行いました。
 以下は講義聴講者に配布されたレジュメ類と「研究所からのお知らせ」に記された各回の報告を再構成したものです。


●シラバス/講義概要(抜粋)

【授業内容】
高畑勲・宮崎駿両監督の携わった作品群の制作経緯や思想的・技術的な流れを概観し、その独創性・特殊性・優位性を検証する。同時に、アニメーションの原理と歴史を踏まえ、広域に亘るアニメーション世界に触れ、日本に於ける「省略型量産アニメ」の問題点を技術的・内容的に考察する。異端の秀作群を深く知ることで、世間一般の「アニメ」視聴態度、評価基準の是非を問い、映像全般に対する既存の価値観を見つめ直すことを主旨と設定する。

【講義計画(予定)】
4月12日 第1回 アニメーションの原理
4月19日 第2回 高畑勲・宮崎駿作品の基礎知識
4月26日 第3回 作品通史1 東映動画時代(1968〜1971)
5月10日 第4回 作品通史2 Aプロダクション時代(1972〜1974)
5月17日 第5回 作品通史3 日本アニメーション時代(1974〜1979)
5月24日 第6回 作品通史4 テレコム・アニメーション フィルム時代(1979〜1982)
5月31日 第7回 特別講義 大塚康生氏 技術者の視点から見た日本のアニメーションの歴史と現状(予定)
6月7日  第8回 作品通史5 スタジオジブリ時代−1(1984〜1986)
6月14日 第9回 作品通史6 スタジオジブリ時代−2(1987〜1991)
6月21日 第10回 作品通史7 スタジオジブリ時代−3(1992〜1995)
6月28日 第11回 作品通史8 スタジオジブリ時代−4(1996〜2001)※ 課題2 締切
7月5日  第12回 まとめ ※ 課題3 締切
7月12日 第13回 課題発表に関する講義と質疑応答(予定)※ 課題1 締切

【テキスト】
教科書は使用せず、多くの文献を参考に適時レジュメを配布して進める。
基本的には下記4冊を参考図書と指定する。(★…叶が協力した書籍。)
高畑勲著「映画を作りながら考えたこと」(徳間書店/1991)
高畑勲著「映画を作りながら考えたこと2」(徳間書店/1999)
宮崎駿著「出発点 1979〜1996」(徳間書店/1996)★
大塚康生著「作画汗まみれ 増補改訂版」(徳間書店/2001)★

【履修上の留意】
駆け足で作品歴を追うため、各ソフトは各自で鑑賞すること。
また、課外授業として少人数制の上映・討論会を毎回授業直後に開催する(自由参加)。

【成績評価の方法】
試験などは課さず、以下3点の課題提出物によって判定する。

1. レポート A4用紙1枚以下。
内容 「日本のアニメーションと高畑勲・宮崎駿両監督の諸作品について」
締め切り 7月12日(最終日)

2. 感想文 A4用紙1枚以下。
内容「大塚康生氏の特別講義(5月31日)を聴講して思ったこと」
締め切り 6月28日
3. 動画または視覚玩具 1点。
紙媒体を利用した2枚以上(上限なし)の動画、または視覚玩具を各自が自由な素材で手作りの上、提出すること。マジックロール、ソーマトロープ、パラパラマンガなどで可だが、もっと凝ったオリジナル玩具でも可。フェニキスティスコープの場合は1枚の円盤で可。
締め切り 7月5日
※ 必ず制作者氏名・学籍番号を明記、または添付すること。

なお、各レポート・感想文は、授業内容の理解度だけでなく、論旨の明快さ・見解の独創性を重視する。動画・視覚玩具については、一般的な絵の上手・下手は無視し、あくまで動画的完成度とアイデアの面白さ、試行錯誤の努力などを判定基準とする。

【課題作成上の参考資料】

●基礎データ、参考論文
高畑勲・宮崎駿作品研究所 http://www.yk.rim.or.jp/~rst/

●展示物
東京都写真美術館(恵比寿ガーデンプレイス内)「映像体験ミュージアム」2002年5月19日(日)まで開催中
三鷹の森 ジブリ美術館「動きのはじまりの部屋」(要予約)

●ソフト(本学図書館所蔵)
「不思議な映像実験室」(こどもの城ビデオ)
「課外授業 ようこそ先輩 パラパマンガがアートになった!!/岩井俊雄」(NHKビデオ)


●第1回講義「アニメーションの原理」2002.4.12.

 網膜残像と間欠運動の原理、視覚玩具とフィルム発明の体感と実験、映画とアニメーションの誕生の歴史、コマ撮り撮影媒体としてのアニメーションの広い定義、定義不明の和製略語「アニメ」の再定義(1.物語 2.セル仕様 3.低予算省略型)などの前提条件を話しました。
 中盤、10数個の視覚玩具セット(フェニキスティスコープ、マジックスコープ、ゾートロープなど)を会場に配布し、生徒さんに遊んでもらいました。友永和秀さんにお願いして描いて頂いたコマ原画を使った特製マジックスコープ、ゾートロープなどが大変好評でした。講義終了後、ゾートロープ用のコマ原画コピー約30枚を希望者に分けたところ、あれよあれよという間に人垣が出来てなくなってしまいました。
 また、講義中に世界初の映画と言われるリュミエール兄弟の「列車の到着」、世界初のアニメーション作品の一つと言われるエミール・コールの「ファントーシュ」などの抜粋を上映させて頂きました。
 参加は新入生を中心に400人前後。
 その後、図書館の視聴覚室に場所を移して上映と討論会形式による「課外授業」も行いました。テーマはフレデリック・バックの「木を植えた男」「クラック!」について。
(報告/2002.4.13.)

●第2回講義「高畑勲・宮崎駿作品の基礎知識」2002.4.19.

 講義全体の計画と概要(シラバス)の解説、課題(レポート1点、感想文1点、動画または視覚玩具1点の自主作成)の説明を行いました。
 講義は「高畑・宮崎作品の基礎知識」として、フルアニメーションとリミテッドアニメーションの技術的差異(1秒・1分単位の作画枚数などの数値を引用して実証的に解説)、超省略様式であるバンク・口パク・目パチなどの日本的技術、セルアニメーションの作業工程、アニメーター主導のディズニー方式とスタジオジブリや一般的な日本の様式の内容的な違いなどについて話しました。
 聴講生の皆さんから回収した約230通のアンケートには、「作画工程の膨大な労力を知って驚いた」「日本のアニメがこれほど止まっているとは思わなかった」などの感想が記されていました。
 課外授業では「雪の女王」(1957年ソ連/レフ・アターマノフ監督)を上映。こちらの参加人数は10人程で、上映後作品についての解説と討論を行いました。「やや長く感じたが面白かった」「丁寧な演技の設計に驚いた」など概ね好意的な感想が寄せられました。
(報告/2002.4.21.)

●第3回講義「幼少期〜東映動画時代(1)」2002.4.26.

 冒頭、前回回収したアンケート記載の各質問・意見について述べました。なかなか直接質疑をぶつけられることはありませんが、「紙に書いて渡す」という間接的な手段ではたくさんの質問・意見が寄せられ驚きました。中には「一番好きなジブリ作品は?」などという無邪気なものもありました。
 講義では、日本のアニメーション史の概略として、政岡憲三氏らの活躍と日本動画社の創設、同社が東映に吸収され東映動画となるまでを解説しました。次いで、高畑勲・宮崎駿両氏の幼少期から学生時代、東映動画の新人時代までを様々な挿話をまじえて展開しました。
 講義中の抜粋上映作品は「こねこのらくがき」「白蛇伝」、「王と鳥(『やぶにらみの暴君』改作)」「雪の女王」。
 当日配布したアンケートは220通ほどの回収率で、「高畑・宮崎両監督の過去がよく分かった」「『こねこ』が実になめらかな動きで驚いた」「台詞がないアニメを初めて見た」「『白蛇伝』の波しぶきが細かかった」「パンダが可愛らしかった」「『やぶにらみ』のアイデアや物語は現代的」「『雪の女王』の山賊の娘の心変わりに感動した」「全部見てみたい」など、上映作品の賛辞が大半を占めていました。
 課外授業では「太陽の王子 ホルスの大冒険」を上映。複雑で隠喩的な描写が難しかった為か、「豹変する村人が恐かった」「グルンワルドの袋叩きが可哀想」「北欧風の舞台で梅の木はおかしい」など物語解釈上の感想が幾つか聞かれました。
(報告/2002.5.2.)

●第4回講義「東映動画時代(2)」2002.5.10.

 冒頭、私語についての意識調査を兼ねたアンケートの提起、前回回収したアンケート記載の各質問・意見について述べました。内容は、日本のアニメーションは世界に受け入れられているのかどうか、分析的に映画を見て楽しめるのかどうか、ディズニーのシステム・作風と東映動画作品の設計上の差異等々、多岐に及びました。
 講義では、「ガリバーの宇宙旅行」の宮崎氏によるラスト変更エピソード、「狼少年ケン」で目立った高畑氏の演出、東映動画労組の活動、困難を極めた「太陽の王子 ホルスの大冒険」の制作過程や最低だった興行成績などの紹介、その技術的・内容的な革新性などについて展開しました。当初「どうぶつ宝島」までを予定していましたが、冒頭の質疑応答などで時間を使ってしまったこともあり、「長靴をはいた猫」の映像紹介までで終わってしまいました。聴講は約250人。
 回収したアンケートでは「太陽の王子」の抜粋が大変好評で、団結というテーマや抽象的表現への共感や、森康二氏作画のヒルダの演技についての賛辞が多く寄せられていました。
 また、受講生の提案を受けて、今回から作品の抜粋上映中は教室の電気をほぼオフにすることにしたところ、「集中して見ることが出来た」という感想が寄せられました。
 一方、「ジブリ作品を目当てにして来たのに古い作品ばかりで残念」「進行が早過ぎてついて行けない」「自分たちの感想にも共感して欲しい」などの意見も寄せられていました。
 課外授業では東映動画の長編「長靴をはいた猫」を上映。5人の参加でしたが、こちらも「とにかく面白かった」「追っかけが最高」と好評でした。
(報告/2002.5.2.)

●第5回講義「東映動画時代(3)」2002.5.17.

 冒頭、恒例となった回収アンケート記載の各質問・意見について述べました。前回30分以上を費やした応答の時間短縮のため、今回から「Q&Aシート」を準備して約10問に対する文書の回答を印刷・配布したところ、これが好評でした。どうも、こうした段階的で間接的なコミュニケーションが好まれるようです。内容的には「ディズニーが好きか嫌いか」という質問に対して、簡単にディズニー長編興亡の歴史を解説し、好きな作品・好きなカットもあれば、嫌いな作品・嫌いなカットもあり、ケース・バイ・ケースでしか語れない旨を答えました。講義中に何度も語っているのですが、「宮崎アニメ」「ディズニーアニメ」などという定義不明の用語では抽象的イメージだけが先行してしまい、具体性を曖昧にしてしまいます。講義では、ここ10年余のディズニー長編の監督・主なスーパーバイジングアニメーターの一覧表を提示し、これほどスタッフが異なる作品群のイメージを統一出来る筈がないと話しました。ほか、CGと手描きの差、参考資料・作品ソフトの配架時期、課題について応えました。
 講義では、前回に続き東映動画時代の晩期について話しました。
まず、1969年公開の「長靴をはいた猫」の制作経緯、舞台の高低差の活用、追っかけシーンの魅力などを紹介。続いて、「A作(フルアニメーション長編)」「B作(3コマ撮り中編)」同時制作時代の到来と長編の凋落、「空飛ぶゆうれい船」の戦車・ゴーレム登場シーンの紹介、最後の光彩を放った71年の「どうぶつ宝島」の制作経緯、船上大会戦の紹介などを行いました。その後の「長くつ下のピッピ」の企画とAプロダクションへの移籍、渡欧と版権不許可による頓挫までを話しました。聴講は230〜240人程度。
 回収したアンケートでは「長靴をはいた猫」「どうぶつ宝島」の追っかけシーンが楽しかった、黄緑色の海は海に見えなかったなどの率直な感想が寄せられていました。
 また、後部座席での私語を何とかして欲しいとの提起を受けて、後部の左右翼の座席を閉鎖したところ、「静かで集中出来た」「余計うるさくて困った」など両極の意見が寄せられました。
 課外授業では東映動画の長編「どうぶつ宝島」を上映。常連4人の参加でしたが、大好評でした。
(報告/2002.5.19.)

●第6回講義「Aプロダクション〜ズイヨー時代」2002.5.24.

 前回より始めた「Q&Aシート」を活用し、質疑応答から開始。「ディズニー長編のミュージカルシーンについてどう思うか」「アメリカと日本の演技はどう違うのか」「手塚治虫が制作したアニメの評価」といった一口で応えられない疑問が多く、約25問にB4のレジュメ3枚を費やして書面で応えたものを配布しました。
 講義冒頭、「特別講師の大塚康生さんについて詳しく知りたい」という要望に応える形で、秀作ドキュメンタリー「アニメ界の機関士 大塚康生〜動きにとりつかれた男の人生〜」の一部を上映しました。これは大好評だったようで、回収したアンケートには「70歳とは思えない情熱に圧倒された」「アニメーションの魅力は動きにあることを痛感した」「動きへのこだわり、執念を感じた」「下手でも味のある絵をという言葉に感動した」「動きの創意工夫の奥深さを見た気がする」「トメだらけのアニメに違和感を感じるようになった」などと記されていました。これまで話して来た内容をおさらいする意味でも、来週への布石としても概ね成功だったと思います。
 先週から続きの講義は、「Aプロダクション時代(1971〜1973)」。まず「(旧)ルパン三世」を制作エピソードをまじえて紹介。自動車や小道具の実証主義とアンチ・スポ根の青年向け作品という実験精神、中途スタッフ交替による作風の差、日本を舞台とした活劇など、後のシリーズとの差異と見所を紹介。今回は、続く「パンダコパンダ」2作を経て、ズイヨー映像で1974年に制作された「アルプスの少女ハイジ」までを話しました。「ハイジ」ではロケハンの敢行、一話完結式に寄らないゆったりとしたドラマ構成、全カットのレイアウト・作画監督・美術監督を1人で担う集中型のシステム、カメラワークの抑制、子供たちのためという健全な動機、原作の再現と再構築など。いずれも分析・紹介の観点は大量にあるため、羅列するだけでも時間が足りませんでした。
 課外授業では「パンダコパンダ」「同/ 雨ふりサーカスの巻」を上映。参加は7人でしたが「『トトロ』よりも子供のための作品という印象が強い」「可愛らしい」「機関車などが緻密」などの感想が寄せられました。こちらからは、快適な衣食住の描写、柔らかさや堅さなどの質感の表現、キャラクターの大小による歩幅の違いやデフォルメ、縦の構図、時間軸に忠実な演出など、技術的な見所を論議しながら紹介しました。
(報告/2002.6.1.)

●第7回講義 大塚康生氏 特別講義「日本のアニメーションについて」2002.5.31.

 今回は大塚康生氏の特別講義。参加は約250名で、学内受講生のほか、関係者の方々、スタジオジブリの方もお見えになりました。テレビマンユニオンの浦谷年良さんもお見えになり、ビデオ撮影も行われました。
 大塚氏の講義は、「あえて各作品の裏話や技術論を避けて」(大塚さんの言)華厳経の「三獣渡河」(河を渡る象・馬・猿の姿に重厚・中道・軽薄の三種の人生観を喩えたもの)の図解から始まり、日米のアニメーション比較、少年が大人を凌駕する主人像の起源など、広義に文化論的なアプローチで多角的に進められました。
 課外授業では映画「じゃりン子チエ」制作時のエピソード・解説を交えて1時間余に亘ってざっくばらんな質疑応答が行われました。
 回収したアンケート(約230通)には「現場のベテラン・アニメーターのお話を初めて聞いた」「余りに上手な絵に感激」「仏教訓話から人生の重さを教えて頂いた」など受講生の素朴な感想が多数寄せられました。
(報告/2002.6.1.)

●第8回講義「日本アニメーション時代」2002.6.7.

 前々回の続きとして、「日本アニメーション時代(1975〜1979)」を扱いました。
 「母をたずねて三千里」では、媚びない独立型の少年像、善意だけでは解決しない社会矛盾、起伏に富んだジェノバと平坦なアルゼンチンの対比など特徴的な事例を挙げながら解説。
 続く宮崎駿監督の初演出シリーズ「未来少年コナン」では、肉体の爆発力と日常描写の対比、リアル・ファンタジー路線とオールラウンド型演出の確立など、「赤毛のアン」ではユーモラスな会話劇と少女らしい装飾性の重視、時間軸の徹底、高畑・宮崎コンビの解消までをざっとお話ししました。
 なお、一部聴講生から大教室特有の私語を何とかして欲しいという要望に応える形で、今回から「私語厳禁」看板を立てることにしました。アンケートでは賛否両論ありましたが、こうした論議こそ重要ではないかと思いました。
 課外授業では映画「セロ弾きのゴーシュ」を扱い、宮沢賢治による原作の高畑監督流解釈と改変箇所、運指までシンクロさせた音楽シーン創作のエピソードなどを話しました。参加は3人でしたが、大好評でした。
(報告/2002.6.10.)

●第9回講義「テレコム・アニメーション フィルム時代」2002.6.14.

 「テレコム・アニメーション フィルム時代(1979〜1982)」を扱いました。傑作揃いの三年間を90分で扱うのは、かなりの無理があったため、鑑賞と評価の観点や制作エピソードを羅列して作品を紹介することに止めました。
 まずは宮崎駿氏第一回映画監督作品「ルパン三世 カリオストロの城」。豪華な原画・背景の布陣、カーチェイスや城屋根のアクション、城内の高低差を巧みに生かしたレイアウト、モーリス・ルブランの「アルセーヌ・リュパン」シリーズのテイストが加味された謎解きの楽しみ、そして興行的失敗に至るまでを紹介。
 「(新)ルパン三世/145話 死の翼アルバトロス」「(新)ルパン三世/155話 さらば愛しきルパンよ」の2作では、闇の武器商人を題材に「カリオストロ」の延長といえるアクションを展開。「さらば愛しき―」のロボットの原典として、フライシャー兄弟の「スーパーマン」シリーズより「メカニックモンスターの巻」の一部を参考上映したところ、これがかなり好評でした。
 一転、高畑監督作品「じゃりン子チエ」では、関西芸人の声優起用(プリレコ)、喜怒哀楽の名演技、地方の気質の体現、漫画を忠実にアニメーションにする試みなどを紹介し、知られざる大傑作という評価を提起しました。
 不遇な制作打ち切りを迎えた傑作「名探偵ホームズ」、幻の超大作「ニモ」、ボツとなった原初版「となりのトトロ」「もののけ姫」などの企画も併せて紹介。
 最後に、オープロダクションの自主制作作品「セロ弾きのゴーシュ」について、高畑監督が青年の成長譜に仕上げた理由、音楽と動画の一体化を追求した点などを紹介しました。
 参加は過去最低の約80名(W杯 日本×チュニジア戦の最中に講義が行われた影響もあり)。
 課外授業は「母をたずねて三千里」より、「第42話/新しい友達パブロ」「第43話/この街のどこかに」「第44話/フアナを助けたい」「第45話/はるかな北へ」を連続上映致しました。参加は3人でした。
(報告/2002.6.22.)

●第10回講義「スタジオジブリ時代(1)」2002.6.21.

 今回より、ようやくスタジオジブリ時代に突入。「スタジオジブリ時代(1983〜1987)」として、各作品について、概ね下記の観点で展開しました(当日配布したレジュメの一部)。

「風の谷のナウシカ」※制作はトップクラフト
・原作漫画連載と映画化の経緯
・砂漠でなく森を舞台に設定した斬新さ
・人間のエゴや自然環境との共存など深い思想的領域へ踏み込んだ点
・高畑監督をプロデューサーにするという唯一の条件
・原作漫画の解体と再構築〜宗教的領域とエンタテイメントの限界性の痛感
・異色のスタッフ編成、技術的な実験の数々

「天空の城ラピュタ」
・エンタテイメントの本流「漫画映画」への復帰〜それまでの宮崎作品の集大成
・ウェールズへのロケハン〜高畑氏のアイデア
・前半と後半の転調、飛行シーンの力業、作画〜丹内司氏、金田伊功氏、二木真希子氏、遠藤正明氏、友永和秀氏ほか
・野崎俊郎氏と山本二三氏の最強美術ヒンビの仕事〜雲の描写
・前半と後半の転調、政治的・社会的に回復しない世界観

「柳川堀割物語」※製作は二馬力
・「ナウシカ」の漫画版権料をつぎ込む
・環境回復の事実をドキュメンタリーに
・人づき合いの回復というモチーフ、古来の智恵
・日本の風土と共同体の再発見
・訃報〜広松伝氏(2002.5.15.病没)

 若い聴講生諸君がよく知っている作品を扱ったためか、これまでより集中して聴いていた様子で、回収したアンケートでも質問事項が多く講義内容も好評だったようです。
 課外授業では「赤毛のアン」より再編集版「グリーン・ゲイブルズへの道」「第7話/レイチェル夫人恐れをなす」「第18話/アン、ミニーメイを救う」を連続上映しました。参加は2人。こちらは相変わらず少数でした。
(報告/2002.6.22.)

●第11回講義「スタジオジブリ時代(2)」2002.6.28.

 「スタジオジブリ時代(1988〜1989)」として、各作品について、概ね下記の観点で展開しました(当日配布したレジュメの一部抜粋)。参加は約210名。

「火垂るの墓」
・戦中の神戸を舞台に描く
・日本人の骨格を持ったキャラクター造形
・日本家屋、日本の空を表現した美術
・近藤喜文氏による迫真の演技力とリアリズム
・モチーフは子供の疎外で、反戦一般ではない
・赤い幽霊による回想構成とラストのルミネーションで現代を照らす

「となりのトトロ」
・近過去の日本の里山を舞台に描く
・実在の雑草種を描き分けた男鹿和雄氏以下の美術スタッフ
・照葉樹林文化、縄文時代への憧れを臭わせる描写
・オリジナリティあふれるキャラクター、シンプルなストーリー

「魔女の宅急便」
・初の女性映画、和製児童文学の映画化
・宮崎氏が若手スタッフに任せた筈が監督も兼任することに
・それまでの少女像を壊す試み
・スペクタクル・シーンのサービス
・新らしい美術の模索
・飛行シーンの特異なカメラワーク

 課外授業では、「日本人を描いたアニメーション」として岡本忠成監督の「おこんじょうるり」、川本喜八郎監督の「鬼」「道成寺」「火宅」などを扱いました。参加は4人でしたが、「見たことのない描写と様式」「妖艶な魅力が素晴らしい」などの賛辞が多く聞かれました。
(報告/2002.7.16.)

●第12回講義「スタジオジブリ時代(3)」2002.7.5.

「スタジオジブリ時代(1991〜1995)」として、各作品について概ね下記の観点で展開しました(当日配布したレジュメの一部抜粋)。

「おもひでぽろぽろ」
・エピソード羅列式の原作を再構成
・実景を参考に東北地方の里山を舞台に据える
・原作尊重の過去篇とリアルな現代篇との技術差
・有機農業へのアプローチ
・20代後半の日本人女性をどう描くか〜骨格としわ描写の挑戦

「紅の豚」
・短篇〜長篇への変転、特殊な制作過程
・自称「モラトリアム映画」の意味
・子供のための映画でない理由
・実在の冒険飛行家数人へのレクイエム
・ひたすら趣味の飛行シーンを描く
・二転三転した曖昧なラストの意味

「平成狸合戦ぽんぽこ」
・実在の舞台・事件がベースの空想的ドキュメンタリー(非ファンタジー)
・安易な人間の免罪を避ける〜橋渡しキャラクターの不在
・複雑かつ多層的な物語〜カタルシスを避けた構成
・現実の住民運動への影響
・日本画の意匠・伝説を大量に取り込む
・CGの初導入

「耳をすませば」
・近藤喜文監督を起用した新体制の作品
・少女漫画のアニメーション化の意義
・「モラトリアム」からの脱却〜現代日本の肯定をどこで成すべきか
・変わらない高低差の舞台
・新しい美術の模索〜井上直久氏との共同作業
・デジタル合成の導入

 今回は課題の「視覚玩具、または動画の作成」の提出期限でした。マジックスコープやパラパラ漫画のような簡素な作品から、フェニキスティスコープやオリジナル玩具まで多彩な作品が段ボール2箱分も集まりました。中には、ノート一冊を費やして40枚を超える大作パラパラ漫画を提出した受講生もいました。

 課外授業では、「高畑勲・宮崎駿両監督が愛した海外秀作アニメーション/第1回」としてフレデリック・バック監督の「大いなる河の流れ」「クラック!」などを扱いました。参加は5人でしたが、「自然描写が克明かつ緻密だ」「台詞なしの作品だが素晴らしい」などの感想が聞かれました。
(報告/2002.7.16.)

●第13回講義「スタジオジブリ時代(4)」2002.7.5.

 今回は講義の最終回であり、レポート「日本のアニメーションと高畑勲・宮崎駿両監督の諸作品について」の提出期限でもありました。レポートは200通近く提出されました。参加は約250名。
 今回は「スタジオジブリ時代(1995〜2001)」として、各作品について概ね下記の観点で展開しました(当日配布したレジュメの一部抜粋)。

「On Your Mark」
・原子力時代の近未来感
・絶望的環境で生きることを謳う
・CGの全面的導入、「もののけ姫」のテストケース

「もののけ姫」
・時代劇でなく室町時代を舞台としたファンタジー
・子供たちの置かれている絶望的社会環境と向き合う
・網野歴史学、石火矢、タタラ製鉄など諸説の影響と取り込み
・念願の照葉樹林をメイン舞台に据える
・あえてすっきりさせないラスト
・一部のデジタル化

「ホーホケキョ となりの山田くん」
・アニメーションの意味を問う技術的な革新作
・フルデジタルで水彩画風に挑む
・コマ漫画に時間と空間を発生させる
・ひたすら演技で押し通すフィックス中心のカメラ設計
・アンチ・ファンタジー論〜「もののけ姫」の逆説

「千と千尋の神隠し」
・様々な児童文学からのヒント
・生きる力を得るための努力としての労働
・初盤と中盤以降の物語・キャラクターの分裂
・子供たちへの応援歌
・若い才能との葛藤〜若手中心の作画陣の不統一が良い結果に
・CGの背景加工などの全面活用、フルデジタル化

 何とか駆け足で全行程を終え、残り時間の2分でこれまでの講義をざっと振り返って総括し、「従来のアニメーション鑑賞姿勢、アニメーション観が少しでも変われば幸いです」と結んで終えました。幸い場内からは大きな拍手を頂きました。

 課外授業では「高畑勲・宮崎駿両監督が愛した海外秀作アニメーション/第2回」としてユーリー・ノルシュテイン監督の「霧につつまれたハリネズミ」「話の話」などを扱いました。「話の話」は「意味はよく分からないが寂寥感が凄い」などの感想が聞かれました。高畑監督がかつて文庫版で解説された内容を大まかに展開して説明したところ、「深い内容に驚いた」「もう一度見たい」などの反応も。「ホーホケキョ となりの山田くん」の「バナナとどらやき」のエピソードを併映し、「話の話」の海辺の家族との共通項や高畑監督のこだわりを解説すると、場内からは「そこまでやるか」の声と笑いが起きました。さすがに最後とあって参加も7人に増え、その後は翌朝まで学生諸君と打ち上げ会も行い、何とも賑やかな終幕でした。
 今後は250人分の成績評価を追われることになります。
(報告/2002.7.16.)

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