ユニシスのLZW特許問題

■オンラインソフトとLZW特許の関係

 最近、LZW特許に関する話題があちらこちらで聞かれる。LZW特許と聞いてもなじみがない人でも、米ユニシス社の持つGIF形式に関わる特許といえば分かる人も多いはず。LZWとは、GIF形式およびTIFF形式に使用される圧縮/展開のアルゴリズムのことで、米ユニシス社がこのアルゴリズムの特許を保持している。つまり、GIF形式やTIFF形式の画像を扱うソフトウェアで、圧縮/展開のアルゴリズムを使用するものは、米ユニシスとライセンス契約を結ぶ必要があるのだ。しかし、特許に対してライセンスを締結するのは当然のこと。なぜ、LZW特許が話題になるのだろうか?それは、これまでの経緯に問題があるからだ。

 GIF形式に絞って話を続けよう。GIF形式は元々、アメリカのパソコン通信「CompuServe」で生まれた画像形式で、256色まで利用できたことや圧縮率が高かったことから、広く利用されるようになった。当時から使用されている圧縮アルゴリズムは米ユニシスの特許ということは知られていたが、ソース内に「商用でなければライセンス取得の必要はない」という意味の一文があり、画像を扱うフリーウェアのほとんどがGIF形式をサポートした。時代がパソコン通信からインターネットへと移行しても、ブラウザがGIF形式に対応していたため、バナーやアイコンといった小さな画像にGIF形式が多用されることとなった。

 このようにGIF形式が、いわばデファクトスタンダードとして認知された頃に、米ユニシス社が「非商用であってもライセンスの必要あり」という方針を打ち出したことから、一連の混乱が発生したといえる。また、その後の米ユニシス社から出されたLZW特許に関するコメントについても、IEコンポーネントを利用したGIF表示やライセンス取得していないソフトを利用したページも告発されるのでは?といったが広まった。では、実際はどうなっているのか?オンラインソフト作者は、そしてユーザーはどうしたらよいのか?それがこのコラムを書いた動機となった。

■作者それぞれの考え

 OPTpixなどを製作しているウェブテクノロジが米ユニシス社とライセンス契約を結んだのは1997年のこと。「(GIFをサポートする)製品を出すにあたって、ライセンスを取っておかなくては」と米ユニシス社にメールしたのが最初だったが、その後FAXでのやりとりを含め、最終的にライセンスが締結されるまでに4ヶ月以上もかかったという。「特許は特許として認めるが、そうであればそれなりの(きちんとした)対応を取ってもらいたい」と、小高社長は語る。

 一方、ART Streamerの作者、長橋氏は個人でライセンスを取得している。長橋氏の場合には、交渉はスムーズに行われたようだ。だが、長橋氏も米ユニシス社のやり方には「意図的かどうかは不明だが、結果的にサブマリン特許と同じ」と不満を漏らす。

 問題はフリーウェア作者の対応である。フリーのアニメツールGiamの作者、古溝氏も米ユニシス社の方針変更後、コンタクトしたひとりだ。米ユニシス社に、Giamに関する資料を提出した後、何度か交渉したが最終的にはGIFのサポートを外している。交渉の中で古溝氏は米ユニシス社に対し「フリーウェアという概念がないのではないか?」という感じを受けたという。同様の感触は、フリーのペイントソフト、Hyper Paintの作者、Kiriman氏も感じていた。「契約内容にはフリ−ウエアという考え方は無く、全てソフトは対価を貰うものとして見なすものでした」。

 米ユニシスは、フリーウェアであっても、出荷本数の把握と1本あたりのロイヤリティの支払いを要求しているという。レジストの必要なシェアウェアならいざ知らず、転載されることもあるフリーウェアのダウンロード数の把握は現実的に不可能だ。仮に可能であったとしても、無償のフリーウェアに対してライセンス料を支払うとなれば、作者の負担になるだけだ。

 取材に協力していただいた方々の共通するのは、非営利目的に使用する場合にはライセンス不要としたことで普及した技術を、今更ライセンスが必要だとする米ユニシス社の行動は納得できるものではない、という点だ。また、米ユニシス社側からの情報公開が不十分であることも指摘していた。

 では、GIFの代替となるPNGフォーマットとその動画形式MNGフォーマットについてはどうだろう。すでに2大ブラウザ(IEとNN)の最新版ではサポートされているPNG形式だが「対応するソフトの数による」(小高氏)「普及には時間がかかるだろう」(Kiriman氏)と、GIFからPNGへは急激な移行は行われないという意見だった。

■我々は、どうすればいいのか?

 シェアウェアの作者で画像ツールを作っている場合、圧縮/展開アルゴリズムにLZWを利用するなら、米ユニシスにコンタクトしライセンスを取得する努力をすべきだろう。メールあるいはFAXで問い合わせれば、反応はあるはずだ。ただし担当者によっては、反応が遅く時間がかかる場合もあるようだ。さらに、交渉も契約書も英語なので、ある程度の英語力も必要になる。

 英語が必要という点に関しては、日本ユニシス社が窓口になってくれれば・・・という声も聞かれるが、同社のスタンスは、「ライセンスを持っているのは米ユニシス社であり、日本ユニシス社も他社と同じ立場」というもので、サブライセンスの取得や仲介を行う予定はないという。自力でがんばるか、英語に堪能な人に頼むしかないだろう。

 ユーザーの立場とすれば、GIFをサポートしたオンラインソフトが少なくなってしまうことは寂しいが、これを機会にできるだけPNG形式の画像を利用するようにしたい。PNGに対応した画像ツールも増え始めており、フリーウェアなら画像フォーマットコンバーターBTJ32がオススメだ。ビットマップ、JPEG、メタファイルなど8種類の画像フォーマットを読み込み、BMP,JPEG,PNGいずれかのフォーマットで保存できる。画像フィルタも搭載されているほか、複数のファイルを一括で変換する機能もある。ウェブページに利用する画像を作るなら、OPTpix webDesignerもいい。こちらなら、すでにあるGIF画像を一括でフォーマット変換する機能がある。

 ソフトウェア特許に詳しい弁理士の鈴木正剛氏によると、特許法の範囲は「業として生産するもの」に限られるため、仮にエンドユーザーがライセンスを結んでいないソフトを使用していても、特許の権利侵害にはあたらないという。また、LZWの特許の出願範囲は限定されていて、GIFに利用されているLZW法が米ユニシスの権利侵害にあたるかどうかも微妙だと指摘する。

 いずれにせよ、米ユニシス社がもっと具体的にはっきりとした方針を告知しない限り、ある程度の混乱は避けられそうもない。しかし、噂や憶測などに振り回されないことが大切だ。、


【参考リンク】

ライセンス窓口の紹介(日本ユニシス)
LZW Patent Information - Japanese Version(米ユニシス)
特許電子図書館(IPDL)の該当文書
GIF89a 仕様書(日本語訳)

■IEコンポーネント利用は権利侵害?
 米ユニシス社のコメントが、マイクロソフト社のIEコンポーネントやダイアログボックスの利用にもライセンスが必要であるかのような印象を与え、そうした噂が一時期混乱を起こした。この件についてマイクロソフト社に問い合わせたところ、以下のような回答を得た。
  • この問題については問い合わせも多く頂いており、きちんとした方針を示したいと思っているが、法律が絡むためにすぐには決められない
  • 現在、製品担当の部署、さらに米MS本社の法務とも、この問題にどのように対処していくか検討をしており、何度か本社からレスポンスも貰っている
  • 特に、一番関係のあるデベロッパ(開発者)の方々には、方針が決まりしだいコミュニケーションを取っていきたい
 つまり、マイクロソフトとしても問題を認識しており、いずれ何らかの明確な結論が出されるということだ。マイクロソフトから正式なコメントが発表されるのを待って、それから対応しても遅くはないだろう。

| OnlineSoft CloseUp | | Link |