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耳をすますと聞こえる過去の記憶と未来の声、
両親の死 ‥‥猫を拾う
あしか 〜育ててくれた家からの旅立ちに寄せて〜
幼い頃の父の想い出。父の鼓動それは空の音。そしてそれは父の 胸の内側にある王国の鍵。その国の王女は私だった…。
新月の水曜日、突然の事故による両親の死。王国の鍵は永遠に失 われてしまった。私はもう王女ではない。
従者に老いた犬、ジョイを連れて旅に出る。両親の築いた王国を 飛びたち、未来の音を探して耳を澄ませる。東京へ…。
東京、海、昭和の初めに建てられた洋館。この組合せは私を少し 混乱させた。
私たち姉妹はここで、まだ20代の若さの父の異父妹わか女と一 緒に住むことになる。それは、母の遺言でもあった。
翌朝早く、庭の緑の葉影で私は猫を拾う。見知らぬ誰かの声がし た。「この子もうすぐ死ぬ」…。
髪が指先までのびた綺麗で残酷な女の子、
盗んだミルク …喋る子猫
ハッカ色の蝶 ナオミの白く薄い胸 盗まれたミルク瓶
私が妹だった頃 埋められた骨
犬は吠える、がキャラバンは進む
わか女 〜母と兄の思い出〜
母の死の記憶。優しかった母。ファンタジーでなく現実として死 を知覚した私。
母の墓参の時に出会った兄。聡明な額をし、大きな手を持った人。 私に名前を訊ね「お母さんによく似ているね」と微笑んだ人。
兄の存在を知らなかったという後悔に似た想いをナツオに打ち明 ける。彼の答は「犬は吠える、がキャラバンは進む」
兄の死。私はもう妹ではなかった。
喜佐 〜ナツオとの出会い〜
寄り添ってぐっすりと眠る喋る猫と妹。散歩に出かけようと老い た犬ジョイの名を呼ぶ。男がジョイにクッキーをあげていた。
その男は私たち姉妹のことを知っていた。彼は深い灰色の目をし、 外国の血が入っているようだった。
男の名はナツオ。わか女さんの元恋人。詩人。「…詩人? ばか みたい」
珊瑚 〜ハッカ色が埋めた骨〜
月が上がる頃、目をさます。中庭に舞い降り、トイレのために手 で土を掘る。しっとりと指先に触れる柔らかい土。
「そこを掘ったら、だめ」木の枝の上から私を見下ろすハッカ色。 「あたしが埋めた骨が埋っているから」
地面の下の柔らかな鳩 ガラスの胸骨 動物園再襲撃
珊瑚 〜柔らかな鳩のような白い骨のかけら〜
「その場所には、あたしが埋めた骨が埋ってる‥‥」白いサンダ ルが宙に弧を描いてあたしが浅く掘りかえした地面の上に落ちた。
「耳を澄ますと聞こえるもの」「あんたは作り物のガラスの骨を 本物の骨の代わりに胸に埋めてる。だって、音が全然違うもの」
あたしは地面を深く掘り返す。柔らかな鳩のような白い骨のかけ らが、月の光に反射して鈍く光る。
朔 〜ナオミからの電話〜
退屈な授業。10年前のまま置き去りにされた理論。使い古しの教 師の話。熱心にノートをとる、斜め前の女。
静寂を破るように鳴る携帯のベル。「あのお喋り猫があたしの骨 を盗もうとしてるの。朔、仕返し して」
《テーゼ1》
朔 〜動物園再襲撃〜
ナオミ。僕の行動をあざ笑うように、不意に僕の前に立ち現われ、 音を響かせ、次の瞬間 金の指輪のように水底に消えて行く。
月が完全に頭の真上に昇るのを確認して“動物園”へと向かう。 静まり返る動物園。
「あたしが欲しいなら 中に、来て」白い鉄柵に手を掛け、動物 園の内側へと飛び降りる。ナオミはじっと夜をみている。
苦痛に歪む彼女の顔。彼女の胸に身体を寄せ、静かに囁く心臓の 音に耳を澄ませる僕。
皮膚の下の鼓動する内蔵 ハルシオン
月の裏側に溶けていく足元
朔 〜ナオミの胸の鼓動 死んだ人の骨 ハルシオン〜
不規則なナオミの胸の鼓動。言われるままに胸の傷に手のひらを 置く。彼女の身体の上に記されたスティグマのような傷跡。
「壊れかけているものは、自然に壊れて行くほうが、いい時もあ るもの」「壊れそうで、こわいの。抱いて 抱いていて」
「あんたはそんなにしおらしい女じゃないはずよ」エニシダの繁 みから顔を出した大きな犬。犬の背に喋る猫。
「口封じってやつをしようとしたのよ。あたしがハッカ色の骨を 見つけたから」雲が切れて、ウィステリアの棚から月光が差し込 む。
ナオミの腕に浮かび上がる無数の爪痕。「骨を掘り返されたから、 カッとして、首をしめて、ぐったりしたから土にうめたの」
「死んだ人の、骨‥‥」と歌うようにナオミ。「誰の骨か知りた い? だったら、キスして」
ナオミの唇が開く。口の中に異物を感じて目を開ける。「大丈夫、 ハルシオンだから…すぐに目がさめるわ」
「あの骨が土に還るまであたしはもう一度胸の傷を開くことはし ない」
あしか 〜藤棚の下に横たわる見知らぬ若い男〜
眠っていた私を揺り起こす猫。「骨と朔が庭に落ちてるんだから。 急いで拾いにいこうよ」
「庭に誰かいる‥‥」とお姉ちゃん。私たちは金属バットとシャ ベルを持って庭に出る。
見知らぬ若い男が藤棚の下に横たわっていた。「寝てる‥‥」と お姉ちゃん。彼の名は「牛乳屋」
勇魚とナオミ 多重人格を含む乖離性自己同一障害
そうはいっても飛ぶのは やさしい・・・・
天使も踏むを畏れる場所 永劫回帰という神話
「あなたは本当にあなただけの所有物なの?」