オーバーホール顛末


その前に・・・

 専門用語がいろいろ出てきますが、ブルーの文字はリンクで解説してるのでクリックしてね。

って・・・今日に至るまで解説作ってる暇がないので、解らない部分は読み飛ばしてください。(爆)


それは掲示板から始まった

 最近、エンジンからの異音が日増しに大きくなってはいたのである。買ってもう3年半。そろそろなんとかせねばの頃合い・・・。

 いつものようにニフティを巡回して輸入車フォーラムをチェック。ところが、この日は何かがいつもと違っていた。いつもは見ることのない掲示板を1年以上ぶりになんとなく見たのである。そして、なんと、そこには憧れのボアアップキットが売りに出ていたのだ。

 数日後、我が家にボアアップキットがやってきた。


さあ、どうするべ?

 買ったは良いけどこればかりは自力のみで組み込むことが出来ない。クランクケースのボーリング加工が必要なのである。もちろん古いクルマ故にばらす以上は同時にあちこち手を入れなくてはいけない。

 さっそく一番ご近所の専門店データコミュニケートへ。最近暇が無くても通っている避暑地である。

 社長さんと相談である。もちろん安く上げようとすれば30万もあれば組むことは可能であるが、「やるからには徹底的に満足できる仕事をしたい。」とのお言葉に屈し(笑)、ケチらずお任せする事になった。メニューは持ち込みのボアアップキット組み込みと吸排気バルブの無鉛化対策ついでのバルブ径拡大、消耗品等交換、修正のエンジンオーバーホール&エンジンルーム剥離、塗装である。

 あとは分解してみないとどうなるかは解らない。古いエンジンとは開けてびっくり玉手箱なのである。


早くも問題発生!

 走友会ジムカーナ大会への横転後初参戦を果たした翌週、早速車を預けにショップを訪れる。あいにく社長不在で最終打ち合わせが出来ずに去ろうとしたとき、ふと気になり持ち込んだボアアップキットを開封してみた。放熱フィンが少し欠けていたが問題は無さそうである。念のためメカさんに見せてみる。

 「あれ?」 メカさん、不吉な一声である。「R用かも。」・・・なにぃ?R用だと?売ってくれたのはたしかFのオーナーである。というか、そもそもR用なんてのがあったのか?メカさんは部品棚から比較用のシリンダーセットを持ってきた。並べるとたしかに違うのである。持ち込んだキットのシリンダーは1センチ弱短いのである。そう、FIAT500にはエンジンを分類するとグレードがLとF、Dの後期型までと晩年6年ほど製造されたRではエンジンブロックが若干違うのである。まさしく持ち込んだものはR用のものであった。

 幸い、R用ボアアップキットはかさ上げ用のスペーサーを挟むことで使用可能であることが判明。ホッとしつつも開ける前からびっくりである。


あれもこれもは限度を知らない

 不安な夜を過ごした。再度社長さんと打ち合わせ。

 持ち込んだキットは使用は可能である。が、重要な部分でスペーサーを挟むのである。これがただの街乗り用途なら問題はないであろう。しかし、うちのはコンビニから峠までガンガン走る戦闘車である。やはり不安。しばし頭を冷やす。

 ま、やはりやるからには不安は残したくないのである。R用ボアアップキットはご厚意により下取ってもらうことになった。Rのエンジンはノーマルで600cc。なかなかたかが50ccアップの650ccキットは装着する人は少ないのである。感謝。

 さあ、気を取り直して再度ボアアップキット選定である。とはいえ選ぶ道は二つ。普通のボアアップキットかハイコンプキットである。こうなるともちろんハイコンプ化である。値段はたいして変わらない。さらにオイル漏れまくりのミッションもオーバーホールすることに。ピカピカのエンジンのすぐ前に油まみれのミッションではエンジンもオイルまみれになるのは時間の問題。それにハイパワー(従来比)に耐えられる物かも判らないので、トラブル防止には開けてみるしかないのである。

 エンジン本体、ミッションはもう選びようがない状況で進行するものの、唯一、重大な選択であるキャブレータこと燃料気化器選び。

 650ccへのボアアップ程度であれば一回り大きな28パイのダウンドラフト型で充分である。しかし、今回のようなメニューであればそれでは役不足。高回転側で燃料不足に陥るのである。こうなれば憧れのサイドドラフトツインチョークである。しかし、高いのである。値段は一気に5倍以上である。悩むのである。今付けなくても馴らし運転程度ではまずダウンドラフト型で充分。しかし、結局後々不満が募るのは目に見えている。最初にサイドドラフト化した方が結果的には安上がりなのだ。しかし予算は既に大幅オーバー。ああ、憧れのサイドドラフト・・・。

 数十分悩んでローンを1年延ばすことで踏ん切りが付く。半分ヤケではある。これまた、さんざん悩んで社長さんが価格で折れてくれました。これまた感謝。

 サイドドラフトの場合、選択はまだ残る。大きさとメーカーである。今、巷でサイドドラフトといえばウェーバーの40パイである。これがもっともポピュラーなもので、現在も生産されているうえに調整パーツも豊富で困ることはない。しかし、1気筒あたり325ccしかない場合には少々大き過ぎると一般的に言われていて、実際にFIAT500でこれを付けてもきっちり調整しきれるショップは少ないのだ。キャブはノウハウの蓄積がものをいうのである。今回は勧めによりウェーバーの32パイを装着することになった。サイズとしては排気量に対してはベストサイズではあるものの、調整パーツが入手困難である。パーツ調達のめどがあるようなのでこれに決定。見栄えもちょうど良いのである。

 これに伴ってキャブ固定用にエンジンのボルト類の変更、エアクリーナーボックスの撤去、燃料ポンプの電磁ポンプ化、キャブの制震対策などを施す。

クランクケースクランクシャフト

 そんなこんなで予算も当初の倍ともう1台FIAT500が買える値段となりました。

 そうそう、既に分解されていた肝心のエンジンの状況はなかなか厳しいものがありました。クランクサポートメタルの荒れ、バルブスプリングの折れ、バルブガイドのガタ過大といった大きなものから各部の劣化と汚れの小さな問題はトータルすればゾッとするもの。こんなんで首都高をがんがん飛ばして峠を駆けずり回ってジムカーナまでやって良く息の根を止めなかったものだと感心するばかり。

トランスミッションエンジンカバー類

 オイル漏れまくりのミッション(左)。外した部品は全て洗浄。塗装された物は剥離されて再塗装(右)。


湧き出る問題をひとつひとつ解決

 片っ端から解決していきましょう。

 先ずは全体に施す作業が汚れ落としです。もちろん、適当に拭いただけでも作業自体は出来ますし実際そうした作業で済ませる店も多いのです。が、これでは亀裂などの傷は発見できませんし、なにより気分が悪い。しつこい油汚れを磨きまくって落とします。これがなかなか落ちません。根気との勝負。綺麗になってから細かく傷などをチェックしていきます。

 個別に見ていきましょう。

 シリンダーヘッドは場合によっては歪みが出たり亀裂が入っていることもあるようですが、幸い本体には損傷はありません。しかし、バルブガイドが摩耗していました。これは希な症状なようです。ガイドのみ交換です。また、ガイドにはしっかりしたオイルシールが無く、バルブを伝ってオイルが燃焼室に入ります。ここを最近のエンジンのようにしっかりしたオイルシールを取りつけます。これでオイル下がりを防げます。

 バルブスプリングは1本折れていました。一体いつ折れたのか。もちろん交換。

 バルブシートは無鉛化対策をします。当時はバルブとシリンダーヘッドのあたり面は燃料に含有していた鉛成分で潤滑剤の役割も持たせていました。最近では鉛入りのガソリンエンジンはありません(今でも「無鉛プレミアムガソリン」というのはその時代の名残)。対策はヘッド側に打ち込まれているシートを交換します。この作業では径を大きくしてもあまり工賃が変わりません。よって、ついでにバルブ径を大きくしました。吸排気の効率は上がります。

 シリンダーとピストンはセットで交換です。前述のように650ccのハイコンプキットです。これの組み付けにはシリンダーに合わせてエンジンブロック側をボーリング加工しなくてはいけません。このボーリング加工こそが個人作業でのボアアップに二の足を踏む元凶です。DIY作業では出来ませんから。

 こうなるとカムシャフトもハイカムに交換です。これにより吸気、排気弁の開弁時間とリフト量が増えてより多くの空気と排気ガスを流せます。

 クランクシャフトを支えるベアリングも片側が荒れてました。これも交換です。その他タイミングチェーン、各種オイルシール、傷んだボルト類などを交換します。

 そしてミッション。よくあるスプライン部分の摩耗、ギアの欠け、ケースの歪みといった重傷所はなんとかクリア。必須交換アイテムの1速ギア、カウンターシャフト、シール類を交換して事なきを得ました。

シリンダーヘッド上からシリンダーヘッド下から
洗浄後のシリンダーヘッド。本体に問題はなかったものの、バルブガイドのガタ過大でガイド交換。
 (左)折れたバルブスプリングと傷んだメタル。メタルは表面がザラザラになってます。
 (右)今回組み込んだ652ccハイコンプピストン。

クランクケースクランクシャフト

 クランクケース(左)とクランクシャフト(右)です。

クラッチディスクエンジン下から
 クラッチディスクはこんな感じで、エンジンを下から覗くと真ん中の白い丸がオイルを吸う網目の口でその上にカムシャフト、左右にピストンがちょっと見えます。


塗装の裏には何がある?

 今回のメニューでは一応サービスメニューとしてエンジンルーム内壁の剥離塗装が行われる。これは綺麗なエンジンを綺麗な所に納めたい社長の拘りでもある。もちろん断る理由は何もないのでやってもらう。

 しかし、不安要素がある。はたして剥がした塗装の裏から何が出てくるか、である。サビサビでパテだらけという事態もあり得るのである。なにしろアンダーコート塗りたくりのボロボロでとても汚いのである。

 が、不安は幸い的中せず、中はしっかり鉄だったようである。見事に綺麗なエンジンルームになった。気分がよい。

エンジンルーム塗装前エンジンルーム塗装後

 ボディもエンジンルーム内は剥離、塗装が施される。見よ!この差を!!


合体!戦闘開始!?

 全てのパーツが組み上がり形になった。調整も終了して試走である。

 当然、要所に新品パーツが組み込まれているので最初は馴らし運転が必要である。回転を4000回転リミットにして先ずはメカさんが試走。なんとも凄まじい音を残して走り去る。ますます爆音になったようだ。

 続いて自分で試走。まず驚きはトルクである。低回転側ではキャブの調整がイマイチなためかトルクが細い感もあるが回すほどモリモリとパワーが出てくるのである。もはや別物である。もう非力とは言えない車にはなったようである。しかし、やはりちょっとキャブの調整が部品が無くて不十分。カブるのである。部品が揃うまでトロトロ走るにはちょいと神経を使いそうである。

 試走を終えて翌日の納車を楽しみにしていたその夜、電話が不幸を告げるのである。そう、トラブルである。エンジンマウントに亀裂。クラッチから異音である。

 すんなりとは行かないものだ。亀裂の入ったマウントを交換、クラッチはだいぶ前から実は出ていた異音であることと原因が判っているということで今回はそのまま乗ることにした。予定通り翌日納車となった。

 出来上がり!


馴らしの旅

 納車の足でそのまま高速道路で馴らし運転開始。その日のうちに300km走ってショップに戻り、各部の増し締めまで済ませようという魂胆であった。が、日本の道は混んでいるのである。終了出来ぬまま閉店時間となった。気を取り直して翌週末に増し締めである。これで安心である。

 さて、これでは馴らしの旅にはならない。翌週にはVIVA ITALIAが控えているのだ。そのタイムトライアルに参戦予定なのである。それまでに戦えるだけの馴らしは終了しなくてはいけない。最低目標を2,000kmに定め目標地点を神戸に設定。

 だが、ここでも問題である。東名高速集中工事。見事に大渋滞にはまり一般道中心の移動となった。結局、観光がてら神戸を通過して加古川まで到達。3泊4日の旅となった。しかし、おかげで帰宅時にきっちりオーバーホール後2,000km走破である。様子を見ながらの長距離移動に加えて全開に出来ないストレスと慣れない道。さすがに疲れた。

神戸で記念撮影

 神戸ハーバーランドにて。


そして実力チェック

 早速エンジン全開である。回転リミットは5,000回転に引き上げる。

 アクセル全開。回転が上がるほどトルクが出てくる見事なまでの高回転型な味付け。そしてノーマルなど話にならないパワーである。加速はなかなか衰えない。これまで3速ともなれば何とも緩慢な加速であったが、まだまだグングン加速するのである。4速ではジワリと加速していたのがさすがに鋭さこそ無いものの、まだまだ勢いがあるのである。気が付けばあっという間に5,000回転である。時速は110km/h。まったく、呆れるくらい速くなった。

 これまで90km/hからの追い越し加速は平坦路では非常に長い助走距離が必要であった。今はさらりと加速して難なく可能なのである。これまで3速で目一杯の上り坂も4速で上がれるのだ。これは凄いことなのだ。なにしろマーチコレットより加速感があり実際の速度もかなりマーチに近い加速タイムなのだ。こんど厳密にタイム計測をしてみたいと思う。


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