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【21st Century Schizoid Band】
イアン・マクドナルド@インタビュー

ライブの反応がすごく良くてこのバンドで行けるところまで行ってみたい
ロックしに名を残す名盤として、あまりにも有名なキング・クリムゾンのファースト・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』。この作品がリリースされた1969年当時その制作に携わった、オリジナル・メンバーともいえる面々、すなわちマイケル・ジャイルズ(d)、ピーター・ジャイルズ(b)兄弟や、イアン・マクドナルド(k、etc)たちが中心となり、21stセンチュリー・スキッツォイド・バンドとしてライブ活動を開始した。ステージで披露されるのは、もちろんあの名曲の数々・・・・・・。今回インタビューを行ったイアン・マクドナルドによるとニュー・アルバムの制作も予定され、単なる懐古趣味的なプロジェクトでもなさそうだ。11月の来日の前に、キング・クリムゾンの昔話を聞きつつその全貌に迫ってみた。

■30年間のブランクが嘘のよう、曲はいまだに力を失っていないんだ

●現在(9月下旬)、21stセンチュリー・スキッツォイド・バンドでヨーロッパをツアー中だそうですね。
○そうだよ。短いイギリス・ツアーの最中なんだ。これまでに2回ライブをやったけど、オーディエンスの反応はとても良かった。
●8月にカンタベリー・フェスティバルに出演したそうですね。あれが実質的にバンドのデビュー・ライブだったのでしょうか?
○そうなんだ。すごく楽しかったよ。機材のセッティング時間がたった15分しかなくて、自分たちで機材をセッティングしてプレイしたんだ。でも、観客の反応はすごく良かった。
●スキッツォイド・バンド結成のいきさつを教えてください。マイケル・ジャイルズが言い出したようですが。
○以前からマイケルは何らかのグループを結成したいというアイディアをもっていた。また、ピート・シンフィールドといったキング・クリムゾンの元メンバーたちの間でさまざまな企画の話が交わされていて、当初ロンドンでキング・クリムゾンの歴代のメンバーを集めて大掛かりなライブをやろうというアイディアがあったんだ。それが多少変わって、結局今回のような形に落ち着いた。まずはささやかに始めて、それから徐々に進めていくのがいいと思ったから、今回のように新しい名前のバンドにするのがベストだった。今のところとてもうまくいっている。観客の反応もすごく良くて、行けるところまで行ってみたいんだ。というわけで、確かにバンド結成の原動力はマイケル・ジャイルズにあったわけだが、みんなすごく頑張っているし、リード・ボーカルとギターを担当しているジャコ・ジャグジグもとてもよくやっているよ。それに、ジャイルズ兄弟と一緒にまたプレイすることができてうれしい。特にピーターとは、マクドナルド&ジャイルズ以来だからね。
●マイケル&ピーター・ジャイルズ兄弟とは、クリムゾンを脱退した後も交流があったのですか?
○あったよ。マイケルと僕は一緒にいろいろなことをやってきた。マイケルは何年か前に僕のアルバム『ドライヴァーズ・アイズ』に参加しているし、僕は彼が作っていたアルバムのレコーディングに何度か参加したことがある。あと最近、マクドナルド&ジャイルズのアルバムのリマスタイリングを一緒にやった。ずっと友達だったんだ。
●マイケル・ジャイルズは、ソロ・アルバムを作っているそうですが。
○いまだに制作中じゃないかな。でも、その前に彼が1980年代にレコーディングしたアルバム『PROGRESS』がもうすぐリリースされるはずだよ。今取り組んでいるソロ・アルバムもじきにリリースされるだろう。ちなみに、僕たちのライブでは『PROGRESS』に収録されている曲を1曲やっているんだ。
●ピーター・ジャイルズは、これまで音楽活動をしていたのですか?
○彼はプロのミュージシャンとしてずっと活動していたんだ。自分のバンドももっているし、レコーディングもやっていた。でも、ピーターとマイケルが一緒にプレイすることは久しぶりなんだ。
●メル・コリンズは、キング・クリムゾンに在籍していた時期があなた方とは異なりますが、なぜ今回参加することのなったのですか?
○彼は僕がキング・クリムゾンを辞めてからバンドに入った人だけど、実によくやっていたよね。僕としては、メルと一緒にやれてとてもうれしいんだ。彼のことは昔から知っているけど、これまで一緒に仕事をしたことはなかったから。とにかく、一緒にプレイできてうれしいよ。スキッツォイド・バンドは、サックス兼フルート奏者が2人いるし、メルはキーボードでもかなり貢献しているので、バンドの音はより素晴らしいものになっている。とてもうまくいっているよ。
●ジャコ・ジャグジグは、キング・クリムゾンの元メンバーではないですが、どうしてこのバンドに参加することになったのですか?
○マイケルがジャコのことをよく知っていて、彼がバンドに入れようと思ったんだろう。僕は以前、ジャコと会ったことはなかったけど、彼の存在は知っていた。でも、結果的にジャコが入って本当に良かったと思う。彼はリード・ギターとリード・ボーカルを担当しているけど、時としてかなり難しい曲をこなしているし、バンドに多大な貢献をしているよ。
●初期のキング・クリムゾンの曲を久しぶりに演奏してみて、どんな気分ですか?
○子供のころに戻ったような気分だね。プレイしていてとても楽しいよ。僕としては、キング・クリムゾンの音楽がこれだけ時が経ったにもかかわらず、よく忘れられずに残っているなと思う。いつの時代でも演奏できる、いい曲だという証だと思いたいね。オリジナル・キング・クリムゾンのツアーは、マイケルと僕がバンドを辞めたことによって中断されてしまったから、これだけ時間が経ったとはいえ、当時ライブに行けなかった人たちに曲を聴いてもらえるチャンスが巡ってきたわけで、本当にうれしい。30年間のブランクが嘘のようで、曲はいまだに力を失っていないんだ。実際、ファンと話してみると、ライブで曲が聴けてとても満足しているみたいなんだ。
●イギリス・ツアーが終わってから11月に来日するまで、他にツアーは予定されているのですか?
○イギリスのあとは日本だ。あと、ヨーロッパ・ツアーの話が持ち上がっていて、今交渉中なんだ。できればアメリカでもやりたい。さっきも言ったように、このバンドで行けるところまで行きたいんだ。メンバーのほとんどはイギリスに住んでいるから、リハーサルとか僕が移動しないといけないんけど、彼らと一緒にやるのは素晴らしいことだから、僕も喜んでやっているんだよ。このバンドは音楽的に興味深いことがでいると思うから、ぜひニュー・アルバムを作って、今後も活動を続けていきたいんだ。今はまだツアー中だから、アルバム用の新曲を用意する暇はないんだけど、来年にはニュー・アルバムのレコーディングに取りかかることができるだろう。その前に、今やっているライブの大半をレコーディングしているので、それをライブ会場で手に入れることができるようになると思うよ。

■メンバー全員が経験豊富で引き出しをたくさんもっていた

●少し昔のことを聞かせてください。1960年代にロバート・フリップが参加していたジャイルズ、ジャイルズ&フリップにあなたたちが加わって、キング・クリムゾンに発展したわけですが、短期間にクリムゾンならではのヘビーかつ叙情的な音楽性にサウンドが変化しましたよね。その要因は何だったと思いますか?
○当時は、何でもできるという空気が周りに漂っていたし、メンバー全員が経験豊富で、引き出しをたくさん持っていたんだ。それをバンドに生かすことで、多彩な面を生み出すことができた。音楽的な可能性を追求した結果、さまざまなムードやテクスチャー、ダイナミクスといったものがクリムゾンに生まれたんだ。それに、ミュージシャンとしてお互いに尊敬し合っていたし、お互いを信頼していたから、何も恐れずに自信を持ってさまざまな方向へ進んで行くことができた。お互いの意見や能力をリスペクトしていたからね。みんなが同じ方向を目指していたし、バンドの音楽的方向性について意見が衝突することはほとんどなかった。初期のクリムゾンはこういった強みを持った素晴らしいバンドだったんだよ。
●キング・クリムゾンのファースト・アルバムは、コンセプトや作曲面においてあなたが主導的に作られたと言われていますが、実際どうだったのですか?
○そうだなあ・・・・・・。僕はアルバムのプロデュースにもかなりかかわっていたし、どの曲も僕が書いたものか、僕がだれかと共作したものであることは事実だけど、僕に負うところが大きかったとは言いたくないね。当時のメンバー全員が貢献して作ったアルバムなんだよ。
●このアルバムは、2度マスター・テープが破棄されたと言われていますが、本当ですか?
○マスタリングをやり直したわけではないんだ。最初ロンドンのスタジオでレコーディングしていたんだけど、思った通りの音にならなかったんで、別のスタジオへ行ってやり直したんだよ。君が言っているのはそのことじゃないかな。最終的にエセックス・スタジオで、ミキシングも含めて8日間かけてアルバムを完成させたんだ。
●また、Mellotronがサウンドの鍵を握っていますよね。どうしてMellotronを導入しようと思ったのですか?
○僕は、ムーディー・ブルースの曲で初めてMellotronを耳にしたんだ。彼らは僕らより少し前にそれを使っていた。僕はクラシックからの影響をバンドに取り入れたいと思っていたんだけど、まさかオーケストラを雇うわけにはいかなかったから、Mellotronを使うことが唯一の方法のように思えたんだ。そこで、Mellotronを探してみたところ、地元の新聞広告で見つけることができて、2〜3台手に入れてバンドに持ち込んだんだよ。こうして、僕たちはMellotronを使うことでバンド・サウンドに厚みを持たせようとしたんだ。そこでストリングス・テクスチャーなどのさまざまな色合いを出すためにMellotronという不思議な楽器を弾いたんだよね。今の水準からするとかなり原始的な楽器だったけど、それでも当時の僕たちのサウンドの幅を広げてくれたし、曲に色合いや厚みを加えてくれたんだ。
●スキッツォイド・バンドでは、どのようにMellotron音色を再現しているのですか?
○本当は本物を使いたいんだけど、あれは実用的ではない(笑)。今はメルとKORG 01W/FDをそれぞれ1台ずつ使い、ストリングスとブラス・サウンドでMellotronによるストリングス・サウンドにかなり近い音を出している。01W/FDはそれほど新しい機種ではないけど、すごくいいんだよ。僕にとってなじみのある楽器だしね。ファンの中には僕がMellotronを弾いているところを見たがっている人もいるみたいだけど、今のところは願弁してほしい。いつか使うかもしれないけどね。
●本物のMellotronを、今でも持っていますか?
○いや、持っていない。僕が使っていたMellotronは、ロバート・フリップが持っているんじゃないかな。あれはメンテナンスが大変なんだよ。特にツアーに持って行くとね。でも、本物のMellotronをライブで使っていないからといって、ライブを見に来るのを止めるようなことはしないでくれよ!音は変わらず素晴らしいんだから!
●ライブで使っているキーボードは、他にあるのですか?
○今のところはないんだ。今後増やす可能性はあるけど、まだこのバンドはスタートしたばかりだからシンプルにしておきたいんだよ。でも、01W/FDにはオプションがたくさんあるから、1台だけでもとてもうまく行っているんだ。ちなみに、本物のピアノが使えるところではそれを使っている。確か、日本では使えるはずだ。

■僕たちはエキサイティングなライブ・バンドだった

●話を昔に戻しますが、『エピタフ〜1969年の追憶』といった当時のクリムゾンのライブ発掘音源がリリースされていますが、今聴いてみてどうですか?
○オリジナル・クリムゾンによるパフォーマンスは素晴らしいと思うよ。あれが正式にリリースされて、とてもうれしく思っている。未発表音源も入っているし、すごくいいセットだ。
●当時のライブでは、オリジナル曲以外にドノヴァンの「Get Thy Bearings」を演奏していますね。どうしてこの曲を取り挙げていたのですか?
○当時あの曲を聴いたとき、バンドがインプロビゼーションをやるための曲としていいかなと思ったんだ。実は当時、スピークイージーというロンドンのクラブにドノヴァンが僕たちのライブを見に来たことがあってね。そこで僕たちがやった「Get Thy Bearings」を彼はとても気に入ってくれて、ステージに上がってくれたんだ。あれは素敵だった。
●他に当時のクリムゾンのライブに関する思い出深い話とか、何か印象的なエピソードがあれば、ぜひお話ください。
○そうだなあ、どれもそれぞれ思い出深いよ。ハイドパークで行われた屋外コンサートでは、大勢のオーディエンスに僕たちのことを知ってもらうことができた。あれのおかげで、僕たちは少なくともロンドンにおいて知名度を確立することができたんだ。でも、どのパフォーマンスも思い出深いよ。僕たちはエキサイティングなライブ・バンドだったからね。これだというものを1つだけ取り上げるのは難しいよ。ライブはいつもインプロビゼーションをやっていたので、それぞれ違っていたし、どれもエキサイティングだったから。
●1974年にクリムゾンからデヴィッド・クロスが抜けた後、『レッド』の制作で再びクリムゾンのレコーディングに参加しますよね。
○僕があのアルバムに参加した理由は、デヴィッドが抜けたからではなくて、単にロバート・フリップが呼んでくれたからなんだ。それがすごくうまく行ったんで、ジョン・ウェットンもビル・ブラッフォードも僕をバンドに入れたがったんだろう。だから、バンドあのまま続いていたら僕はまたメンバーになっていたかもしれない。レコーディングの後、ツアーにも参加しないかとロバートに誘われてね、僕も快く引き受けたんだけど、その後ロバートはキング・クリムゾンの解散を決めたんで、僕のチャンスはなくなったんだ。
●アメリカ・ツアーに向けて、リハーサルを行なったという説がありますが。
○それはなかった。僕はスタジオで新曲のサックス・パートを吹いただけだった。あの後ライブに向けてリハーサルをしていたとしたら、もしかしたら昔の曲もやっていたかもしれないね。ただ、そこまでいかなかったんで、実際のところは分からないけど。でも、僕はあのアルバムに参加できて、うれしかったよ。
●現在世に出ている以外に、クリムゾンのライブ音源を持っていたりしないのですか?
○もうないと思うよ。僕が持っていたフィルモア・ウエストのライブ・テープは『エピタフ』が出るまでだれも聴いたことがなかったんだ。でも、ああいうものって不思議なことに、常にどこかから湧いて出てくるから、未発表音源はまだどこかにあるかもね(笑)。僕たちが聴いたこともないような音源が存在するなら、リリースされてもいいと思っているので、オリジナル・ラインナップによる音源を持っている人がいたら、ためらわずにぜひ連絡してくれ!そうしたらリリースできるからね。
●現在、あなたがメインで活動しているのはスキッツォイド・バンドということになるのですか?他にかかわっているプロジェクトは?
○ぼくのメインの活動はスキッツォイド・バンドだけど、次のソロ・アルバムに向けて曲作りをしている。それから、興味があれば、ぼくは日本のバンドのプロデュースもしたいと思っている。日本には優れたミュージシャンが大勢いるからね。プロデュースはぼくの得意とすることだから、日本でぜひともやりたいんだ。ぼくの好みは割と幅広いんで、どんなタイプの音楽でもオーケ−だ。いい曲にいいプレイがあれば、なんでも歓迎だよ。僕はそういうものが聴きたいんだから。
●まずは、来日公演を楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。
○僕もだよ。日本の音楽ファンはいつも熱心で、音楽に対する知識と情熱が豊富だから、日本へ行くのは大好きなんだ。とても楽しみにしている。素晴らしいツアーになるだろう。

■出典:『キーボード・マガジン』(Keyboard magazine) 2002 December Number.295