沢野ひとし【イラストレーター・作家】 1944年、愛知県生まれ。児童書出版社に勤務の後、フリー。『本の雑誌』のイラストを創刊号より担当。椎名誠の著書をはじめ、多くの挿し絵を手がける。1991年、第22回講談社出版文化賞挿し絵賞受賞。その独特なタッチのイラストは他の追随を許さない。
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編集部 本日は装丁・挿画に関して、沢野さんが日頃考えていることや、どういうスタンスでお仕事しているのかという話をお聞きしたいと思います。 沢野 僕のイラストを使用して本の装丁をするのは、南伸坊さん、太田和彦さん、多田進さん、和田誠さんといった方が多いです。自分自身の単行本のときは南伸坊さんにお願いしています。南伸坊さんは僕のカットを小さくうまく使ってくれるんです。他の著者の本でも、僕の挿画と南伸坊さんの装丁で作ったものが30冊くらいはありますね。 編集部 表紙の紙質の選択も装丁者が決めるんですか。 沢野 そうですね。校正の段階で著者がどうしてもその紙を気に入らない場合は変更する場合もあります。ただ、同じ装丁者に何冊もお願いしていると、おのずと分かってくるんですね、だいたいイメージ通りの紙で仕上げてくれる。そういう意味でも、僕は自分の本を南伸坊さんに安心してお願いできるんです。 編集部 最近の本の装丁についてはどのようなお考えをお持ちですか。 沢野 本の装丁は年々派手になってきていますよね。最近ではコンピュータで様々な加工ができて、例えば文字をねじってしまったりいろいろいじくったりする。僕はそういった表紙の装丁は好きではないんです。なんだか読者に優しくないし、安っぽく感じてしまう。安っぽい装丁の本は何年かすると色あてしまう。逆に、そういう本は内容も色あせちゃうのかも知れないんだけど。だから、MACを使ってこれでもかと言うくらいに凝ったデザインというのは飽きちゃう、少なくとも僕は。手作り感とか肌触りのある本といつまでもつき合っていたいね。 編集部 すると沢野さんは比較的シンプルな装丁を好まれているんですね。
沢野 岩波書店や白水社、みすず書房、晶文社のように、出版社のカラーが表紙を見ただけで分かる装丁が好きだなあ。今は装丁でどこの出版社のものか分かる本が少ないですね。 編集部 以前、絵本の出版社(こぐま社)に勤められていましたよね。絵本の装丁のポイントというのはどんなところにあるんでしょうか。
沢野 絵本というのは、表紙からすでに物語がはじまってると言ってもいいんです。ストーリーの暗示が表紙に表れているわけですから。ましてや手にするのは子供たちです。抽象的な表紙にしてはいけないんです。絵本は、まだ文字が読めない子供が手にするわけですから、表紙の絵は重要なんです。ストレートでなくてはいけない。あと、絵と同様に大事なのがタイトルです。 編集部 私は本屋さんの新刊コーナーに行って、平野甲賀さんや和田誠さんの装丁した本があるとすぐに分かりますし、そのくらいの個性を持った装丁家の人がどんな作家の本の装丁をしているんだろうというふうに、逆に気になることも多いんです。なんだか、装丁家と作家のタッグマッチを見ているようでとてもワクワクしてしまうんです。
沢野 そういう楽しみはあるよね。そうなると僕はもう長いこと椎名誠と挿絵でタッグを組んでいるんだな(笑)。自分の書いた本では装丁家南伸坊さんとタッグを組んでる。 (続きは「話半分第3号」でどうぞ) |