インカレ・リバイバル                  

第2回 第7回(日光)インカレ(2)                    

宮川 達哉(HE・早稲田大学第3走者)

前夜からのものすごい緊張は、かつて経験したなかで最もきびしいものだった。テクニカルミ−ティング以降考えれば考えるほど勝算は少なく感じられ、しかも勝たなくてはならないというプレッシャ−は大変なものだった。無理矢理、朝食を押し込み、バスに乗ってもまだ緊張感は続き庄田がスタ−トするまでどうにもならなかった。

しかしながらオリエンテ−リングとは面白いものである。かつて、これほどまで実力が伯仲したリレ−のレ−スがあっただろうか。1走の中間、1走のゴ−ル、2走の中間と目まぐるしく順位が変わる。場内放送のたび歓声がわき、ゴ−ルの姿を見ようと雨のなか金網にへばりつく。そして最も面白かったのは緊張してウォ−ムアップを続ける優勝候補3校の走者たち。こうした様子を見ていると、今日のこのレ−スがとてもおもしろいレ−スに感じられた。2走中間でトップに立った。その後、最終コントロ−ルからのコ−ルはない。大橋君、石原君の顔がひきつっている。予想に反して、京大がトップでコ−ルされる。3走には個人戦11位のエ−ス山根君を使い4走は少し力が落ちるという情報を頭にいれ、彼の顔とユニホ−ムを覚える。京大に続き、東大、横国大、千葉大がコ−ル、そして私もタッチゾ−ンへ。「役者はそろった。飯山のやつ。先輩に見せ場を残してくれるなんて、よく気の効いた奴だ。」とルンルンしながらタッチを受ける。

「とにかく、相手は大橋と石原だ。山根には追いついておけば、4走で離せる。横国は放っておけば、どっかにいくだろう。」と考えながら地図を受け取る。1ではやくも、石原の影を見つける。かなり前を走っている。2への途中で現在地を少しのあいだ見失うが、コンパス走を続けリロケ−トに成功。ロスタイムなく2へ。3の後の登りで青ゼッケンの男を発見。一瞬焦るが、周回遅れの第2走者なのでホッとする。緩斜面の地形を読みきって4を発見、同時に石原を見つける。彼は隣接ポストを探しているようだ。「まず一丁あがり。」と4を後にする。しかし落とし穴はこの後訪れた。丘の上から植林地を見違えてつぼる。有料道路の車の音でリロケート。再び5へアタックすると隣接ポストをチェックする石原が上に見える。またふりだしである。6への下りで石原を再度とらえ同時にパンチ。7へ向けて走りだす。途中で彼は岩ガケのほうへ走りだす。私はここで会場から最も遠いこの辺りはHEしか使わず、しかも1・2走、3・4走がファシュタ式と考えると3走の私の位置では踏み跡がなく走りにくいはずと考え、池を迂回するには道しかないとルートを異にして7へ。ここでチェックを終えた山根君に会う。彼の後を追って8へ。8でとうとう大橋を捕らえる。9への登りで次がラジオコントロールだと知るとぴったり大橋につく。「今東大に追いついたことを会場のみんなに伝えたい」と思った。また「京大は追いついたからもう大丈夫。あとは大橋と一騎討ちだ」あとポストは3つ。今村と塙を考えると最低3分のリードがなければ意味がない。こうなると彼のつぼり待ちである。彼の走力からするとどんなスパートをかけてもついてくるだろうし彼は私が前へ行くのを黙って見ているような性格ではないことは知っている。登りでは彼の前を丘の上で慎重に方向を定め、下りでは彼の後ろを走る。彼より高い位置をキープして彼の動きに注意する。とともに、スパートをかけられた時に備える。10のアタックで山根君に追いつき3人一緒になる。彼はマイペースで10を見つけてしまう。「余計なやつが来た。これで大橋のつぼる可能性が減ってしまう」11までも丘を2つ越える。常に高い位置をキープして11のアタック。山根はマイペースでさっさと降りて沢をつめだす。大橋は丘の上での私の遅いペースにたまりかねて、前へ出る。「行け、つぼれ」と後ろから声をかけたけれど、いとも簡単に彼はポストを見つけてしまう。私も走り込んで同時にパンチ。12へはただの道走り。私が悠然と走りだすと、大橋が前に出る。彼がここから全力で走り、私がコンスタントピッチで走るとおそらく1分くらい離されるだろう。1分あると前は見えないし、今村が後から行ってもあせるかもしれない。最終ポストまでは同時にいかなければ。「あとはアンカー勝負だ」となれば、同時にタッチして今村にまかせるしかない。畑に出て舗装道路を走る。山根も私の前に出る。どちらがどこでスパートをかけるか見物だ。ここで私がいかにスパートしようとも大橋が相手ではだめだ。依然として誰もスパートしないまま、3人の集団で走る。角を曲がると学校の声援が聞こえる。ここまでくれば誰がスパートしてももう安心と思ったとたん大橋が“ウォー”と叫んでスパート。山根も後を追う。しかし私はあのスピードにはついていけなかった。アンカーだったらまずかったな、と思いながら金網の前で距離を計る。100メートルとちょっとくらいか、このくらい離れるのも面白いと思って今村にすべてをまかせた。

今村がゴールしたときはとてもうれしかった。うれしいとしか言いようがない。ゴールレーンでのウィニングランはインカレが二日間制になると聞いたときからWMのスライドを連想しやろうと考えていた。念願のウィニングラン。念願の胴上げ。そして鏡割り。最後のインカレでついに金メダルがもらえて私は幸せです。

今から思えばこんなにプレッシャーのかかるレースはもう二度と味わえないかもしれない。クラブの名誉、早稲田の名誉をかけて戦うことはもう二度とできないかもしれない。私がこんなに面白いオリエンテーリングができたのも、みんなのおかげだと思っています。前の晩、プレッシャーのかかったとき気を使ってくれた同室の細川や大保方。そして、朝ずっと私に付き合ってくれた西村に、この場を借りてお礼をいいたい。オリエンテーリングを始めて10有余年、またひとつオリエンテーリングの面白さを味わってしまいました。

(わせだUNIV.OCレポート1984年 vol.15)

※次回は第8回(駒ヶ根)インカレ第一走者、小野雅史氏です。


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