今村 悟(HE・早稲田大学第4走者)

上位3校(東大・京大・早大)の第4走者がほとんど同時にスタ−トするという異常なほどの盛り上がりのなかでスタ−トしたわけですが、東大の塙さんの姿を見たのは会場を出たあとの登りが最後で、僕がスタ−ト地点にたどり着いたときにはすでに影も形も有りませんでした。これは言い訳するんじゃないけれど、僕が遅かったというよりも塙さんと京大の長谷川さんが異常に速かったと思ってください。僕だって会場から姿が見えている間は一生懸命に走っていたんだから。こうして、取り残された僕は一人淋しく1番へと向かいポスト手前でやっと長谷川氏をとらえたのはいいけれど、この人がなかなかしぶとく、偶然コ−スが同じこともあってなかなか追い抜けなくて情けなかったですね。『追い抜けない』であって、『振り切れない』ではないところが恐ろしい。要するに僕が彼のあとを走っていたんです。

結局、前半のロングレッグでル−トが別になるまで「こりゃ下手すると3着か、4着になっちまってみんなに石でもぶつけられるのかいな…」と、ぶつぶつ独り言をいいながら一緒に走っていたような気がする。ここで長谷川さんと別れてからは本当にたった一人でレ−スを続けることになり、途中でもレ−ス展開が全くわからず絶えず不安にさいなまれて、精神衛生上あまり良くなかったですね。もっとも相手が見えれば見えたで状況が全く違ってしまい、もしかしたら焦りから自滅していたのかもしれませんが。

このように、これといってレ−ス中に面白いことは全然無かったわけで、レ−ス自体が普段の大会と同じような平凡な内容だったということです。ただ9番のラジオコントロ−ルを通過したときに役員が何かぼそぼそとつぶやいていたのを聞いてその意味を測りかね、一瞬集中力を欠いたせいか、その次のポストでボロッとミスを犯してしまいうろたえてしまった。ただ付近には全くひとけが感じられなかったので、すでに大きく離されているかその反対かのどちらかだと思っていたから、ラス前では、知らず知らずのうちに途中でル−トを変更してまで安全なル−トをとっていました。

この辺になるといい加減に疲れが出てきてほとんど本能だけでOLをやっていた感じだけれど、最終ポストをチエックし高速道路をくぐり「あ−あ、そろそろ会場から自分の姿が見えるころだぜ。いやだな−。」と思っていたら、聞き慣れた応援歌が耳に入ってきて勇気百倍、その後はもう無我夢中でゴ−ルを目指して走っていました。

真っ直ぐに会場へ伸びる道をひた走るにつれ、どんどん近づいてくるクラブのみんなの姿。そして一人一人の顔が見え、しまいには表情までもが手に取るように分かる。必死になって応援しくれている奴。抑えきれない喜びを満面に浮かべているもの。ほとんど泣きだしそうになっている子…。

「オ−イ、やったぞ−!!」と心のなかで叫んでいるのだけれども、苦しくて声に出せない。そしてその目の前でカ−ブを曲がりあえぎながら登るのだが、あれほど登りが長く感じたことはなかった。もう走っている自分の遅さがもどかしくて情けなくなった。

やっとの思いで登り切り、まるでオ−リンゲンのように華やかなゴ−ルレ−ンの中を観衆の声援を全身に浴びながら駆け抜けたときは本当にうれしかった。たかがOLでもこんなに自分が感動し、それを見ている人達と同じ感情を共有することができるんだ、と。

インカレから2週間が過ぎた今になって、団体戦の勝利は選手4人だけの力ではなくそれを支えて一緒に活動してきた早大OC全体の力で獲得したのだということを強く感じています。それに加えて、それぞれの大学の名誉をかけて集まった素晴らしいライバル達との激しい戦いがあったからこそ、その喜びもまた一層大きいものになったのでしょう。

実力差もほとんど紙一重というギリギリの真剣勝負。それだけに「もし〜だったら」とか、「誰が〜だったから」というようなことは言えないと思う。選手一人一人が自分の持っている能力を余すところなく出した全能力のぶつかり合いの結果なのだから。そのような結果の集積として得られた4人の合計タイムが、たまたま大学代表チ−ムの中でいちばん短かったから優勝することができ、しかも自分が偶然にもアンカ−を務めることができたという幸運を素直に受け入れて喜びたい。今はそんな気持ちで一杯です… 


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