始めに 巨大な災禍にみまわれた記憶があった
戦争でもなく 疫病でも天変地異でもないが
確実に世界を終わらせるもの
そのことを人々は後に知ることになるのだが それは
あらゆる窓から一斉に烏が放たれる光景であり
すがるようにそれを追うものの小さな顔であり
その唇からほとばしる言葉だった
世界はそのとき確実に終わりを告げていたのだが
誰ひとりそのことに気づかなかった
(押井守/天野喜孝『天使のたまご』)