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 もっと後になって、前の日よりももっとひどいことが起こりつづけていた頃、ハンナ・アーレントはこのニヒリズムの急激なひろがりを明断に観察していた。「新しい価値が主張されるとすぐに古い価値が転覆してしまい、その結果、裏がえしの歴史過程がつくられる。このようなニヒリズムは歴史的にはヒトラーからはじまったというより、マルクスやニーチェからはじまったと考えられる。」ニーチェもヒトラーも、それぞれ、哲学者でも政治家でもなかった。かれらは時の不可逆性に戦いを挑む青年たちの黙示録的最後通牒をパラノイアックに解釈した人間にすぎなかった。「地球と地球上の生物にとって、もう一刻の猶予もない!」

 未来のない世界、工業社会時代の革命と戦争がもたらした大虐殺は最終的に青年たち全員の願いをかなえた。というのもそれは過去(道徳的、文化的、社会的)を破壊したばかりでなく、未来の来襲も免れられるというもうひとつの利点をもっていたからである。青年は未来からも逃れたく思う。というのも未来の影とは嫌悪する老年時代の不可避の到来を意味しているからである。

(ポール・ヴィリリオ『情報化爆弾』)

 


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