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 実際『ロクス・ソルス』は、発明家エディソンが登場して、機械人形で絶世の美女を作り上げるリラダンの『未来のイヴ』(一八八六年)に、ある面では似ている。しかしリラダンの作品にある痛烈な諷刺はここにはない。たとえ現実をどのように嘲笑し、呪詛しようと、諷刺とは現実にかかわろうとする意志だ。一方、「作品は、全くの想像から生れた組合せのほかは、現実のものはなにひとつ、世界と精神についてのいかなる観察も含んではならない」と信じていたルーセルは、このような意志をまるで持たなかった。それゆえ、彼の作品にあっては、すべてが子供の遊びのように無償だ。こうして彼は、例の「方法」に助けられ、想像力ひとつで、原罪のない楽園を想像したのである。

 

岡谷公二

レーモン・ルーセル著『ロクス・ソルス』(平凡社)への訳者あとがき


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