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短評


『カードキャプターさくら』





清瀬 六朗



 丹下さくら(丹下桜の演じるさくら)の「はにゃ〜ん!!」で最近評判のBSアニメの原作である。いや〜、さいきんあちこちで言われていることではあるが、丹下桜って「年下の女の子」役は適役だと私もつくづく思うよ。はづかしいことにこの番組を見るまでそのことには気づかなかった。

 なんでBSでやる?!――などということはともかくとして、その原作である。もっとも、アニメのほうも原作者が中心になって作っているわけだから、原作とアニメとでそんなに落差があるわけではない。あらすじにちがいはあるが、原作にはケロちゃんチェックがないだけで、設定も世界観もだいたい共通している。

 いや〜、よくこれだけ読者へのサービスに徹した作品を作ることができたと思うよ。さすがCLAMP先生である。また、CLAMPがそれだけ編集者・出版者に信頼されているということだろう。

 読者サービスという点で『カードキャプターさくら』(『CCさくら』)は徹底している。たとえば、一巻はさくらの巻、二巻は知世の巻……という主要登場人物によるコンセプトで装丁されている。その巻には登場人物のカラーの口絵がついているほか、「クロウカード」デザインの栞もつけられている。そしてちょうど主要登場人物の数である六巻で第一部が完結している。ちなみに六巻はケロちゃんの巻だ。しかし、せっかくクロウカードのデザインになっとるんやから、この栞で占いでけへんもんかいな? 六枚ではむりやろか。占いできるとしたら、たとえばケロちゃんのカードは何を表現するんやろ?

 それはともかく。

 読者へのサービスは装丁などの表面的な部分にとどまらない。ストーリーも幅広い読者に楽しめるようにていねいに作られている印象がある。三巻まで、登場人物もどんどん増え、世界が拡張していったと思ったら、四巻からそれが凝縮されて行く方向に転じて、六巻でさきの六人(+一人)に関してはいちおうストーリーが完結している。さくら、知世ちゃん、李くん、ケロちゃんから山崎くんや園美さんにいたるまで、それぞれの登場人物に強烈な特徴はある。しかしすこしも奇矯ではないしいやみでもない(個人的な好みによって「イヤなキャラ」はいるだろうけど)。破綻や連載途中での設定変更が見られないのはもちろん、平凡だと感じるほどあたりまえではなく、裏切られたとかだまされたとか感じるほどトリッキーでもない。謎解きはあるが難解ではない。中国人とイギリス人との出会いという設定から、東洋の五行説と西洋の四元素説が織り込まれ、また、その両方が出会った場所としての香港も背景に採り入れられている。なかなか巧みな構成である。しかもちょうど香港返還の時期の連載作品なのである。だが、べつに五行説や四元素説や香港を知らないとわからないというわけでもない。まあ香港バブルの崩壊まではさすがのクロウ・リードも予想していなかったんでしょうね。はっ!! それとも、アジア経済混乱も香港新空港の航空貨物システムのトラブルも「乱」──コンフュージョン──とかいう隠しカードのしわざなんだろうかそうだきっとそうに決まっている。ほえ〜。

 一九九八年のアジアはやっぱり「ほえほえ」の時代である。

 そんなことはどうでもいいとして。

 『CCさくら』は『なかよし』の本来の読者にとってもおもしろいだろうし、私のような「大きなお友だち」にとっても魅力ある作品である。「幅広い読者」と書いたのはそういう意味だ。

 あるファンは「さくらちゃんが最後までさくらちゃんであるのがいい」と評していた。

 たしかに、クライマックス中のクライマックスで、あらたまって「はい」と言うのではなしに、いつもどおりの「ほ ほえ?」という返事をしてしまうところがさくらちゃんらしい。

 さくらちゃんはさくらちゃんらしさを、知世ちゃんは知世ちゃんらしさを最後まで失わないし、ケロちゃんもなぜか本来の姿に戻っても大阪弁を忘れよらへん。「本来」やったら英語か中国語をしゃべるんが「本来」やないんか?! ま、李くんの気もちだけは、すこしずつ変わっているのかも知れないけれども、それだって最初から持っていた李くんの気もちなのかも知れないしね。個人的にはその李くんを追い詰める五巻一六四〜一六五頁の知世ちゃんがたいへん気に入っている。

 『CCさくら』は、アニメ版もふくめて、読者をよく知り、その読者にどう喜ばれるかを戦略的に考え尽くすことのできるプロの仕事であるという印象を受ける。そしてそれにかなりの程度まで成功している。そういう仕事としては貴重な作品ではないかと思う。  第二部と今後のアニメ版の展開にも期待したい。それにしてもうちはBSが入らへんのや。なんでやねん! なんでやねん!!


(終)





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