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用語解説「おたく」




へーげる奥田







 1980年代の初頭、『超時空要塞マクロス』というアニメ番組が大ヒットし、大学生や高校生の中にあえてアニメを観たり論じたりするスノッブが多く現れはじめていた。彼らの間では、木曜深夜に『ビートたけしのオールナイト・ニッポン』(1:003:00)→『谷山浩子のオールナイト・ニッポン』(3:005:00)→『超時空要塞マクロス(再)』(たしか6:006:30)を続けて視聴することがディープなマニアとしての習慣であった。

 その『超時空要塞マクロス』のヒカルというキャラクターは、相手に対して使う第二人称として「おたく」という言葉を用いた。元来これは、ちょっと不良っぽい、もしくはヤクザがかった人が斜に構えて相手に声をかける場合に使う第二人称の呼称であり、少なくとも当時はこの言葉はなかなか格好がよかったため、ニヒルを気取った者は結構よく使っていた。当時アニメファンだった連中は、内心自分はインテリだと思って気取っていたせいか、この言葉を好んで使う傾向があった。

 ところが、これを勘違いしたフリーのコラムニスト・中森明夫が、アニメとか見て偉そうに論じたりして、相手を「おたく」とか呼んでるクラスに一人ぐらいはいるような暗いタイプ、というのを「おたく」だとするコラムを「漫画ブリッコ」に執筆した。これが何かの拍子に定着してしまい、「おたく」という名辞が一般化してしまったのである。

 当初「おたく」という名辞は、まだ「特殊な人たち」を指すことばで、ほとんど否定的なニュアンスで使われていた。つまり、

・図々しく、礼儀を知らない

・自分は相手に何も与えず、やたらと「○○をダビングしてくれ」とか要求ばかりする

・作家や漫画家に、相手の迷惑も無視してやたらとサインや原稿執筆を要求する

・いやに偉そうで常に相手を見下した態度をとる

・自分さえキモチよければ、他人や、社会全体のことは一切気にしない

など、社会人として恥ずべき行動をとる迷惑者として、一般のアニメやマンガファンからも疎んじられていた。ちなみに当時、「特に迷惑で常識知らずのアニメ・マンガファン」の意味として「モルテン」という言葉を蛭児神建が提唱したが定着しなかったという事情もある。

 これが、いつからかアニメやマンガファン、あるいはコミックマーケットに来るようなすべての人を指す言葉、ひいては何らかの熱心な趣味をもつすべての者を指す名辞として一般化してしまったというのが現在の状況である。

 たとえば岡田斗司夫氏の場合、この「おたく」という言葉が歴史的に持っているマイナスの意味をも含めて逆に利用し、方法論的な定義語として「オタク」を再定義し、肯定的に論じている。この語のもつ歴史的部分を知っている者としては、「おたく」という言葉を肯定的にとらえることには非常に抵抗があるのだが、あくまで方法論的な用法としてある程度わりきって捉えるようにしている。







(1997/07)






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