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へーげる奥田の

Conspicious Consumption

まりんに関する非じぇねらりずむ論


へーげる奥田





 ハイ、講義始めます。いースか。ノートいりません。クダラナイことしか言わないですから。いつものことですけど。まあ今日は『赤ずきんチャチャ』について、特にまりんに注目してぐずぐず言ってみたいと思うワケです。

 『赤ずきんチャチャ』、いいですね? みんな一応知っているという前提で喋りますから。その前にまず、まりんの表記について。私、平仮名書きで表記してます。深いイミはないです。ごく個人的なことで。えー、いや、マリンと片仮名書きにすると『海底少年マリン』とか思い出しちゃうんですよ。どうでもいいですか? あ、そうですか。

 まりんという女の子は、アニメ版においてはまあよくある主人公のライバルといった位置を与えられているように見えます。お子サマ向けですから一応。何でも「アニメのキャラクターがつけてるビキニのカッティングの角度まで規制が入る」某局テレビアニメの世界ということで。しかし、最近のお子向け、なかんずく少女向けアニメを甘く見てはイケナイ。いつまでもキラキラのキレイゴトの世界ばかりではなく、「毒」の属性を帯びた作品もじわじわと増えているのです。……とは言っても、ここんとこ始まったいくつかのお子向けアニメはどういじくり回してもキラキラのキレイゴトというか、旧態依然としたカミシバイみたいな内容だったのでアタマ痛くなって金輪際見るのやめちゃいましたけど。

 『赤ずきんチャチャ』という作品が、そういった枠内の作品であるかどうか。まあこんな文章を読むくらいの方々なら到底そうとは思ってないでしょ。そういうことでいいんです。少なくとも「原作」のチャチャは、あのアバウトな世界にあって、コドモ特有の原始的な暴力性をけっこう遺憾なく発揮するお子であります。そう、彩花氏描く原作チャチャの世界というのは、何といってもとにかくプリミティブな世界なのですね。たとえばアナタ、古事記なんかじっくり読んだことありますか? ないですか。いや別にいいです。いぜん私、つらつら読んでみたとき感じたのですが、なんて乱暴なヤツなんだこいつらとか思った訳です。ちょっと気にさわるとすぐぶった斬る。相手が返事しないからって口を短刀で切り裂く。「力比べ」と称して相手の腕をもぎ取る。これほどひどくはない(こともないかもしれませんが……)にしろ、原作チャチャの世界というのは、自然的暴力に満ち満ちた世界なんであります。

 ところがまあ、テレビアニメですから、やっぱり何らかの「枠」がいる。チャチャのペルソナは、よくある純粋培養的ベビーフェイスへと純化されちまったってワケですね。まあもっともベタネタのボケによって、正統的純粋主人公化の傾向に陥ることはある程度防がれていた訳ですが。そこにあって、アニメのチャチャをフツウのアニメから一歩抜きん出さしめた要素が、すなわち数々のトリックスターたちの存在だったわけです。

 トリックスターという概念は、民俗学なんかではよく出てきますね。秩序の破壊者と回復者との両義的位置がどうのこうの、いろいろ書いてありますから、適当に専門書かなんか読んでおいてください。どうせここで文献挙げたってみなさん読みゃしないでしょ。そんなもんです。で、トリックスター。今喋っているのはあくまで「世界観」の問題ですから、大魔王がどうのとか、そういったストーリーうんぬんは措いときます。括弧入れってやつですね。チャチャの世界観に独特の味をつけている要素のひとつとして、まりんややっこちゃんのふりまく「毒」という要素がある訳です。

 ただ、ここでやっこちゃんですが、やっこちゃんというキャラクターはまあ悪役転向のベビーフェイスといった感じがするんですよね。主観ですけど。いっとくけど今言ってることみんな主観、それも相当に恣意的な主観ですから。ツッコンじゃいけませんよ。まあやっこちゃんというのは、頼れるアネゴ肌という形で、あんまり「悪」とか「毒」の属性を帯びていない。パワーは並外れてありますけどね。レスラーで言えば、スタン・ハンセンってとこですか。外人レスラーでラフ&パワーだけど決して悪役(ヒール)じゃない。「チェストーッ」という雄叫び、なんとなくハンセンのテキサスロングホーン「ウィーッ!」ってのと通じるところがありますね。示現流魔術ですかね。どうでもいいですか。そうですか。

 一方、いよいよまりんですが、ジェットシンなんですよ、彼女は。そんなに強いっていうイメージじゃないが、何だかやたら強引なノリで乱入し、言いたいことだけ言って暴れ回っていく。原作チャチャの世界では、特にまりんだけではない。他の数々の悪意なき暴力たちと、おおむね同列に描かれているみたいですね。しかしアニメではそうは行かない。「世界」に満ちるプリミティブな毒を持ち込まず、なおその味を出すために、まりんというトリックスターはぜひとも必要だった訳です。アニメでチャチャは、まりんを必ず「マリンちゃん」と丁寧に呼んでますが、原作では呼び捨てですよね。ちなみに、原作まりんは私の知るかぎり、過去2回にわたってかなり本気でチャチャを殺そうとしています。それも、「あの子気に入らないからふでばこ隠しちゃえ」ぐらいの感覚で。まあ原作ほど強烈な敵対関係はないものの、リーヤという対象軸を中心に、対立のシンボルを一身に担う役回りとしてまりんはある訳なのです。

 ところが、まりんという女の子は、決して「強いライバル」ではない。絶滅寸前の少数民族(マイノリティ)であり、また彼女自身の体の構造は、決して「水中を自由に泳げる」といった形で描かれることなく、「水に濡れると歩けなくなる」というハンディキャップとしてのみ効果することとなるのです。むしろ彼女の位置は、「身体障害者」(ハンディキャップド)であるといっていい。熱にも弱いしね。しかし彼女の戦いは、あたかも身体障害者プロレスのごとく、みずからの弱さをものともせず暴走していくのです。世界一の魔導士を師にもち、みずからも強力な召還魔術を駆使して世界一の座にすらついた主人公に比し、基本的に彼女は「無力」です。原作漫画において与えられたせっかくの武器である超音波攻撃も「海の眷属召喚ツボ」も一回こっきりのイロモノツールとして消え、護ってくれる男性も、保護者である親も、帰属する同族もありません。その役どころから同性の読者・視聴者にも嫌われ、異性の視聴者にすら疎まれる。しかしまりんはくじけない。美少女の特権を限界以上に発露させ、「悪」をこそその属性に、「ヒキョー」をこそその必殺技にかの世界にその座を築き、睥睨する猫目に留まった機あらば読者の顰蹙ものかは強引乱入、美少女を美少女とも思わぬ原作者の暴挙に鼻血を流し白目をむくことしばしばあれど、今日もたたかうけなげな妖怪・まりんまりりんは元気であった。

 余談なんですがね、田中さんとこで獣にされたとき、まりんはワニになりましたね。私、少女のまりんというのは仮の姿であって、その正体は実はああいう妖(ばけもの)なのではないかと、ふと思うのであります。もしそうだとしたら、……えくすたしーを感じるなあ。変? あ、そう。

 ではそろそろ紙面も尽きたようで。ははは。おそまつ。

 

(1995/12)





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