[TOP] [映画についての覚書 TOP]

モンスターズ・インク

監督:ピート・ドクター
出演(声):ジョン・グッドマン、ビリー・クリスタル、
ジェームズ・コバーン、スティーブ・ブシェーミ、ジェニファー・ティリー

 「トイ・ストーリー」や「バグズ・ライフ」を作った、 ピクサー・アニメーション・スタジオの最新作。
 人間の世界と異なる次元に存在するモンスターの国が舞台。 その国のエネルギー源は人間の子どもの「悲鳴」であり、そのエネルギーの供給を 賄っている企業が、モンスターズ・インクである。 モンスターズ・インクの従業員であるモンスターたちは、 特殊なドア(要はドラえもんの「どこでもドア」ね) を使って人間世界の子ども部屋へ忍び込み、子どもの悲鳴を採取する。 しかし人間の子どもやその持ち物をモンスターの国に入れてしまうことは、最大のご法度。 そんなある日、ブーという一人の小さな女の子がモンスターの国に入り込んでしまい... というストーリー。

 ふとしたきっかけで久しぶりに映画が観たくなり、 近所の映画館のレイトショーに出かけた。 何となく、しみじみと元気の出る感じの映画が観たかった。 複合館タイプの映画館なので、チケット売り場で、 上映されている5つ6つの映画の中から どちらかというと消去法で(苦笑)選んだのがこの映画。
 ピクサーの映画は、バグズ・ライフを(これも確か消去法で)観たのが最初だった。 単なるお子様ディズニー映画かと思ったら、 昆虫の視点から見る世界がほんとうに美しく描かれていることや、 登場するキャラクター設定のよさ ─ 弱さやたくましさ、 キュートさがよく描かれている ─ に感動した。 で、トイ・ストーリー2、モンスターズ・インクと観続けている。

 で、今回のモンスターズ・インク。 これは父性愛の映画だなあ、と思った。 主人公のモンスター、サリーが、最初は単なるトラブルの種としか考えていなかった 人間の子ども、ブーに対して、徐々に愛情と責任感を持ち始め、 さまざまな困難を克服し、彼女を陰謀から守り続ける。 そして守り抜いたブーを人間の世界へ返す時、 サリーは愛し守るべき存在を失うことに悲しみ、心を傷める。 しかし悲嘆にくれながらも、彼は最後にはブーを元の場所へ還すのだ。

 父親は、いつ父親としての自覚と、情愛を持ち始めるのか。
 最近本屋で、父性や、父親としての役割などに関する本をよく見かける。
 家族病理の本などを読んでいても、父親不在に端を発する家族の病の話がよく出てくる。 それだけ父親の意義が問われている時代なのだろうか。

 父親の役割 ─ それが本質的に何なのか、私はよくわからない。 ただ最近読んだ本で素直に納得できたのが、父親の役割は、 放っておくとどんどん甘やかに密着してゆく母親と子どもの関係を引き剥がし、 基本は夫婦の愛情関係だということを、 母親(そして子ども)に認識させることだという説だった。
 そして父親がその役割に失敗すると、家庭内には母子密着、父親不在の構図ができる。 これはさまざまな家族病理を引き起こす。 父親は妻と子どもへの愛情をもって、母子密着の絆を断ち切らなければならない。 エディプス・コンプレックスへの健全な対処。

※ あ、ひとこと付け加えておくと、 この本では別に母子家庭などを否定してはいません。 母子家庭では母親が父親の役目を兼ねるよう努めることで、 役割に失敗した父親が中途半端に(苦笑)存在するよりもはるかによい状況であろう、 ということが書かれています。 (「家族依存症」斉藤学、新潮社)

 そして、これに失敗してしまう父親は、 最初「妻と自分の間に存在する異物」として発生した「子ども」を、 その後もずっと「異物」としてしか捉えることができない。 要はサリーが最初「自分の世界にあるまじき異物」としていきなり現れたブーを、 次第に「情愛を注ぐ、育て守るべき対象」と見なしていったように、 子どもに対する愛情へと気持ちを変化させていくことができないのだ。

 なんとなく、この映画を観ながらそんなことを思ったりした。

 と書きつつ、えーと、とりあえず補足しておくと、この映画自体は そんな面倒なことを考えさせるような出来の悪いものではなく(苦笑)、 キュートで上質のエンターテイメントです。念のため。

 子どもの頃、夜の9時はもう真夜中だったこと。
 夜寝るとき、オバケが怖かったこと。
 ふさふさの、大きな頼もしいぬいぐるみ。
 クローゼットのドアを開けると、そこには見知らぬ世界があるかもしれない。
 (これはナルニア国物語だよね。笑)
  ・・・
 いろいろな懐かしい感じを思い出しました。 この映画のキャッチコピーもずばり、

扉の向こうには、見たこともない世界と
なぜか懐かしい思い出が、
待っています。

2002/3/29, 港北109シネマズ
2001/4/8 記


[TOP] [映画についての覚書 TOP]