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未来世紀ブラジル

1985年(米・英) 原題:BRAZIL 143分
監督:テリー・ギリアム
出演:ジョナサン・プライス、キム・グライスト、ロバート・デ・ニーロ

 テリー・ギリアムの近未来SF。 凄まじい管理社会の悪夢を独特な世界観で描いた作品。
 主人公サムは情報を管理する役所に勤めている。 夢の中で恋している天使とそっくりな女性ジルに出会って彼女に恋をし、 ともに政府から追われる立場になっていく... 。

今回、ネタバレ度大です。:-)

 ぜひ一度観たかった作品。今回リバイバルで放映されていたので、 早速観にいきました。
 でも... わからない映像があまりにも多すぎる! 圧倒的な映像のイマジネーションと監督のカルトな感性は感じまくるのですが、 前半、あまりにわからなさすぎてところどころ寝てしまいました(笑)。 というか映像はぼーっと観ていたんだけど...半覚醒状態って感じ? 字幕も音声も見て(聞いて)ないよー状態(苦笑)。 ちょっと寝不足だったのと、 ブレード・ランナーと続けて2本観たのが敗因でしょうか。 うーん。言い訳かな?(^^;)

 でも中盤からちゃんと目を覚まして観てたら結構すごいことになっていた。 主人公の現実世界と悪夢の世界が、際限なく連続して描かれます。 そして、普通は夢の世界はとてつもなく不条理で、現実は違う... んだけど、 この映画では現実世界も夢の世界もどちらも途方もなくグロテスクで、キッチュで、 超ブラックで、途切れ目がわかりません。
 笑えない(私だけ?)コメディがいくつも挿入されていますが、 これは笑わせようとしてないんだろうかなあ、きっと。 あまりのブラックさにちょっと苦笑してしまう程度でした。 実際、映画館では誰一人として笑っていなかったし... (^^;)

 究極の管理社会はとてつもなくアナログ的に描かれていて、 タイプライターで電話の内容を書き取り、コピーし、カタカタ... と音の鳴る プリンタで出力されます。 そんなアナクロな代物をもとに人間を管理し、間違って違う人を殺しちゃったりする。 もの凄い管理社会というバックグラウンドなのに、この徹底的な アナログさはおもしろかった。監督の趣味なんでしょうか。

 観終わって思ったんですが、私、きっとニ回観ても三回観てもこの映画、 分からないんだろうなあ。 というより、分かる・分からないを考える映画じゃなく、 映画の持つイマジネーションやカルト性を感じて楽しめれば勝ちって感じなんだろうと思いました。 しばらく時間を置いてまた観てみたい気がする。 きっと何かまた違うものを感じるんだろうな。 でも '今すぐまた観たい' とは思わないのですが...(笑)。 主人公の顔、キライだったのが大きいなあ。(^^;)

 'ブラジル' って最初何のことか分からなかったんですが、 映画の中で何度も繰り返し使われる曲だったんですね。 軽快なラテン音楽。あまりに明るすぎて怖い。 そしてそれがなぜかこの映画にすごくハマってる感じがする。 どういうセンスなんだろう。すごいです。

 最後のシーンで、主人公は恋人と管理社会を脱走し、 郊外の美しい草原をトラックで滑走する。 それまでの人工物だらけの世界から一転、大自然の中へ。 一瞬、あまりの落差にはっと目が覚めるような思いがする。
 ああ、こういうラストなんだ... ハッピーエンドなの? ... と一瞬思った。 でも違う。ラストはとてつもなく暗い。 全てが終わり、幸せそうに笑い続ける主人公の映像が流れる中、最後の 'ブラジル' が鳴る。 あの美しい草原が彼の夢だったのかと思うと、切ない。

 (注)ラストは3種類ほどあるようです。

 人間の素朴な感情なんて、何の感慨もなくひねり潰されてゆく。 でも全編コメディなんだよね。超ブラックだけど。 'ブラジル' に描かれる社会はあまりにも異常すぎ、 登場人物も皆どこかおかしい奴ばっかり。 そして救いも何もなく突き放される、衝撃的なラストシーン。 あまりにも救いがなさすぎて、 'ああ社会に生きている限り人間の感情なんてね' といった、かえってさっぱりした感じがありました。 この映画では一切合切潰されるけど、現実だって多かれ少なかれ、 どこかで潰される部分はあるよね。 いい悪いではなく、'おそらくは必要悪'、あるいは '人間にとってはそれが自然' といったところで。

2001/8/12, 吉祥寺バウス
2001/8/12 記


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