1月9日
テレビをつけると、何がありよっとじゃろか、とテレビに見入る。金子みすずの詩からなる日めくりカレンダーを渡すと、何が書いてあるやら分からんねぇと言いながら、ためつすがめつする。
今日も、キャンディ・キャンディ頭。
これ、よしあきさんだよ。デジタルカメラの画面を見せると、よしあきさん、は、誰かねぇ。
時々テレビドラマに気がつく。何のありよっとかい。あれは誰たい。
おれは今、誰と寝よっとかいね。誰でん、どぎゃんしとっとかねぇ。わたしはどうもなか。ほんとは年寄っとよかばってん。
名前書いてみて。
震えるような字で、小山えつ、と書いた。
わたしは? と聞くと、小山ゆき、と書いた。
マリは? と聞くと、えつ、と書くので、聞き違えているのだろうと思って、もう一度聞くと、やはり、えつ、と書いた。
しづは? と聞くと、しづ、と書いてから、誰じゃったかねぇ。
よしあきは? と聞いても、もう飽きたらしい。書くことはおろか、口にすることもしなかった。
1月30日
出かける前に届いた「まきばメール」に、セミロングに髪を切った、と書かれていた。はじめて髪を切られることに同意したんだなぁ、と感心しながらも、セミロング、とは合点がゆかぬ。なんて中途半端なこと、と思っていた。
妹のマリとエレベーターをあがると、エレベーターの前に、昼食を終えた人たちが、大きなテレビを見たり、車椅子に座ったまま昼寝をしたりしていた。
セミロングなんだって、と言いつつも、それらしい姿はない。ほとんどショートカットの人ばかりで、切ったとは言え、セミならばすぐそれと分かるはずだ。ざん切り頭のばあちゃんが、つんのめりながら昼寝をしている。あ、ばあちゃんだ。あまりの短さに、違うよ、セミロングじゃないじゃん、ばあちゃんじゃないよ。とマリは否定する。顔も違うもん。でも、やっぱりばあちゃんだよ。
眠りこけていたせいもあって、顔の形も違うように見えたが、やはりばあちゃんだった。見事なショートカットだった。生まれて始めて、あんなに短くしたのではないだろうか。
まきばメールに「セミロング」と書いた婦長さんが、部屋に来て、何度も何度もお茶らけた。誰が書いたの? あ・た・し。ばあちゃんは、あまりに賑やかな客に閉口したのだろう、ほおづえをついて、そっぽを向いていた。
マリの毛糸のセーターを見て、そん上っぱりは、あたたかそうたいねぇ。
シュガーレスの紅茶を一口飲んで、まずい、あんた、喰うてみれ。お茶でもないのに、砂糖抜きなんて、ということだろう。
1月生まれのばあちゃんとマリ。2月生まれのわたし。一緒くたに誕生祝いしてしまおうと、ショートケーキデコレーションとでも言えそうなものを見つけたので、これを買って来た。苺と生クリームのショートケーキだが、三、四人分ぐらいの大きさ。紙のお皿に切り分けて、プラスチックのフォークで食べた。紅茶にしかめた顔が、ケーキにほころんだ。皿の上にあるものは食べたが、いつもの貪欲さがいまひとつで、残りのケーキに、おっ、それはなんねと笑いつつも、新たに手を出そうとしなかった。
風邪をひいて、数日目らしい。青洟がつまっていた。ほじくり出そうにも、なかなか取りきれない。痰がらみの咳が苦しそうだった。することがなくなると、すぐにうつらうつらしていた。