ばあちゃんの人間関係


PAINT[Makiba-en] とある一室に、ばあちゃんは住んでいる。
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 四人部屋の仲良し三人組は、それはもう、園内中の評判だった。

 誰か一人が、今日の行事には出ない、と言うと、
 わしも、わたしも、とみな部屋に引きこもる。

 長い髪を頭の上にちょこんと丸めたばあちゃんが二人で、
 お互いに髪を結い合っている風景など、それはそれは微笑ましく。

 あんまり長く一緒にいすぎたせいかもしれない。
 とは、ケアスタッフの声。
 段々仲良しが「仲悪し」になってきた。

 うちのばあちゃんには、人の物と自分の物との区別などもうつかない。
 でも、貧乏性は根っからしみついている。
 そのへんにただ置いてある、ように見えるものは、
 手当たり次第、自分のところに持ってきてしまう。
 つまり、「泥棒」だ。

 と言ったら、痴呆のお年寄りはみんな「泥棒」になっちゃうよ。
 と、ケアスタッフに言われた。

 同室の仲良しばあちゃんが、ばあちゃんのそんな「痴呆症特有の」行動を目にした。

 ほかのことに紛れて、誰も何も忘れたころ、
 同室のばあちゃんがふと思い出して、うちのばあちゃんを罵った。
 ちょっと前のことなどすっかり忘れているばあちゃんからすれば、身に覚えがない。

 その繰り返しが、沸騰し始めたころ、ちょうど見舞いに行って、
 二人の言い争いを耳にし、目にした。

 端的に言うと、内容はともあれ、二人ともかなり正気だった。

 どんなにぼけていても、
 身に覚えのないことで罵られたり、人が不正な行為をしているのを目撃したり、
 といったような、
 「自分が自分であること」というところに大きく関わる問題となると、
 人は「正気」になるのかもしれない。

 ばあちゃんが「泥棒」? ということと、仲良しグループ解散? ということと、
 ぼけてもなお自己防衛本能はなくならないのか?
 自己防衛のためには、あれほど激しい罵り合いもするのか? ということなどで、
 なんだか、暗然たる気持ちになって、長い道中帰宅の途についた。

 12月現在、二人は部屋が別々になっている。

 今度クリスマス会がある。 なごやかならいいんだけれど。

PAINT[grandma's X'mas] (GIF/24K)


 風邪見舞いに行ったときも、ロビーに、三人組のうちの二人が座っていて、
 わたしの顔を見るや、
 ああ、おばあちゃんのところに来たのかい? ありがとうねぇ。
 と、いつものように、挨拶をしてくれた。

 別室になった人は、食堂などで会うときは、
 うちのばあちゃんとも仲良くしているそうだが、
 自分の部屋に戻り、一人になると、ぶつぶつ言い始めるらしい。
 なぜ苛々しているのか、もう分かってはいない。

 具体的な原因は忘れてしまっても、「恨み」だけが残るのだそうだ。

 くわばら、くわばら、Shockwave、もう用意してあります?

そぎゃんことのあったかねぇ。 年中行事はもう見んでよかね?
最初のメニューに戻りたか。 もう帰ると? まだ早かよ。


しつこかぁ、思うかもしれんばってん、
なんか、思うこつのあったら、 あったらでよかよ、
電子メールばくれんね。