“極私的”志穂美悦子ディスコグラフィー byゾンビ


◇「女必殺拳(ドラゴン)志穂美悦子 参上」
デヴュー・シングル「13階段のマキ」、セカンド・シングル「影法師/白いシャツ」収録のファースト・アルバム。

タタキ文句が「燃える必殺拳のかげに女ドラゴンのやさしさをみた」というだけあって、オープニングは女必殺拳シリーズのテーマに重なる気合いの嵐。一瞬の静寂から「人は何故、傷つけあうの?人は何故、血を流しあうの?」という、ナレーション。さんざん、悦子「とおおお!」、男「ぐわっ!」、悦子「きえーし!!」、男「ぐげっ!」とやったあとで、「人は何故、傷つけあうの?」とくれば、現在なら、つっこみをいれたくなる状況ですが、あの、スクリーン上、戦えば戦うほど、悲しい顔になってゆく悦子さまがオーバーラップすると、とてつもない説得力を持って胸をえぐられました。 続く、このアルバムのベスト・トラック「影法師」。音程的にも、メロ的にも無理がなく、本当に「いい歌」でした。単調な旋律のくりかえしとストーリー性のある歌詞が、夕暮れの浜辺にたたずむ悦子さまをイメージさせました。(って、セカンド・シングル・ジャケットそのままですが。)私の口の悪い友人は、「なんだ、これ、島倉千代子か?」などと、ばかにしておりました。
 全体的に、民謡、童謡、演歌調歌謡曲で、色恋は大きな地位をしめていません。望郷「故郷の母さんへ」、「涙が乾けば帰れない」、年上のお兄さんへの憧れ「拳のかたい人」、おとぎ話「お陽様と坊や」などなど。恋愛歌詞といえば、当時のアイドル歌謡風「恋はいたずら」、'ついていきます'「あなたが笑うとき」。特筆すべきは、別れた彼氏への想いを歌った「ひとりぼっちの部屋」。ゆったりとしたボザノバ調で、とても清楚で上品です。途中はいる「語り」もいい。これも、ベスト・トラックです。この種の曲は通してみるとやはり、対等な恋愛ではなく、年上のカレに憧れる妹的恋愛ばかりの印象があります(やっぱり)。東映の映画に足を運ぶ世代を購買層にねらってたのかなあと、今になって思いあたります。
 悦子さん作詞の「忘れられた世界」という曲もあります。 この中にあって、「13階段のマキ」というのは、むしろ、(梶原作詞だから、当然か?)異色作です。ついでながら、「13階段のマキ」シングルB面、LP未収録の「夜明け前」というのも、また、梶原作詞で、当時の私にも異様でした。 歌が苦手だったせいか、ナレーションが4箇所、あの、はなごえがかった魅力的なボイスで堪能できます。今まで、私が買ったなかで、もっとも愛聴したLPで
す。

◇「恋のサタディ・ナイト」
 前作は「森昌子」的な作品が大部分をしめ、当時のティーンには「???」世界でした。較べて2作目の本作は、若者に焦点を絞ったのか、親しみやすいポップ、ディスコ、フォーク調の歌謡曲。歌詞の方も、まあ、年上のおねえさんのウキウキ恋愛談であるとか(「下町にはあなたがいて」、「彼の車はオンボロ車」)、シリアスな恋愛の決意であるとか(「ふたりだけの結婚式」、「あなたがすべてと言える時まで」)、ちょっと恋の冒険してみましょうとか(「恋のサタディ・ナイト」、「誘われてYOKOHAMA」、「金のピアス」)、旅情によせる思い出とか(「旅の途中で」、「ノスタルジア」)。年令的にも、シチュエーション的にも、役割的にも、「素顔の志穂美悦子さん」に重ねあわせることが、容易な作品群でした。
 歌も格段に上手くなり、表現力もいや増し、「あたし……、どうしちゃおうかしら……」的な恋愛歌の「誘われてYOKOHAMA」、「金のピアス」なんかには、本当にどきどきしちゃいました。
 ベスト・トラックをあげるなら、少年との微笑ましいエピソードを描いたフォーク・ロック調の小品「旅の途中で」。悦子さんにぴったりの役で、シンセサイザーの響きが美しく、声にもよくあっていました。

   旅の途中で(作詞 中里綴)

   貝殻を手にして 砂浜に佇む
   旅の途中の 海辺の町で
   小さな待ちあわせ  
   麦藁の帽子で ゴム草履鳴らして
   駆けてくるのは 少しおませな
   昨日の男の子
   岩かげの小ガニを つかまえておどかす
   そんなしぐさに 心が和む 
   笑顔忘れていたから

   水しぶき跳ね上げ 手をつなぎ走った
   この町にいて 行っちゃいやだと
   何度も繰り返す 
   朽ち果てた小舟が 夕焼けに染まれば
   旅の続きの 汽車に乗るのと
   言ったら泣きだした
   指きりげんまんの 約束破ったと
   涙をためて 見つめる瞳
   忘れられない 今でも

 紅竜が、桧垣由美が、流矢ミチが、こんな休暇を過ごしていたとしても、けっして不自然ではない! まるで目に浮かぶようじゃないですか。
 しかし、当時から不思議だったのが、このジャケット。白い帽子をかぶっているのか、それとも長袖の腕で髪をかくしているのか。いまだに謎です。

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