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041105

私に向かって 「あんたは自意識過剰だよ。もっと楽に生きな。」とか「賢しらに何を言っとるんだ。働け。」
などと忠告、指図できるのは神様だけだ。
どうやら神様は自分の周りに沢山いるらしい。

自分を見つめ直す。身の程を知る。気持ちの整理をする。襟を正す。自分に言い聞かせる。
無駄遣いをせぬ様、財布をタンスにしまう。日差しの強い日は帽子を被る。
口を噤む。見て見ぬふりをする。見たようなことを言う。

昔の自分を思い起こす。その時その状況で何を考えていたか、それを探っている時はまるで他人事の様な感覚。
自らの意識を辿ろうとする事に客観的な意識を覚える。自分を俯瞰で眺めた時に感じるその意識は「見合い」に近い。
改めて自分を見つめ直すと、まるで他人のような自分と目が合った。
挨拶も交わさず、当たり障りの無い世間話もすることなく、私と私を見つめる私はその瞬間打ち解けあった。
しかし、互いに混ざり合う事はなく、最後には違えた。

自分への「手土産」は矢張必要だ。そうすれば、少しは話も円滑に進むだろう。
ゲームソフトと大量の漫画を買い、私は自室に引き篭もる。

外界へ出る機会も口実も理由もある。命令の時もある。
引籠りが引籠りたり得る所以はその機会と口実を自ら進んで潰し、理由を盾に命令を流す。という処にある。
精神性出不精。こんな呼び名でいいだろう。
大したもんじゃない。
引籠りなる言葉が都合よく使われている昨今ではな。

「空の下と部屋の中。どちらかに一生閉じこめてやる!うっひっひ。」

神様はこう言った。私と瓜二つの神様だ。





041107

「床には沢山のカーテンが引かれている。その隙間からは見慣れない視線が見え隠れしていた。
カーテンがたわむと現れるそれに視線を合わせようと試みたが、どうしても無理だった。
背面に映るロウソク立てに目をやると、蝋人形の首はもう燃え尽きて無くなっている。
靴だけ残った蝋人形があちこちにある事に気づいた。紳士用の靴よりもハイヒールが多い。
ワインに注がれたグラスを丁寧に掻き回すメイドは割れたグラスに気づいていない様だ。
メイドの手がワインに浸される度に、ワインはその濃度を変えた。
元から赤ワインであった筈だと願いつつ口に含むと、メイドは私をみて口元を緩めた。
壁には女性の乱交が描かれた絨毯。手触りのよい丸みに魅かれ体を預けたが、急に刺々しくなった。
私より先にその絨毯に横たわっていた女のドレスは絨毯と同じ模様をしている。
調度品の類いはよく見るとかなりの年代物だ。その品格の高さで主賓が霞んでみえた。」

ドアノブを丁寧に外す。ステンレス製のよく磨かれたノブ。自分の顔が映り込んでいる。
ノブを外したドアの穴から反対側を覗く。
ステンレスのドアノブが見えた。私はそれを外せない。

「主賓はメイドにひざまずいている。私のダンスの相手はまだ見つからない。
天井へ落ちていくロウの滴。乱交模様の絨毯の上で踊る人々。溶けきった蝋人形。
グラスを掻き回すメイド。調度品に嫉妬する主賓。」

私のダンスの相手はまだ見つからない。
この光景が妄想だと気づくまでには、まだ時間がかかりそうだ。




041108

医者に入院を勧められた。理由は答えてくれなかった。

私は途方もない数の病室が並ぶ廊下を歩いた。廊下の形は俯瞰で見ると文字の形状をしているらしく、
それが院長の名前を模っているのだと病室の鍵を私に渡した看護師は云っていた。若い女性だった。

「この病棟はとても複雑な形をしているから、迷わないように気をつけてくださいね。
でももう一つの病棟は簡単な造りになっているんですよ。全部ひらがなだから。」
私が名前を聞こうとすると彼女は悲しげな表情でこう言った。
「でもね、もうすぐ取り壊されて違う病棟が建つの。」

どの病室にも鍵穴は見当たらない。私は自分が入るべき病室に辿り着けないでいた。
私はこの病院に入院する。その理由は、まだ知らない。





041109

自宅の庭先から線路が延びている。線路を辿っていくと自分の部屋へ到着した。
部屋には石炭をくべる釜があり、番号が振られたスコップが壁に数本立て掛けてある。
蒸気機関の列車の汽笛が家中に響く。
私は自分の掌に刻まれた番号と同じスコップを手に取り石炭をすくい上げた。






041110

ここは部屋の中。ですが窓を開けると、お空が。
わたしは部屋の中。でも口を開くと、なにも。
口を噤んでお部屋にひとり。素敵な色した、お部屋にひとり。
お空の雲とわたしとひとり。
お部屋のなかに雲。とてもはやく流れて、見あげると消える。
お部屋のそとに雲。なにもない青いお空は、見あげると消える。
目を塞ぐとみえる、お空と雲。







041111

「この手紙をあなたに。読まれたら、私を追いかけてください。白い毛糸をたどって。

今、わたしの目の前。すぐ目の前にとっても広い青いお空があります。とても、とても広いお空。
わたしは思うのです。わたしの目を、体を、どこに向けてもこのお空を見る事が出来ればと。
このお空の中にいつまでも居られればと。そう思うのです。
わたしが立っているこの場所、お空の中にあるのでしょうか。
どこからがお空なのでしょうか。あの白い雲がその境なのでしょうか。
あのお空へ行きたいと願っております。
わたしをあの白い雲の向こう、お空へ連れ出して頂きたいと願っております。
わたしの目の前に壁があります。自分の背丈よりも少し高い位の壁です。
どこまで続いているか解らない程長い壁。真っ白な壁。
わたしはこの白い壁を辿って歩いています。
まるで雲のように白い壁。どこまで続いているのでしょうか。
白い毛糸の先、置いていきます。わたしが歩き出した場所。
わたしが居なくなった、白い毛糸の先。」


この手紙を読み終えた私は歩き出す。
ずっと地面をみながら、空を見あげる事も無く。







041112

日差しの強い中走ったせいだろうか、ひどく咽が渇いた。
このあたりに店らしき建物は見当たらないので一服を交えつつ冷えたコーヒーを口に流し込める筈も無く、
どこかの公園の水飲み場を探すしかなかった。
しかし見つけたとしてもこの気温だ、気が遠くなるほどぬるいか、飲んだ事を後悔するしかないくらい
熱くなった水が節操なく吹き出してくるのは大体予想が付く。矢張こんな日は冷たい水分の摂取に努めるべきだ。
私は氷を探しに走った。





041113

どんな複雑な迷路でも出口はある。出口がある以上は決まった順路がある。
私はその迷路の答えを早々に見つけ、何年も入口と出口を往復し続けている。
たまに各種工事、あるいは地主の都合と行政の梃入れというやつで順路が変更される場合もあるが
しばらくすればまた元に戻ってしまうし、また戻らない場合もある。一定の景観を保ちつつも毎日何かが変わっている。
変わっているとしても私には関係のないことだ。それが自分にとって必然的なことでも運命的なことであっても。
私は終点と始点を行き来するだけ。この道は給料と寝床を繋ぐ、只の順路なのだ。

迷路のような街の中に、私の通勤路。
迷う事なく今日も同じ道を辿る。




041201

この道沿いには遮蔽物となる建物が全く無く、道幅も広いので見通しはかなりよい。
待ち伏せには不向きというか不可能に近い場所だ。せめて伏射姿勢を保ったまま身を隠せる程の
草むらでもあれば良いが、生憎タンポポぐらいしか見当たらない。
無いよりはマシだとよく言うが無いほうがマシだ、とも言う。
僕はタンポポを一輪摘み銃身の先端にそれを結んだ。
照準を覗くとタンポポの花が視界に映り混む。
花越しに銃を構えた敵の姿を思い浮かべてみたが、自分の思考を呪う結果となった。
それにしても敵は現れない。
僕はタンポポの茂った草むらに寝そべった。雲の向こうから飛行機が飛んでくる。
五機、六機、かなりの大編隊だ。
こうしてみるとタンポポの種が空に舞っている様にもみえる。







041205

鍵穴の付いた筆箱。その中にペンを隠している。
インクの無くなった、もう描けないペン。
僕はペンを隠した。
インクを握った奴らが狙っている。








041208

水を私に飲ませろ。水を私に飲ませろ。

と言い続けるだけのロボットに手を焼いている最中だ。
メンテナンス不要という謳い文句の広告に騙された。しばらく放っておいたらこの有様だ。
安かろう悪かろうと言えれば少しは諦めもついたが、それは安くはなかった。
今お水をあげるから静かにしててね。




041212

変わらない。どうしても消えて無くならない。
嘘をつき、演じて、後悔するが、何かが終わっていた音がするので
それを無視する。
足下が普段よりもよく見えた。






050327

小鳥の巣作りが踊り場の隅で展開されている。
それにしても大した技術力だ。私は舌を巻く。

均一な編み目を形成した細い小枝の外壁。
適度な柔らかさを有する葉や藁の内装。
安定性を高める土の外装。

何より素晴らしいのはロケーションのセンスだ。

私の家の踊り場。
ここはもう君たち家族の空間だ。
雛が巣立つまで、ずっと居ていいよ。

私は踊り場を飛び越え、遠くにみえるアスファルトを目指した。





050327

「ひとつだけ、きいていい?」
僕は頷いた。別に答える意志を示した訳ではないのだが。
「なんで、だまっているの?」
僕は首を傾げた。別に質問の意味が理解できなかった訳でもないのだが。

口を噤むということは、こういうことなんだよ。
僕は作り物だけど、こんな気分になることだってあるんだ。

「ねぇ、どうして・・・?」
僕は頷いたり、首を傾げたりしてみせた。

それしか出来ないからだ。






050327

これがとても有名な木の実だよ。
てのひらにすっぽり収まる程よい大きさ、いや、口の中に頬張れる飴玉位、って言った方がいいかな。
艶があって、美しい円筒形をしていて・・・
そう、香りがとてもいいんだ。
おいしそうでしょう?
うん、食べられるんだ。味もとてもいいよ。
食べてみるかい?

「いいの?・・・だって、とても有名な木の実で世界にたったひとつしかないんでしょ?」
そうだよ。ひとつしかないんだ。君にあげられる木の実はね。
でもこの木の実は人の数だけあるんだ。
だから心配しないで食べていいよ。

「うん。じゃぁ、遠慮なくいただくよ。食べるときはこの引金を引けばいいんだよね。」
そうだよ。とってもおいしいよ。





050327

忘れ物はなさそうだ。必要なものは全て持っているし、不必要なものもない。
忘れ物はなにもないだろう。もう私の後ろにはなにも見当たらないから。
本当になにも、見当たらないから。

私の後ろには見慣れた街が広がっている。
私は歩きだした。

目の前には見慣れた街が広がっている。





050327

思いをうまく伝えられないのは、思う事が下手だからではなさそうだ。
そう確信した。
とりあえず、目の前にいる猫にこのことを伝えてみよう。






050327

私は鍵師で解錠のプロであるが、どんな扉の鍵でも開けられる、という訳でもないらしい。
これまで様々な扉を開いてきたが、開けられなかった扉はひとつもなかった。
私が開けない扉はあるのか?などと威勢よく吠えたこともあったが、それもファンタジーだったようだ。
この扉。私が今まで蓄積してきたあらゆる手段と技法を投入しても解錠できない。
不可能だ、と断言してもいい。

私は狭い空間が苦手だ。閉所恐怖症というやつである。
まぁ、正確に言えば恐怖など感じないのだが多少の嫌悪感を覚える程度といったところか。
とにかく早くこの空間から抜け出したい。

妻も私と同じ鍵師で施錠のプロだ。
彼女は私の不在に気付いているだろうか。







050327

僕は安っぽい男だとよく言われる。かなりよく言われるので多分そうなのだろう。
子犬の鳴き声を真似てみようか。かなりそっくりだと思う。
「くぅ〜ん、くぅ〜ん」
僕は鳴き続けた。
30万円の値札がつけられた子犬の鳴き真似は自信があるんだ。






050402

本がある。その本にはしおりがはさまっている。キレイなしおりだ。
このしおりはどこで買えるのだろう。
そうだ、この本の持ち主に聞いてみよう。
このしおりをどちらで?
よろしければ、このしおりを譲ってもらえませんか?

私がこの本の持ち主です。このしおりが欲しいのですか?
ごめんなさい。わたしもこのしおりが欲しくてこの本を買ったのです。
ええ、その店で本を買うとこのしおりが付いてくるのですよ。
この本をどちらで?
よろしければ、場所を教えましょう。

はい、本を買っていただければこのしおりをお付けしますよ。
このしおりはどのような?
これは私の店の、いえ正確に言えば私個人のオリジナルなんです。
気に入っていただけて嬉しいです。
是非、本を買ってください。
このキレイなしおりをお付けしますよ。

本がある。この本にはしおりがはさまっている。キレイなしおりだ。
このキレイなしおりを手に入れる事が出来た。
私はこのしおりの所有者だ。
とても満足している。






050402

わたしの彼はね、絶対にてのひらをみせてくれないの。
つきあってる私にもみせてくれないなんて。
どうしてだとおもう?

みられたくないキズがあるのかな。
そこだけ日焼けしてるのかな。
おもしろい手相なのかな。
昔の彼女の名前が彫ってあるのかな。
大事なカギを隠しているのかな。

どうしてだとおもう?

すぐに叶いそうな夢があるからかな。
時計の針が昨日も動いていなかったからかな。
お気に入りの真っ白なシーツにくるまったからかな。
空から落ちてくる雲をずっとみつめているからかな。
猫がそっぽを向いたからかな。
ドアの鍵穴をたくさんつけたからかな。
葉っぱを集めてつくったベッドでうとうとしたからかな。
誰かの顔を忘れてしまったからかな。

どうしてだろう。
彼はわたしにてのひらをみせてくれないの。

どうしてだろう。
その答えが彼のてのひらにかいてあればいいのにな。






050419

僕はピアニストだが、彼女には頭が上がらない。
「彼はピアニストだけれど、私には従順なの。」
ボートがうまく漕げないんだ。
「私をオールだと思って。」
将来の為に蓄えるのは速い方がいいんだ。
「もっとスピードを上げて。」
コルクが沈んでるワインなんて飲めないよ。
「じゃぁ今夜は瓶を使って。」
税金を支払う時はどんな顔をすればいいんだ。
「私は貰う側なの。」

私は彼が好き。とても。
夢のなかでさえ、彼のことが。

僕は夢にまで見た大好きな彼女と一緒にいる。
現実ではないような、彼女が傍にいる一時。

「私たち、もう夫婦ね。」
「そうだよ、僕たちは夫婦だよ。」
「ずっと一緒だね。」
「そうだね、ずっと一緒だね。」

僕はこの先、君を幸せに出来るか不安になるときがあるんだ。
「そのときは、私がいないと思えばいいのよ。」





050419

小鳥が話をしている。私は耳を傾けてみた。

誰にでもこだわりってのはあるもんさ。あんただってあるだろう?ひとつくらい。
そのこだわりってのは趣味だったり仕事だったり、ちょっとした仕草だったりする。
なかには「情熱だ!」なんていう奴もいるが、まぁそれもそうだよな。
人それぞれ違ったり、同じだったりするんだ。色々あるってことさ。
だからな、俺にもお前にもあるんだ。そのこだわりってやつが。
いやいやそれが同じならいいって訳でも無い。
もちろんそれが同じなら共有できる喜びはあるがな。
しかし俺はそんなことを望んじゃいねぇ。
いいか?俺が問題にしているのはだな、
あんたが俺のこだわりを理解できる頭を持ってるかってことなんだ。
「ならやっぱり同じ方がいいってことだろ?」
違うんだ。なぁ、違うんだよ。だからな?俺が言いたいのは・・・
「大丈夫だ、もう理解してるよ。もうわかったから。」
そうか!それならいいんだ。

チュンチュンと鳴いているだけなのだが、
恐らくこんな内容の話だろうな。

今日は小鳥がたくさんいるな。





050419

私は今おどけている。滑稽な動作とキテレツな言動で。
もうやめたほうがいいのかな。
自分に問いかけてみよう。

何も聞こえないな。





050429

「よく来たね。待っていたよ。さぁ、お願いごとをどうぞ。」
私は賽銭を投げ入れた。500円だ。
「500円とは気前が良いね。大体10円か5円だからさ。」
返す言葉が浮かばなかったので私は愛想笑いを漏らした。
「ま、小銭で気前が良い悪いを云々するのも貧乏臭い話だな。」
私はそれらしい表情を浮かべた。どうでもよいが、私はこういう当たり障りの無い話が苦手だ。
適当なあしらいが苦手だ、と言った方が良いか。
「それじゃぁ願い事だ。どんな願いかな?」

願い事が思い浮かばない。
どうでもよいが、私は自問自答するのが苦手だ。






050429

花言葉を創作するのはなかなか難しい。
私は鉛筆で描いた花を眺めた。
自分で思い描いた花、とてもキレイな花に描けた。
この花に言葉を添えたい。
私が創った花に、私が願う言葉。
この花に言葉を添えたいが、言葉が出てこない。
私が願う花に、私が創る言葉。

私は花を描く事をやめようとしていない。
どれも同じ形。私の描いた花。
それしか思い浮かばないからだ。

白い紙に私の描いた花が溢れている。
鉛筆の芯は無くなっている。
新しい紙も見当たらない。

言葉を添えられなかった花が私の目の前にある。
それをあきらめたので、思い悩むことは、もう無い。

花言葉を創作するのは難しい。
今はその花の姿を思い出すだけだ。
私は花を思う事をやめようとしていない。
私が思い描いた花。
それしか思い浮かばない。

とりあえず、水でもあげてみるか。
消えてしまうかもしれないが。





050429

私は玉乗りが得意だ。どんな玉にだって乗れる。
小さいの、大きいの、どんな玉でも乗れるんだよ。
そう。玉がないときは玉乗りはしないさ。
当たり前じゃないか。普段は玉乗りなんてしてないんだ。
私だって仕事があるし、家に帰れば家庭がある。
始終玉乗りしてる訳が無いだろう。
そんなことはいいんだよ。私は玉乗りが得意なんだ。
だから早く玉を持ってくるんだ。






050603

ドアの横に置いてある植木鉢に気を取られる。
太い小さめの葉が貯金箱から出された小銭のように茂っている植物が根を張っていて
その隣には「金の成る木」と書かれた札が刺さっている。
崇拝のつもりだろうか。
生憎今は札束しか持っていない。
私は葉を何枚かちぎり、懐に入れた。






050603

正夢が発生する確立を調べている。
何十分の一か、あるいは何千万分の一なのか。
夢の中でその数字を突止めた筈なのだが、どうしても思い出せない。






050603

私が川を眺めていると、右足の靴ひもが結び目を変えた。
私が川ばかり眺めているから、すねてしまったのかしら。
私は左足の靴ひもを解いて川に投げ捨てた。

私が川の水を飲もうとすると、帽子のつばがそっと口を塞いだ。
私が川の水ばかり飲んでいるから、心配してくれたのかしら。
私は口に含んだ川の水を花に吹きかけた。

私が川に潜ると、腕時計が針を閉った。
私が川の底ばかり気にしているから、怒ったのかしら。
私は川底にある水草に腕時計を巻き付けた。

今日はとても雲が速い。どんどん流れていく。
川に浮かぶ私はずっと雲を眺める。
時間が経てば、消えてしまう雲。
時間が経てば、大きくなる雲。
川は、どんどん私を流していく。

私が川を後にすると、雲が私を取り囲んだ。
とても真っ白だ。
雲は、私をお空に押し上げる。

私が雲を眺めていると、川の水が溢れだした。
私が雲ばかり眺めているから、羨ましかったのかしら。







050603

シャツのタグをめくると伝言が残されていた。
「お買い上げ有り難う御座います。お客様のご意見を是非お聞かせ下さい。」
シャツの胸のあたりに宛先がプリントされている。
私はシャツをポストに入れた。







050609(Re:01)

兵の槍は讚えるべき王の権威を誇示する朽ちた木。
兵の盾はさかしらな王女の破瓜を防衛する身を覆う程の葉
兵の鎧は醜悪な妃を群衆の目から退ける卵の殻
盤石の兵、心の全ては王国の為に。

兵の子供は 毎日こう言い聞かされていました。
薪割りが終わった朝
羊の群れを小屋に戻した夕方
夜露で湿ったベッドにもぐり込んだ夜
兵はその度に子供に話しました。

ある日子供はついに耐えかねてこう言います。
「お父様、僕はもう聞き飽きました。ずっと、ずっと同じことばかり。」
兵はうつむきながら答えました。
「王の為に身を捧げるのが兵の本分さ。お前が兵の子であるなら聞かなければならない。」
「僕は王様も兵隊も嫌いだよ。」
「お前の家はここではない、王国だ。お前の父は私ではない。王だ。」
「お父様はお父様だよ。」

そう言うと兵の子供は急いで王様に会いに行きました。
お城に入ると黒いビロードのドレスを着た王女が現れて言いました。
「あなたは兵の子ですね。それではお見せなさい。 私の盾であるべき、あなたの小さな体を包み込む程の葉を」
「僕はあなた様の盾ではありません。」

階段を駆け上がり王の部屋へ急ぐと金色の絹糸で編まれたドレスを着た妃が現れて言いました。
「私を見てはいけません。あなたが兵の子であるのなら、卵の殻で頭を隠しなさい。それが私の鎧。」
「僕はあなた様の鎧ではありません。」

兵の子は枯れ果てた朽木のカーテンをくぐり王様の部屋に入りました。
ベッドに横たわっていた王様はその体を王国の旗で包み、お城の外を眺めながらこう言いました。
「兵の子よ、朽ちた木は持っているか?」
「持っていません、僕は兵ではありません。」
「ならばお前は王国の民ではない。出ていくがいい。」
「わかりました。ではその前にお父様の心を返して下さい。」

兵の子は王様の首をゆっくりと締め上げました。
すると、沢山の兵の心がお城の外へ消えていきました。
兵の子はその心を見送ると、王を包んでいた旗を取り上げ、言いました。
「僕は兵の子供。僕の心は王国の為に」






050609(Re:02)

枯れた木の枝がボクの小屋の前に落ちていた。
その枝には黒いビロードの布が被せてあり、重たい雨を受けずに済んでいた。
私はそれが誰の物だか知っていたので届けることにした。
これは、王国の兵士、その子供が持っていたものだ。
お城は陽炎のような布で覆われている。私の背丈よりも低い城壁は誰もお城へ入ることを
許さず周りを囲み、黙り込んでいる。
城壁の門は私の背丈よりも高い花が咲き、誰でも城の中へ招き入れた。
重たい雨が足を濡らすので枯れた木の枝で雨を弾くと、
黒いビロードの布は沢山の雨を吸い込んで地面に落ちた。
私はお城へ向かい、歩き出した。

街の中からはお城がよく見渡せる。兵士の子供はあの中にいるはずだ。
多分、この枯れた木の枝がなくて困っているだろう。
・・・しかし、私はこの街から出られなくなってしまった。
誰も居ないのに、視線だけが僕にからみついてくる。

何も知らない街
人の住まない家
人を流す川
座席の無い劇場
飼い犬を埋める井戸
土だけの公園
境目の無い道
寝室に投げ込まれる花
光の入らない農場
作るものが無い工場
全てが透明な商店
取り口の見当たらない郵便受け
入り口を塞がれた鳥カゴ
口を塞がれた猫
木箱で覆われた絵
宙づりの木
結ばれた草
裏返しになった時計
地面についた窓
塗りつぶされた鏡
浴槽にしずむ香水
重たい霧
重たい雨
かすかに、ほんの少しだけみえる。あれは城だろうか・・・。

私は何を見たのだろうか。私は何を探していたのか。
何処へ向かっていたのか。
確かに「知って」いた。
あの街の様子、今はほとんど覚えていない。
何故、忘れてしまったのか解らない。
だが只ひとつだけ、記憶の断片として居続けるあの光景。

確かに私は見た筈だ、眼前に映る陽炎の布で覆われた様なあの城を。
もう、歩き疲れた。
だけれど、すぐ向こうにどこか見覚えのある街が見える。
とりあえずこの道を進んでみよう、
「王国へ」と書かれた朽ち木が指す方向へ・・・







050609(Re:031111 映像作品「ウルトラマン」脚本決定稿)


現実に馴染めない鍋土と十和田。
雲を観察しながら決して釣り上げる事の無い状況で竿を構える鍋土。
ソフトビニール製の怪獣を相手取り自分は地球を守る宇宙からの使者(ウルトラマン)だ、と吐く十和田。
鍋土が差し出す怪獣を十和田は受け取り、倒す。その不可思議で無感動な日常。
カメラを持った男はその一部始終を撮影する。
十和田が求める理想の女性は紙面やモニターの中に居る描かれた美少女。
好意を投げ付けても決して応えない美少女。
そして現実に居る女性は恐怖、そのもの。
十和田にとっては女性も怪獣も同義。十和田はその中で、浅黄に出会い、のめり込んでいく。

空の向こうに自分を救う「誰か」が居る、と信じる浅黄。
その「誰か」がこの世界に置いた分身、それが十和田だと感じる。
浅黄が彼に求めるものは。
決して魅かれあっていない二人。

十和田は自分を必要とする人間に出会え、それが女性であったことに歓喜を覚える。
浅黄は「誰か」の存在をこの世界で唯一裏付ける存在として十和田を求める。
自分の戦果、倒した怪獣の人形を日々差し出す十和田、
彼が差し出す「証」に褒美を与える浅黄。
その褒美で繋がれた二人。

鍋土から与えられた「人類の敵」を全て倒し終えた十和田。
それは彼の「使命」に終わりを告げた。
その十和田に絶望する浅黄。
それは彼女の「誰か」からの別離を意味した。
十和田を拷問の様に叱責する浅黄。
十和田にとって浅黄は美少女キャラと同義である現実に存在する理想の女性。
その浅黄が只の現実の女となってしまう。十和田にとっては女性も怪獣も同義。
交錯する、二人の「現実」と「虚構」。

ウルトラマンは最後に現れた怪獣により命を落とす。
十和田が最後にとった行動は。
カメラを持った男は十和田の最後の表情を捉える。


1*「階段」
カメラを持った男が十和田を捉えている。
ビルの通用階段。銃を手にした十和田が座り込んでいる。息を切らしながら切迫した表情。
周囲を伺いつつマガジンを抜き、弾の残弾数を確かめる。ひと呼吸おき飛び出す。
ゆっくりと後方へ流れていく階段。前方から迫る階段。
十和田は銃を構え、対象へ発砲。ゲームの様な乱射で即座に撃ち尽くす。
それでも倒れない目標に対し、弾切れの銃を投げ付ける。
床に転げ落ちたそれを今度は何度も踏み付ける。
目標はビニール製の怪獣。散らばるBB弾。
無惨な姿の怪獣を見やり、十和田は満面の笑みと悲壮な表情を浮かべる。
虚無感に溢れた後ろ姿。

十和田「僕はまた、世界を救ったんだ。」

そう吐き捨てるとポケットからウルトラマンの人形を取出す。

十和田「ね。」

その確認の言葉に何も答えない人形。
嘲笑する様な目で十和田をみつめる。
その場に力無く座り込む十和田。
カメラを持った男はファインダーではなく肉眼で十和田を捉える。
目を閉じるとシャッターを切る音が響く。
(タイトル)


2**「土手」
土手で釣り糸を垂らす鍋土。左手に竿、右手に箸。右手の箸は弁当に突っ込んだまま動かない。
流れていく雲。その雲を逃さず視線に捉える鍋土。
その様を少し離れた場所から狙うカメラを持った男。
鍋土の釣り竿の先端が揺れる。鍋土の視線の先に釣り糸を手繰る十和田。
嬉しそうに右手首を掴みながら鍋土の隣に座る。

十和田「やり遂げた。」

鍋土は箸を置き懐から怪獣の人形を取出し手渡す。

鍋土「今度のは手強いぞ。」

怪獣を受け取る十和田。不敵な笑みを浮かべる。その表情を逃さないカメラ。
途絶える会話。十和田は怪獣、鍋土は釣り糸を見やり、カメラはその二人を狙い続ける。
そのまま動かない三人の奇妙な構図。
鍋土が釣り糸の先に反応する。

鍋土「かかった。」

ただの棒に紐をくくりつけただけの釣具。リールを一心不乱に巻く。
紐を手繰り満足と達成感の表情で獲物を十和田に見せる。

鍋土「こりゃぁ大物だよ。」

何もついていない釣り糸の先が十和田の目の前で揺れる。
嬉しそうな鍋土。
それを見過ごすように流れていく雲。


3***「雲とご褒美」
キャンパスに描かれた雲。それを唯見つめる浅黄。
脱力した両手。無感動な視線。彫像の様。
(off)
浅黄「今日はよく晴れてて、雲よりも青空が、青いのは雲よりも多くて
だから、とても近くに居る・・・いつもは、雲が、邪魔するから。
雲は嫌い、・・・だから青が沢山ある日は・・・」

床に落ちる怪獣の手。
浅黄の前に立つ十和田。自分の視界に十和田を捉える動作しかしない浅黄。
十和田はボロボロになった怪獣を得意気にみせつける。
浅黄の視界の十和田。十和田の視界の浅黄。
(off)
浅黄「あなたの分身、私を助けてくれるあなたの分身。それが・・・」

感情の無い浅黄の視線。

十和田「今度の敵も倒したよ。・・・中々手強かったんだ。でもやったよ・・・だから・・・ね?」

餌を待つ犬の様に浅黄の褒美を待つ十和田。

浅黄「・・・ありがとう。」

十和田の右手を両手で握り、撫でる浅黄。
十和田は目を伏せ、恍惚の表情を浮かべる。
どの女性もが嫌悪するだろう十和田の姿。

浅黄「もう終わり、」
十和田「え・・・お、お願い、もうちょっとだけ・・・!」

手を放そうとする浅黄にすがりつく十和田。
嫌悪の表情を浮かべる浅黄。

蓑子、車をおり浅黄の部屋へ向かう。
マンションの階段で十和田とすれ違う。
怪訝の表情を浮かべる蓑子。


4****「手」
右手首をつかみながら走る十和田。
歓喜の余り思わず漏れる奇声に気づかぬまま、走る。
カメラを持った男も十和田をファインダーに捉えたまま追従する。


5*****「二人」
浅黄は取り繕った顔で蓑子を出迎える。
それをやり過ごす蓑子。

浅黄「あたし、今日は・・・」

取り繕う浅黄。
それを遮るように

蓑子「雲を眺めてた。」

黙り込む浅黄。
蓑子は床に落ちている怪獣の手を拾い上げる。
それを浅黄の顔に押し付ける。
抵抗しない浅黄。

蓑子「明日から当分曇り空、だってさ。」

キャンバスに置かれた雲の絵。
青い空の部分を白い絵の具で塗りつぶしていく蓑子。
ぼう然とそれを見つめる浅黄。


6******「日常」
十和田、鍋土、浅黄、この三人が反復する日常。


7*******「十和田」
狭く、暗い、モニターの明かりだけが唯一の光量を確保する部屋。
美少女ゲームを只淡々とやり続ける十和田。
それを見つめる目は浅黄のそれと同じ。
その目を見つめるカメラを持った男。


8********「終わる使命」
いつもの通り鍋土の前に現れる十和田。

十和田「やり遂げた。」
鍋土「おつかれさん。」

その返事に戸惑う十和田。

十和田「次の敵は・・・」
鍋土「地球には平和が訪れた。」

鍋土の言葉に固まる十和田。
即座に動揺が走る。

十和田「・・・ねぇ、じゃぁ、僕は・・・」

答えない鍋土。
何かに怯え逃げ出す十和田。カメラも追う。
それを見やる鍋土。

鍋土「最後の敵、か。」


9*********「浅黄」
ベランダから空を見つめる浅黄。愛おしい視線を空に投げ掛ける。
傍らに白く染まったキャンバス。口元が揺れる。

浅黄「まだ、来ない・・・」

浅黄、目線を下げると十和田がもどかしそうにベランダを見上げている。
十和田の情けなく饐えた顔が浅黄の目に飛び込む。
玄関の扉を開けると立っていたのは十和田ではなく蓑子。
背後から階段を駈け上がってきた十和田が息を切らしながら近付く。
十和田に道を譲る蓑子。

蓑子「続けろよ。」

試すように言い放つ蓑子。十和田は恐る恐る部屋に入る。
浅黄を冷たく凝視する蓑子。浅黄はその視線を浴びても表情を変えない。
しばし見つめあう二人。
その二人の顔を伺いつつ十和田が口火を切る。

十和田「あの・・・敵が、・・・敵がもう、」
浅黄「もう?」
十和田「全部倒しちゃって・・・」

表情が曇る浅黄、それを見て冷笑する蓑子。

十和田「お願い、・・・・・・ご褒美は止めないで・・・」

手を差し伸べる十和田。
浅黄の視界にはその状態でフリーズした十和田が写る。

浅黄(OFF)「駄目。ご褒美はもうあげない。(何度も繰り返す)」
浅黄(ON)「あなたは、・・・違う。」

浅黄、十和田を何度も激しく叩く。
怯えきった十和田は必死に許しを請い、逃げる。
叩くことを止めない浅黄。
その様を見て笑う蓑子。
蓑子に白く塗りつぶされた雲と青空の絵。
痛々しい喧騒を笑いながら観ていた蓑子がそれに視線を向ける。
青空が消えた絵。
醜い十和田の姿。
緩んでいた顔が、消えていく。


10**********「十和田の城」
暗い部屋。
散乱するゲームソフト。モニターに映る二次元美少女、壁を埋めるそのポスター。
乱れた布団の上に丸くなり横たわる十和田。
起き上がりゲームソフトの山を掻き分け紙包みを取り出す。
カメラは懐中電灯でそれを照らす。
開いた中には銃。
それを見つめ続ける十和田の後ろ姿。
口元に笑みが浮かび、銃を手に取る。  

11***********「銃声」
<浅黄自宅前>
紙袋を抱えた十和田を蓑子が見つける。
浅黄のマンションに入っていく十和田を見届けた後、青空に視線を移す。
青空。
蓑子の表情が緩む。
ボケットから白い絵の具、それを投げ捨てる。
<土手>
釣り竿を構える鍋土。
白い絵の具を釣り上げる。
それを懐にしまい込むと、何事も無かったようにまた竿を構える。
何かを期待する嬉々とした表情。
<浅黄の部屋>
部屋の中へ駆け込む十和田。
嬉々とした表情で浅黄にすがりつく。
満面の笑みの十和田。
無表情の浅黄。
鍋土の口元に笑みがこぼれる。

十和田「僕を殺して!」

紙包みを急いて開ける十和田。
中に入っていた銃を浅黄の手に持たせ、自分の額にあてがう。
消えない笑み。
ウルトラマンの人形を取り出し、胸に抱く。
目線は浅黄から外れない。

十和田「ウルトラマンはね、最後の怪獣にやられちゃうんだ。 ・・・だから、まだ終わりじゃなかったんだよ!」

唯、十和田をみつめる浅黄。

十和田「・・・だから、・・・ね? またご褒美いいよね?・・・ね?」
浅黄「おもちゃの鉄砲じゃ出来ないよ?」

十和田、得意げな表情を浮かべ
十和田「大丈夫、最後の怪獣はとっても強いんだ。」

浅黄の視線。(停止した十和田の絵)
カメラは二人を捉え続ける。
その後響く銃声。
倒れる十和田。
浅黄、「そっと」笑う。

現像された写真を手に取るカメラを持った男。
そこに写る数々の「状況」。
最後の写真を見るカメラを持った男。
笑みが浮かぶ。




いつものように釣り糸を垂れる鍋土。
となりに座る浅黄。
鍋土、紙包みと怪獣の人形を浅黄に手渡す。
受け取った浅黄、何かに気づいたように空を仰ぎ、そしてささやく。

浅黄「私をお空へ連れだして・・・だれか、私をお空へ押し上げて・・・」

真っ青な、雲一つ無い青い空。






050610

程度の良い服の誰かが私の日記を盗むのは解っていた。
私は日記を隠すと滲んだ紫のリボンを家が包めるほどの長さに切り腰に括った。
それを辿れば私に追いつく。

どれくらいの時間が経っただろうか。目を覚ました私は湿った洞窟の中に居た。
おそらく作り物であろう鍾乳石が無節操にぶら下がり、霧吹きで濡らした様な
わざとらしい水滴を滴らせていて、私はその水滴を夢中で啜っている。

別の場所で私が攻撃されている。逃げることが選択肢に無いのでコードを切ると
水を飲ませろと叫ぶ機械を動かすよう指示を受けた。
種類が多いが選ぶ苦労は味わえなかった。

退屈だと千切れる腕がセールスポイントらしい。その冗談に値段をつけたくなった。
販売員は電卓を構えた。私は値切ろうとはしなかった。






050610

猫が魚をくわえて庭先を歩いている。僕はその猫を見て羨ましく思った。
だけれど、何を羨ましく思ったのかは解らなかった。
魚をくわえながら庭先を闊歩する姿に優雅さを感じたのか、魚のウロコが好みの模様だったのか、
それとも獲物を確保して満足げな猫の表情にあやかりたかったのか。
僕はその猫から目が離れなかった。ずっとずっと見つめていた。
猫が魚をくわえて庭先を歩いている。





050610

ホテルの窓を突き破った僕は人々が行き交う道へ落下していた。
その最中に大事な用事を思い出したが、とりあえず落下を優先させようと決め物理法則に身を委ねた。
用事を済ますのは、その後でいい。






050610

団長に気に入られる為に僕は死に物狂いで玉乗りをした。
雇ってもらえるか、お払い箱にされるか。ここが瀬戸際だった。
なにせこのサーカス団に在籍するピエロは半端な数ではない。出来が悪ければ直ぐに捨てられる。
ピエロたちは必死になって自分の技を磨き、ステージに立つ事を夢見る。
このテストでは自分が一番得意な芸を披露し団長がそれを見て拍手をすれば合格ということになる。
パチパチパチ・・・。僕が乗った玉は憧れのステージに立った。





050610

自分の背丈程の壁があり遠くまでそれがそびえている。
その壁をなぞる様に歩いていくとまた元の場所に辿り着いた。
歩き始めるとき、足下に雲の絵が描かれた小さな紙が足下に落ちていたので
ここが元の場所だと判断できた。
雲の絵。
それが何も描かれていない只のまっしろな紙だと気付くまで、
僕はどれだけこの長く続く壁をなぞったのだろうか。





050610

頑丈な紐で括られた箱がある。
誰が見ても無節操な縛り方で、結び目を数えるなら人手が必要だろう。
この箱の持ち主の不器用さと人格に興味が沸いたが、それにしても頑丈に縛られた箱だ。
余程大事なものが入っているのだろう。

私の足の間から猫が顔を出した。
猫は箱の周りをぐるぐると歩き、結び目のひとつをくわえると紐は一気に解け箱が開いた。
中には高そうなキャットフードが詰まっている。
私はどこにいるかもわからない箱の持ち主に拍手を贈った。





050610

名のある神々が集う酒場に来た。
世界には人間のニーズに合わせて多種多様な神様がいる様だが店内には割と空席が目立つので少し拍子抜けした。
客は私だけの様だ。私はカウンターを選んで座るとメニューが降ってきた。
透ける様な薄っぺらい紙がいかにも見窄らしくみえるメニュー。
天井を見あげるとバーテンが浮いている。この状況だ、こいつもどこぞの神なのだろう。

「いらっしゃいませぇ。」
随分と間延びした声のバーテンだ。
神というからには、さぞかし厳格な声色だろうと予測していたのでこれもまた拍子抜けした。
「本日は特製カクテルがおすすめですよぅ。」
「そうだな・・・じゃぁ昨日のおすすめをくれないか?」
私はこのバーテンが冗談の解る神だと勝手に決めつけていた。
「お客さん〜、それじゃまた明日来てよぅ。今日のカクテルだすからぁ。」
なかなかいける神だ。

神がつくった特製のカクテルは、なんてことはない只のラム・コークだった。
だが、それまで持っていたイメージとはまるで正反対の神の有様に好意的な相違を感じ、
さらに最初のやりとりのおかしさも加味され、私はこれを特製カクテルだ、と思い込む事に成功した。
このバーテンも・・・、まぁ神に対していささか失礼だとは思うが「彼」と呼ぶ事にしよう。
彼も久々の神以外の客が嬉しかったのか、とにかくよく喋った。
間延び声で延々と、昔別れた女神が最近又どうのとか愛人にデキた子供がやっと神らしくなってきた、とか。
ラム・コーク、いや、敬意を込めて称されるべきこの特製カクテルが何杯も喉を通っていく。
この意外な彼の打ち解け具合と、人柄・・・ま、神柄が心地よかったからだ。本当に意外だった。

かなりの時間が過ぎ、私は相当に酔っていた。矢張特製は違う。
揺れる足の制御に気を払いながら財布を取りだした。そろそろ帰らねば妻が悲鳴をあげる。
攻撃の意志を私に知らしめる悲鳴だ。「ぅんだぁくらぁ!!」といった感じで。
私もそれに呼応して服従の意志を強調する悲鳴をあげる。

「奥さんにも特製カクテル飲ませてあげなよぅ、一緒においでよぉ。」
「今度連れて来るよ。」
夫婦揃って悲鳴をあげた後にな。
「久々に楽しい酒だったよ。また近いうちに。」
仕事疲れのストレスも、血気盛んな飼い犬の散歩に付き合う毎日も、日々のゴミを仕分ける苦労も、
飲酒中には確認できなかった。彼とカクテルに救われたような夜だった。

世界には人間のニーズに合わせて多種多様な神様がいる様だが、どうやらそのようだ。
その日の朝方、私は悲鳴をあげなかったからな。





050614

飛行場と聞けばかなり広い敷地を想像する。
長い滑走路や飛行機のドックがあり、飛び上がったり舞い降りたり。
自転車では辿り着けないような遠いどこかへ運んでくれる飛行機、パイロット誰もが夢見る憧れの職業だった。
小さな男の子達はこぞって将来自分がなるかもしれない職業にパイロットを選び、
操縦桿を握って青い空を全速力で駆け抜け雲の中を突っ切ってゆく未来の自分に憧れた。
私もそうだった。

小さい子供の私は飛行船のパイロットになりたがっていた。
「急がなくていいから。」それが理由だった。私の性格を的確に表している好例だ。
ま、この嘘は本当だとしても、あのゆったりと空に浮かぶ乗り物には本気で憧れていた。
あの速度でみえる地上、遠くの風景をよく想像して、算数ドリルの余白にその風景をよく描いた。漢字ドリルにも。
似たような気球にも興味を持ったのだが「寒そうだ。」との理由で私は却下していた。
私のずぼらな性格はこの時すでに確立されていたようである。
今や私も30を過ぎ、世間的にはオヤジのカテゴリーに分類され、生活を維持する為に働き続ける事を余儀なくされた身の上。
そんなしょうもない多々の心的苦労のせいで説教臭くなってきた自分が
現在最も規律で武装した言葉を投げつけたいのは他ならぬこの小さい私だ。
「怠けるなよ、頼むから・・・」
壁に貼られた昔の自分の作文に向かって、そういってみた。

壁にはどこぞの小学生達が書いた作文が貼られている。テーマはお決まりの「将来の夢」。
パイロット志望の選ばれた子達だけが掲載され、おもわず他の夢を持つ子供達はここでは必要ないんですねと皮肉りたくなる。
パイロットといっても様々だ。旅客機、戦闘機、ヘリコプター、潜水艦とかF1なんてのもある。
女房のパイロット、と書く勇者のような子供はさすがにいないようだ。
この類いのパイロットは大抵女性であるからな。

「お前も昔は可愛かったな。」
「勝手に俺の思い出を人目に晒すなよ。」
「何云ってんだ、子供らが憧れるパイロット君が書いた夢の跡だろ。」
「腹の立つ野郎だよ、君は。」
素敵な文句を吐く同僚に恵まれた私はさぞかし幸せだろう。

私はセスナで市内を遊覧飛行して金銭を頂戴するだけの花形小規模会社に入り、
毎日決まった景色を眺めるだけの飛行しかできない、子供があまり憧れそうにない職務に従事している。
懸命な私はまず間違いなく憧れたりしない、フタを開ければまぁしょぼくれた会社なのだ。
燃料の単価高騰による節約命令で社内快適設備の使用自粛が断行され、更に昼食メニューの大幅な整理による
食生活の単一化は"カレー・カツ丼・うどん"のループを引き起こし、それにラーメンを加える為に機体整備費をも操作する
いたいけな大人の集まりなのである。
こんな会社のささやかなイメージアップ企画としてパイロットを夢見る少年達の作文を
掲載しようと企画した同僚が、小学校時代の文集にある私の作文を整備場の壁に貼りだした。

「でもな、我ながらいい企画だと思うよ。なんかさ、子供の夢を膨らませてやるっていうか・・・」
彼は我々の現実を白昼夢とでも思っているのだろうか。ちなみに彼の奥さんは名パイロットだ。

確かに遊覧飛行でセスナに乗り込んだ子供達の目はキラキラしている。
大空へ飛び立ったときの歓声、自分が住む街を遙か上空から見おろした時の感動しきった表情は・・・
ま、本当に本心で云うが私の仕事の糧であり、支えでもある。
そうか、私は夢を現実にした男として子供たちに羨望の眼差しでみられている訳か。

今はしがない遊覧飛行のセスナパイロット。
少しばかりの夢を子供に与えられる、結構いい仕事かもしれない。
でもな、子供らよ。実際はそんなに甘くないんだ。
よし。若い芽は摘むことにしよう。

私は自分の作文を千切って、これから向かう空へ放り投げた。
子供だった私が思い描いた夢がセスナの機体に降り注いだ。





050615

私は自分の背丈程ある壁にそって歩いている。
どれだけ歩いても同じ壁が続いている。
私は歩き続けた。

少し先に只の白い紙をみつめ、たたずんでいる男がいた。
唯々、その白い紙をみつめていた。
彼はなぜこの壁の前でたたずんでいるのだろう。

白い毛糸を辿りながら歩く男がいる。
前を見る事もなく、自分の足下の先にある白い毛糸を唯々手繰りながら歩いている。
彼はなぜ毛糸を辿りながらこの壁にそって歩いているのだろう。

私はなぜ歩いているのだろうか。
この壁はどこまで続いているのだろう。
私は歩き続けた。

壁の根元に青と白の絵の具が落ちていた。
まだ中身は残っている。白い絵の具のほうが少ない。
それを懐にしまい、私は空を見あげた。
今日は雲が多い。
この絵の具の持ち主も、この壁にそって歩いているのかもしれない。





050615

私は今、家事や育児に追われている。
旦那はちっとも手伝ってくれない。娘のオムツも取り換えた事がない。
仲が悪いわけじゃないんだけど。
でも結婚してから一度も旅行に行ってないんだよなぁ・・・。
昔は・・・といっても2,3年前だけど、よく二人で旅行に出かけた。
いろんなところに行った。国内旅行が多かったかな。
観光地で行ってない所は無いかも。
とにかく旅行漬けの毎日だった。
そういえば、出会いもプロポーズも旅行先だったな。

娘が大きくなったら、今度は三人で旅行に行くんだ。
「早く大きくなってね。」
娘は笑っている。
「あはは、でも今のままでもいいかもね。」
お昼寝もしたし、ミルクも飲んだから機嫌が良いだけなのだろう。

この子が初めて旅行に出かけるのは何年後になるのか、とても楽しみだ。
いろんな乗り物に乗ってどんどん遠くへ。
みたことがない景色を見て、この子は何を思うのだろう。

当分、娘のオムツ当番は旦那の仕事。私は今から旅の準備。
旅行計画は早め早めが肝心だ。






050615

紙で出来た自転車を買った。
乗れば先ず間違いなくぺしゃんこになる。
でもよく燃えそうだ。
次の休みはこれにのって出かけよう。
ライターを持って。






050617

何も好き好んでなった訳じゃない。特に思い入れも無かったし憧れてもいなかった。
メイクをしておどけていれば、何もない自分は忘れられる。ただそれだけの理由だった。
僕は視線が怖い。何で怖いかなんて知らない。

大好きな女の子がいる。本気で好きになった初めての女の子。
彼女は僕を好きだ、と言う。
こんなに嬉しい事は無い。

お手玉をして見せた。
宙返りをして見せた。
彼女は楽しそうだ。
もっともっと、笑った顔が見たい。

手品をした。
風船で猫を作った。
地面の上で溺れる真似をした。
ハーモニカを吹いた。
大きなシャボン玉を飛ばした。
彼女は僕をみつめている。僕が何か、をする度に喜んでくれる。
もっともっと喜ぶ顔がみたい。
ずっと、僕をみつめてほしい。

逢う度にメイクを変えた。
頬に星空を描いたり、瞼にミツバチを描いたり、額に花を描いたり。
彼女はいつも褒めてくれる。

僕は視線が怖い。
ピエロになればそれも怖くなくなる。
彼女にみつめてほしい。僕を好きだ、と言ってくれる彼女に。

ピエロの僕を。





050617

飲まず食わずのまま5分たった。
私を殺す気か。
私が飢えて乾いて死ぬ様をそんなにみたいのか。
おまえらは人間じゃない、この鬼畜野郎!

「ごはんだよ〜♪」

はぁ〜い。






050618

油を注せば動く。注さなければ錆びて止まる。
注す気が無いなら棄てる。棄てたくないなら油を注す。
はっきりして欲しい。注したり注さなかったり、中途半端なのは困る。。
私は遅れるのが嫌なんだ。少しくらい遅れても・・・ってのは私の本分じゃないんだ。
遅れていくだけなら止まっていた方がいい。
私はただ正確に時を示したいだけなんだよ。
解ってくれるよな?
デートの時間に遅れたくないだろう?
見たかった番組がもう始まってた、なんて嫌だろう?
あいつがしっかり油を注せば、私は確かな時を刻めるんだ。
だからな・・・

「黙れ、田舎モンが。」

おいおい、怒らないでくれよデジタル君・・・





050619

毎日何かが変わっているが、誰もそれを意識していない様に見える。そう見えるだけだと信じたい。
僕は変わりたくない。今の自分が変わっていくことに恐れを感じる。今のままでいたい。
けれど、僕は変わろうとしている。

脱皮というのは誰にでも訪れる過程で、通過儀式である。逃げられない。
僕は空を飛ぶ事なんて興味ないし花の蜜なんてのも吸いたくない。
何故今のままでいてはいけないんだろう。
僕はこの木の感触が好きなんだ。
木の鼓動を感じながら、舞い落ちる葉を眺めながら、空へ向かって伸びる枝を見送りながら。
この木にずっと身を寄せることの何がいけないんだ。

僕は蝶になりたくない。
ずっとサナギのままでいたい。
脱皮は誰にでも訪れる。
僕が望んでいなくても、僕自身は変わる事をやめようとしない。
心と体は別なんだ。

「おかあさん!みつけたよ!」
「うわぁ、お母さんこういうの苦手・・・」
「すごいんだよ、蝶のサナギってそんなにみつかんないんだから!」
「ふ〜ん、でも昆虫採集でサナギなんて採るの?お母さんが小学校の頃はカブトムシとかだったよ?」
「蝶のほうがいいんだよ、サナギがあればもっといいんだ。」

何かの液体を注入された。
この感覚は・・・なんだろう、時が止まっていく感覚に思える。
ありがとう、坊や。

僕は変わらなくてもいいんだね?






050623

この先はコンクリートで舗装されている。
この場所はまだ草が茂っている。
私はその境目を目指して歩いているが、まだまだ時間がかかりそうだ。
背の高い草が多い。すすきに混じって名前も知らない草が点々と生えている。
草と川の匂いが混じる。
川辺で石を投げた。石は水面を蹴りながら進んでいる。
どの石も川底に沈んでいく。
魚が跳ねた。鯉だろうか。
たくさん跳ねている。
境目に着いた。
よくみると、コンクリートの隙間から草が生えている。





050624

雲はたいくつでした。いつも空に浮かんでいるばかり。
生まれたばかりのころはビルを数えたり山のてっぺんを隠してみたりしながら
暮らしていたので平気でしたがだんだんとそれも飽きてしまいました。
ゆっくりと風にのってゆらゆら。
朝も夜も風にまかせてぷかぷか。

雲はいつかじぶんひとりでいろいろなところへ行ってみたいと思いました。

雲は鳥にたずねました。
「ねぇ鳥さん、ぼくはひとりで好きなところへいってみたいんだ。」
鳥はびっくりしながらいいました。
「だめだよ雲さん、きみが太陽をかくしてくれなきゃ、ぼくはあつくて飛べないよ。」
雲は悲しそうにいいました。
「僕は鳥さんみたいに自由に空をとびまわってみたいのに・・・。」

雲はミツバチにたずねました。
「ねぇミツバチさん、ぼくはひとりで好きなところへいってみたいんだ。」
ミツバチはおどろいていいました。
「だめだよ雲さん、きみが雨をふらせなきゃ、ぼくがミツをすう花が枯れてしまうよ。」
雲はがっかりしながらいいました。
「僕はミツバチさんみたいにいろんな花をみたいのに・・・。」

雲はさみしそうにお空に浮かんでいます。
まだ知らない、街や風景を想いながら。






050625

鍵を棄てたオープンなドア、口を噤むクローズなわたし。
スライドしない彼に、フライトしない鳥。
なつかないユーズドな猫、声を出さないフラストなわたし。
テキスト通りの彼を、レジストする小鳥。

種を蒔いて芽がでたら灯をともしてお別れ。
カルキで動くエンジンはパニックしてストール。

夢をみたいなら、私のとなりへ。
夢から覚めたいなら、私をわすれて。






050629

忘れることができない、それは責められることなのだろうか。
もしそうなら、思い出す事も謗られることなのだろうか。

時計の針に触れるなら、私は時間を戻すだろうか。

私は種を持っている。花の種だ。
どんな花が咲くのだろう。
どんな色をしているのだろう。
どんな香りだろう。
私はこの種がどんな花を咲かせるか、わからない。
時計の針に触れるのなら、私は時間を進めるだろう。

花が咲いた。
綺麗な、どこまでも綺麗な花が咲いた。
この花はいつか無くなってしまうのだろうか。
私は時計を探した。

時計の針を隠せるなら、私はそうするのだろうか。

私はその花を紙に書き残した。
紙いっぱいに。
私が想い、そして描いた花。
この花に言葉を添えるなら、私はどんな言葉を想うのだろう。

どこかで針を刻む時計の音が聞こえる。
私は花を、紙に描かれた花を握りつぶし、その音を無視し続ける。

私は花の種を棄てた。






050629

ポスターの裏面を利用して、今年の抱負などを書いてみよう。
最近は散財気味なので「無駄遣いを控える」とでも書いてみるか。
いや、太り気味なので「節度のある食生活」としようか。
それにしても困った。
このポスターはとてつもなくデカい。
近所のファミレスの駐車場位のデカさだ。
何を書けというのだ。





050629

猫さん、こんにちは。どこへ行くの?
「初対面でいきなりそんなこと聞くか? フツー。」

そうだね・・・。






050629

「みてみなよ。ほら、あの月。」
「ただの月じゃない。」
「そうだけど。でも月っていうのはさ、満ちたり欠けたりするんだ。」
「当たり前じゃない。」

私は別に乾いた会話を求めている訳ではない。
どうにか濃密な恋人らしい雰囲気にしたいのだ。
いつも喧嘩したあとは成り行きで仲直りするパターンが多い。
なのでたまには私が早めに折れて修復に乗り出し、さらに関係を深めようと
月を例えにして恋人同士らしい雰囲気作りを試みている。
といった状況だ。

「ほら、僕らみたいだってことだよ。満ちたり欠けたり、仲睦まじかったり喧嘩したり、ってこと。」
「今日は皆既月蝕だね。」

そうだねぇ・・・。






050703

夢の中で彼女は言った。
「大きな葉っぱ。それがあればいいんです。ほんとうにそれだけがあれば、私は守られるのです。」

後ろに結った黒髪、解けばかなりの長さだろう。青いベッコウの髪留めが緩やかに光る。
なんと表現したらいいのだろうか。とても艶やかな白い肌だ。
それを隠すようにして黒いビロードのドレスを羽織っている彼女は、
乳白色の陶器でできた階段をしきりに上り下りしていた。
私はその様をただみつめていただけだった。

彼女は歩を止めた。
「いま、わたしは6段目にいます。」
彼女は下まで降りきっていた。すがるような目で私をみつめている。
私は何も感じていなかった。
よく見ると階段には無数のヒビがあり、そのヒビのように ちぎれたドレスの切れ端が燃えている。
私はそれで暖をとった。

彼女は階段を上り始め、やがて階段の終わりに着いた。
私には階段の終わりがみえていない。
私は階段の何がみえないのだろう。

私は階段を上り始める。
歩を進める度に、彼女のドレスが千切れていった。
彼女のカラダが陶器の階段に映り込んでいる。
そうだ、陶器の様に白い肌だ・・・。
彼女は階段のそれを魅入る私の顔を両手で掴み、言った。
「あなたはくださいますか?私の盾であるべき、あなたの体を隠せる程の葉を・・・」

私は6段目にいた。
ドレスの切れ端が燃え尽きそうだ。
私は階段の終わりを想像している。

彼女は私を抱きしめ何度も耳を噛んだ。
私の両手は彼女の背中を滑る。
唇を重ねた。
私にはまだ階段の終わりが想像できていない。
私と彼女の舌が絡み合う度、唾液が溢れて唇からこぼれていく。
足下で燃えていた最後のドレスの切れ端がそれを浴びて消えた。
私は夢の中で彼女が言った言葉を思い出していた。
私がその葉っぱを差し出せば、君の何が守られるのだろうか。

まだ幼い少年が階段を上ってくる。
彼女は私から唇を外し、少年に言った。

「あなたは兵の子ですね。それではお見せなさい。 私の盾であるべき、あなたの小さな体を包み込む程の葉を・・・」






050707


「なにを言っているの? 私に・・・何を言っているの?」
私は言っている。そんなこと、私に言われてもわからない・・・。

私は鏡をみている。
私は私をみている。
私が私をみていると言った方がいいかもしれない。


鏡。
フタの裏が鏡面になっていて折りたたみ式、2段の引き出しが付いている。
大きさは・・・キャンプに持っていく缶ジュースが5〜6本入るクーラーボックスくらい。
大学を卒業するときに母親がくれたものだ。
祖母の、さらにその前の代から受け継がれてきたもの、といえば格好がつくけど
生憎それは母親が安売りの家具屋で買ってきた何の歴史も無いものだ。それも最近の話。
「お母さん、あたしはリサイクルの会社に就職したんじゃないんだよ。」
母親の家具の衝動買いにはほんとうに悩まされる。
実家の内部はさながら家具の見本市のようで、収納力だけなら近所の豪邸にも引けを取らない。
皮肉混じりにそう言った。
「嫁入り道具のつもりじゃないからね。」と母は笑いながら引っ越しのトラックに押し込んだ。
私が就職して一人暮らしを始めるので母は鏡台をあげようと思ったらしい。
傍から見れば、母から娘へ受け継がれる絆・・・的に映るのだろうが、
実際は業者に廃品回収を依頼する様となんら変わりない。

「いいじゃないのぉ、あんたが嫁にいくときはもっといいの買ってあげるから、ね?」
「もぉ・・・そう言ってすぐ押し付けるんだから。嫁入り道具はちゃんと吟味して買ってよね。」
「わかったわよ。じゃ、あんたも男は吟味して選んでおきなさいね。」
父とはスピード結婚だったはずだ。

母親の衝動買いの産物は今、一人暮らしを始めた私の部屋にある。
小ぶりなので置き場所には悩まなかった。
私は化粧っ気がまるで無いのでそういう類いのものは数えるほどだ。
小さな引き出しの1段目に、出番の少ない化粧品が全て納まった。
さらに私は飾り気も申し訳程度にしかないので装飾品も同年代の女の子に比べれば相当少なかった。
これも小さな2段目の引き出しにすっぽりと納まった。
これではさすがにマズいかもしれない。
「私は女の子なんだから!」と奮起するも、引き出しの中身は増えないだろうな・・・と
半ば確信的な予想をして早々に頓挫した。思わず着飾りたくなるような男性も傍にはいないし。
この鏡、鏡台は私の女っ気の無さを正確に表している。
急に愛着が沸いてきた。

私は充実している、と思う。
仕事は順調で給料も上がった。人間関係にも問題なし。ストレス無く付き合える友人もいる。
素敵な彼はいないけど、正直に言えば今は欲しいとも思っていない。
独りで稼いで生活していく、この毎日が楽しくて嬉しくもあり、支えにもなっていた。

私は鏡をみている。
誰でも鏡はみるだろうけど、それにしても何をみているのだろう。
技術力を要する化粧の出来。吹き出物の確認。表情の練習。
自分の内面と向き合う、とか。
私は毎日鏡をみている。
何の気なしにみているだけで、別に儀式的な日課にしているわけじゃない。
自分を確認しているわけでもない。
毎日の生活は充実している。将来の自分に不安を感じることもたまにあるけど、怯えたことはない。
私は何故鏡をみつめるのだろう。

私は、この先自分がこの鏡のまえでどんなことを思い何を話すのか想像してみた。
いつかわからない、その日。
その時の私は・・・どんな私だろう。
私は思い浮かべる。

鏡をみつめながら。







050709

この道を歩き始めて大分立つ。人も車も通らない。
流石田舎道だ、と納得するがそれにしても見事に私ひとりだ。
妙な孤独感を覚え始めてきた。

ウサギが草むらからでてきた。私を怖がらない。
飼われていたのだろうか。
私は楽しかった思い出をウサギに打ち明けた。

リスが木の枝に座り私をみている。私を怖がらない。
餌をねだっているのだろうか。
私は言葉にしたくなかった思い出をリスに打ち明けた。

車が1台、こちらへ向かってくる。
ああ、迎えの車だ。

私は車の前へ飛び出した。ブレーキの音が響く。
さして驚いてもいない様子だ。
私は運転席の男から夢のようだった思い出を聴いた。

まだ孤独感は感じている。






050710

雲の隙間に青いお空
見えるのに届かない

青いお空の周りに雲
動く雲はお空の前に

青いお空はみえない

あの雲の向こうなの
あなたがいる場所は

誰か、私をお空へ連れだして
誰か、私をお空へ押し上げて

青いお空
邪魔をする雲のせいで
何もみえない






050712

それをファイルに。
そして保存を。
そう、整理された状態で保管するんだ。難しいことじゃないよ。
これをしなきゃ、この部屋は書類で溢れてしまう。

・・・ファイルで溢れた部屋がある?
いいんだ、その部屋もファイルするさ。






050714

無様な日常も継続すれば華になるのだろうか。
そんな訳が無い。
継続は、力・・・ではなく惰性。
少なくとも私の場合はだが。

言葉と表情を武器に、私は戦争している。
戦場は「日常」。
強い敵ばかりだ。






050717

風船がお空をとんでいるよ
風船はどこへいくのかな
海のむこうかな

雲がお空にうかんでいるよ
雲はどこへいくのかな
もっとたかいところかな

いっしょにいけるかな

風船につかまって
雲にのって
いっしょにいけたらいいのに






050717

「あんた、つまんないわ。」と彼女。私の何が?
これは別れを告げる台詞だろうか。そうだとしたら余りにも酷い。私の何が?
「だからぁ、あんたそのものがつまんないの。」と更に。なに、全部?
この上なしじゃない。どうしようもないよ。全否定じゃないか。
「もう話しても仕方ないし、切るよ。」だって。早い、早いよ。
弁解の余地も無いよ。というか弁解するようなコトしてないし。
なんだよ・・・もう。
・・・別のゲームやろ。






050720

電波を受信できない僕の部屋のテレビは
新聞の番組欄にも載っていない素敵な映像を映しだしてくれる。
白と黒が混ざり合い灰色の歪んだ直線を湧出させる光の砂が走査線を走り、
はじけるような光の点滅がザラついたフィルターを通過していく様に乱れながら
画面を埋め尽くしていく光の映像。
ひどい雨か、嵐のような音を響かせながら。

映像電波を画面に反映出来ない可哀想なテレビが出来る唯一の映像表現は、
サンドストームという終わらないノイズの寸劇。

僕はこのテレビと同じ、かもしれない。
僕は目を閉じて思いに耽ることしか出来ないから。
だから、同じかもしれない。






050722

プロペラの風が鋭く後方に流れ、その風力が強まっていくと機体は前進する。
前進速度がある一定の数値に達すると主翼に流れ込んだプロペラの風が生む揚力により地上から浮き上がる。
この離陸という段階は天に召されるという状況に似ている。と操縦桿を握る度に思う。
私は今、空を飛んでいる。
誰もいない空、私だけしかいない空。孤独感が心地よい。
地上とは全く逆の感覚だ。

飛行を終え、着陸態勢をとる。
この着陸という段階は地獄へ落とされるという状況に似ている。と操縦桿を握る度に思う。
また素敵な現実とご対面、だ。






050727

遠くの景色を見つめると、視力の回復に効果がある。
広い視野の中で焦点を合わせる動作が効果的であるらしい。
遠くにいるステキな人をみつめても・・・ぼやけた心は変らない。






050730

どうしてこの扉は開かないの?
どんなことをしても開かない。
どうすれば、ここから出られるの?

どうしてこの扉は開かないの?
どんなことをしても開かない。
どうすれば、この部屋に入れるの?

開かない扉越しに声が聞こえる。
扉を叩く振動が私の手を震わせている。
開かない扉越しに声が聞こえる。
扉を叩く音が私の耳に響く。

扉の向こうには誰がいるのだろう。






050803

目が覚める度に青い空がみえるのは、私がいつも空の下で寝ているからだ。
風で飛ばされないように土の中にカラダをねじこませ、たまの雨で渇きを癒しながら私はここにいる。
なんの疑いも無く。

もっとカラフルな連中は快適な環境の中にいるらしい。
温度と湿度が適切な状態に保たれているそうだ。
うらやましい限りだが、私がそんなことを思っても栓無いことだろう。
彼らは飾られる為に、私は残す為に、それぞれの居場所にいるのだから。
ま、私の近くにいる奴らがたまに摘まれていったりもするが。

私がしている努力とは、ただ生活していくことでも、ましてや生きる為でもない。
残す為に居続けることだ。それしか無いんだ。
努力という言葉を使ったが、もちろんそんな感情は無い。
聞こえがよさそうだったから使ったまでだ。
私は自分の体が決めた生から死までの間隔に忠実なだけなんだ。
私はそれだけの存在なんだ。

もう少し経てば私は種をつくる。
私の分身は風に乗ってどこかの土の上に舞い降りるだろう。
そして疑いもなく「咲く」のだ。






050807

眠りから覚める時、目覚めを意識して起きるだろうか。
目覚めは唐突に訪れるものであり、緩やかにやってくるものだ。
私は目覚めの前兆を感じたことが無い。

意識が覚醒して現実の「時間」を思い知らされる、目が覚める度にだ。
それが私にとって途方もない苦痛だった。それが前兆も無しに突然やってくることが・・・。
それは全てを流していき、止むことがない。否応無しにその流れに乗っている。
私は時が進んでいくことに恐れを感じていた。
老いて死を迎えることに怯えている訳ではなく、唯々時間の流れが私を怯えさせた。
何故だろう。自問自答しても私は何も答えなかった。

「眠り」は私が私に下す最悪な仕打ちだった。
目覚めから眠りに到るまでのそれは・・・、怯えているだけだった。
この悪夢のような循環。
毎日違えることなく続く段階。
私はどうすれば解放されるのか。いつ、その日は訪れるのか。
私は夢の中で、その日を夢見ていた。
絶対に叶う筈が無い夢を。






050815

「ゼンマイが巻けなくなったおもちゃをあげるよ。」
私は受け取り、礼を言った。まだ何かくれるようだ。
「机の脚をあげるよ。」
3本だ。あと1本はどうしたのだろう。
「時計の針をあげるよ。」
秒針・・・だ。彼に正確な時間は必要ないのだろうか。
「芯の無い鉛筆をあげるよ。」
丁寧にくり貫いてある。大した技術力だ。
「ぼやけた鏡をあげるよ。」
汚いな。かなり磨かないと使えそうにない。
「漕いでも進まない自転車をあげるよ。」
タイヤがないだけだ。そりゃそうだろう。
「完成できないパズルをあげるよ。」
無くしたのか?所々穴だらけだ。

それにしても、こんなに貰っていいのか?俺にも何かあげられる物があればな・・・。
何か欲しい物があれば言ってくれよ。

「必要な物が欲しいの。」

そうか。
・・・成程な。






050824

てつのぼうがたくさんあるよ
ぼくのめのまえに
ずっと

どんなにつよくつかんでも
どんなにちからいっぱいおしても
まがらない
てつのぼう

ぼくはどこからきたのかな
てつのぼうのむこうからかな

ぼくはほしくさのうえでねるんだよ
やわらかくて
ぬくぬくしてる
このほしくさはどこからくるのかな

おいしいくだものをたべるんだ
あまかったり
ちょっぴりすっぱかったり
このくだものはどこからくるのかな

てつのぼうのむこうからかな

ぼくのめのまえにたくさんある
てつのぼう
ずっとずっとあるのかな






050824

口元に笑みがこぼれている。こぼれるほどの笑みが。
私はそれをみている。
私は後ろを向き目を閉じているので、それはただの空想だ。
私はそれを都合よく繰り返している。

花を巡る事をやめない蜂の様に。
水から離れようとしない渦の様に。
実をつける枝を踏む猫の様に。
何かを隠しながら体に絡みつく湯気の様に。
月を見あげる犬の様に。
頬を刃でなぞる道化の様に。
真っ白な夢のように、
なにもみえないゆめのように。

目を開け、振り返る。
私は・・・それをみている。






050828

「さぁ、私をさばいてみな!この腰抜け野郎!」
肉屋の店主はキョトンとしている。無理も無い、売物からこんな台詞を言われれば・・・。
恐らく始めてなのだろう、こんなコトは。私もこんな状況を目の当たりにしたのは間違いなく始めてだ。
ニワトリは店主を罵り続けている。
よく気の弱い男がチキンと呼ばれたりするが、この鳥・・・いや、彼を見る限りではそれも当てはまらないな。
ありとあらゆる汚い言葉が口をついて・・・いや、クチバシをついて出てくる出てくる・・・。
店主は相変わらずポカンとしながら聞いている。・・・聞いてないか?

「くえぇっ〜!!」

店主は何事も無かった様にさばき始めた。
新鮮な鳥肉。このニワトリは高級地鶏らしい。
嬉しそうに売り場へ肉を並べる店主。
それにしても、何故ニワトリに罵られていたのだろうか。






050828

ビーズをひとつだけ。
ひとつあればいいよ。
ずっと、ずっと、大事にしよう。

ビーズを、ひとつだけ。






050831

種類は・・・カモメだろうか、ここからではよく判らない。2羽の鳥が海の上を飛んでいる。
緩やかな円を描きながら離れることなく、何かを確かめるように。

私は絆を感じた。あの鳥は、ここで逢い、飛ぶことを決めていたのだ。
「ここで一緒に浜辺を見ながら飛ぼうよ」と云って。
だから群れに戻ろうとせずに、ここでこうして空を周り一緒の時間を過ごしている。絆を確かめる為に。
線、糸の様にもみえる絆は2羽をしっかりと結んでいる。結び目は、とても固そうだ。
それを・・・確かめ合っているのだ。
独りで浜辺を歩きながらそんな事を考えた。

潮の香りの中に火薬の匂いが混じっている。
花火だ。子供たちが花火をしている。
すぐに消えてしまう花火に、子供たちは楽しそうに火をつけている。

想いを重ね合わせるのなら、私は花火の灯にするだろうか。
それともあの鳥に、だろうか。







050901

声を言葉にかえて渡そう。
見過ごして気にも留めないことも誰でも知っているようなことでも。

なにかが邪魔をする。
それはとても低い垣根のよう。
それはとても高い壁のよう。
それは幸せでもあり、恐怖でもある。

声を想いにかえて渡そう。
雲にのせて。






050901

子供たちがたんぽぽの綿毛を飛ばしている。
青い空へ。

子供たちは春の訪れを手伝っているのだろう。






050909

空。そして、空を横切ってゆく雲。
当たり前の自然な風景、ずっと変わらない自然の風景。
僕は空と雲を眺めている。
飽きることなく毎日。

何が不幸で何が幸せなのか、僕には解らない。
全てがあの空のように変わらないものであるなら、
もし・・・そうなら、出会うことも違えることも同じなのだろうか。
夢をみることも夢から醒めることも、夢みたいなことも覚える必要のないことなのだろうか。
雲が形を変えながら空を横切っている。

「雲の隙間から青い空がみえる。ここにいる僕は届かないね。」
「少しだけ、背伸びをすればいいんだよ。」
「でも・・・雲が邪魔をしてるよ?」
「・・・。」
「僕はあの雲の向こうにいってみたいんだ。」

ずっと変わることがないあの空へ・・・。

「空、みえないよ・・・」
「雲のせいで?」
「そう・・・雲のせいで」

僕の邪魔をする雲。

「僕はあの空へいけないよ。だから・・・だから、僕を連れだしてよ・・・」

葉が揺れる音が聞こえる。どの木だろう・・・。

「あの空へ僕を押し上げてよ・・・。お願い・・・」

僕は何をみているの?
僕は何を想っているの?
何もみえない。
空も・・・僕も。

「大丈夫だよ。」
「・・・どうして? だって僕は・・・!」

風の音がする。もしかしたら、風じゃないのかもしれないな。

「目を、開ければいいんだよ。・・・ほら・・・ね?」







050910

「ぎゃぁ〜!」
「どうした!」
「お化けだ!」
「よく見ろ!犬だよ!!」
「Dog!!!!!」
「キャン!!」
「ワン!」
「王!」
「あ、ちょっと待って、携帯鳴った。・・・もしもし。」
『ワン!』
「犬だ!!」
「interesting!!!!」
「僕はあなたに興味があるんですよ・・・!」
「ニャァ〜ン!」
「犬だ!」

鳩の餌は沢山あげ過ぎると大変なコトになるね!
上野とか特に危険だ!






050925

サンドストームの音が聞こえる。
ずっと聞こえている。
テレビは休むことなく白と黒の砂嵐を映し続けている。
電波を糧にし走査線を震わせながら。
僕はずっとそれをみている。

僕は何をみているのだろう。
サンドストームの光の向こうに。

「何があるの?」
僕はテレビに話しかけている。
自分に問いかけた、と言ったほうが合っているかもしれない。
「何がみえるの?」
決まり事の様に僕は言い続ける。

こうして毎日眠りにつく。
そして・・・問い掛けの答えを夢の中で聞いていた事も忘れて、毎日目を覚ます。


「ほら、・・・がみえるよ」
サンドストームの音が聞こえる。
ずっと聞こえている。







051002

これが時計をつくる機械だよ。
ほら、数字や針がたくさん出てくるだろ?
これが組み合わさって時計ができるんだ。

きみの家に、きみの腕に。
仕事場の壁に、駅のホームに。
ここでつくられた時計はいろんなところへ。
時間をみせるために。

これが時計を作る機械さ。
止まったことは、一度も無いんだ。






051012

「わたしはね、一途な恋愛がしたいの。」
「恋愛沙汰だろ?」
「味気ないわねぇ・・・」
「逆だよ。こっちの方が濃口そうだろ。」

そうだな、例を上げれば・・・

冷めた感覚が心地よい関係
醒めた方が都合が良い関係
うしろめたくない別れ
綿密に割り切った出会い
手短な個室での触れ合い
携帯端末上で成り立つ恋
全てが枕詞な会話
話した分だけ薄くなる財布
露出が多くないと進まない問い掛け
スリットの長さで決まる返事の長さ
雨の日でも濡れない傘

「ってところか。」
「なんだぁ、わたしの理想通りじゃないの。」






051014

僕が暗い部屋にいる。僕だけが其処に、いる。


僕の部屋にある唯一の光源はテレビだ。
アンテナ線は抜いてあるので放送され空を駆け巡っている電波を捉える事もない。
電波に見放されたテレビ。電波に気付いてもらえないテレビ。
電波を受信できない僕のテレビは新聞の番組欄にも載っていない素敵な映像を映し出してくれる。
白と黒が混ざり合い灰色の歪んだ直線を湧出させる光の砂が走査線を走り、
はじけるような光の点滅がザラついたフィルターを通過していくように乱れながら画面を埋めつくす光の映像。
ひどい雨か嵐のような音を響かせながら。
映像電波を画面に反映できない可哀想なテレビが出来る唯一の映像表現はサンドストームという終わらないノイズの寸劇。
僕のテレビはそれ自体がステージであり演技者でもある。
僕はこのノイズを纏った光の動きに視点を固定し時間を費やせるだけ費やして、
つまり眠くなるか眼球の疲労度が臨界点を突破するまで眺めるのが好きだ。
テレビの光だけが僕を、灰色の毛布に包まっている僕の体を照らし続けている。
その光を浴びている時の僕は観客ではなく、共演者であるかのように感じるからだ。
主役にはなれそうもないが。

僕の部屋にある唯一の衣服は灰色の毛布だ。
柄と呼べるのは薄い灰色の縫い目だけで後は見事に一色に染まった濃い灰色の毛布。
暑い日は僕の体の熱量を外側へ効率良く放出し涼しい環境を。
寒い日は逆に熱量を内側に保持して暖かく心地よい環境を。
厚すぎず薄すぎず、適度な軽さと柔らかい肌触り。全く良くできた毛布だ。
非の打ちようが無いこの毛布に僕はかなりの劣等感を感じる。
だから、たまにできる毛玉が肌に当たる痒みにも文句は言わない。
言える筈がない。

僕の部屋で唯一言葉を話せるのは、僕だ。
でも玄関の鍵は締めたままでチャイムもついていないので誰もこの部屋には入って来ないし、
有線の通信機器も無線の携帯端末も無いので話す相手はいない。
言葉を話せる僕には話をする機会が無い。
僕以外の誰かとの接触を断たれている現状に何の不安も感じてはいないが、それでも多少の疎外感は感じる。
僕はテレビと対等の関係かもしれないし分身と云ってもいい。
しかし僕は何も出来ない。対等の関係ではなさそうだ。

誰にも気付いてもらえない、
外側から見放された僕はテレビのサンドストームに対抗しうる何かを、何ひとつも出来ない。
僕は言葉を話す事が出来る。でも言葉を話しても暗い部屋の隅へ消えてなんの返事も返ってこないので
僕の言葉は喋る意味も必要も無い。

僕には何が出来るのだろうか。多分、思うこと、だけだろう。
テレビにも灰色の毛布にも出来まい。 

この部屋にあるのは、僕のテレビと、僕の灰色の毛布、そして僕。
この部屋で僕の目が捉えられるのは、僕のテレビと、僕の灰色の毛布、そして僕の両手。
それ以外の何かは暗くてよく見えない。
不鮮明な僕の部屋。僕の現実。僕以外の誰かと共有する現実。僕の世界。
僕以外の誰かは入る事が出来ない世界。僕だけの世界。僕だけの現実。
それは僕の思い。
そして僕は思い描く。

深い雲の向こうに・・・あなたが居る。 どこまでも広がる白い白い雲。青空を覆っている。
どこまでも、どこまでも、雲。青空を見えなくする邪魔な雲。
青が、雲で、みえない。

 僕は雲なの。
 僕は青なの。

僕はサンドストームの光を浴びながら、そっと目を閉じた。
僕が望むものが・・・其処にあった。






051111

わたしは・・・なにもみつけていない。
そのかけらさえも、その面影さえも。


私よりも背の高い壁、真っ白な壁。まるで雲のよう。
それが何処までもつづいている。
雲一つ無い空の下に、真っ白な長い長い雲色の壁。
まるで空を追い出されたような雲のよう。

何もない青い空。そこにはなにがあるというの?
あなたはそこへ行きたいと願う。
でも・・・私が願うものは何もない。

あなたが置いていった白い毛糸。
白い壁のせいで、みつけられない。
手紙はここに置いていきます。
わたしがそれをみつけられなかった証として。

わたしは歩き出す。
ずっと空を見あげながら。・・・雲色の壁から目を逸らすように。






051125

小さい窓。犬小屋の入り口のような小さい窓。
ひょっこり顔を出せるくらいの小さい窓。
吹き込んでくる風が、漂ってくる匂いが、窓に収まった景色が。
この窓を通して感じられる全てが、わたしに優しく染み込んでくる。

いつでも、この小さい窓は私に優しい。
私は・・・この小さな窓の向こうに、行きたくない。






051204

雲が落ちていくのがみえた。ゆっくりと、フワフワと。
僕は着替えて外へ飛びだした。
雲はどこへいくのだろう。

僕は走りだす。
雲を目指して。
雲を追いかければ逢えるかもしれない。

ゆっくりと、フワフワと。
雲が落ちていく。

どんなに走っても追いつけない雲。
僕は走りだす。
いつかは消えてしまう雲に向かって。






051204

コップを傾けると、氷だけが唇にあたる。
最後の1杯だったのに。
もっと味わって飲むべきだ。

もう何年続けているかわからない、趣味の晩酌。
私は半年の付き合いだが、それも今日で終わりだ。
またこのテーブルには違う酒が置かれるのだろう。
感慨に浸りたい訳じゃないが、それでも少しは名残惜しんで欲しいものだ。
最後くらいは。

空き瓶の回収はタイミング良く明日。
わたしはどうなるのだろうか。

また酒瓶に生まれ変わりたいか?
・・・どうだろうな。
少なくとも使命感なんて大層な感情は持ち合わせてないよ。
ほんの戯れって訳でもないがね。






051228

銃弾の音が飛び交う。建物や人が弾けていく。
殺すことは目的であり、手段でもある。

モニターの中には戦場がある。
誰も傷つかない戦場。
電源を落とせば終わる戦い。

今日は新しい「戦争」の発売日だ。
店先にはもう行列ができている。
私は列の最後尾に付いた。
なんとか買えそうだ。






060104

プロペラの風が鋭く後方に流れ、その風力が強まっていくと機体は前進する。
前進速度がある一定の数値に達すると主翼に流れ込んだプロペラの風が生む揚力により地上から浮き上がる。
この離陸という段階は天に召されるという状況に似ている。と操縦桿を握る度に思う。
私は今、空を飛んでいる。
誰もいない空、私だけしかいない空。孤独感が心地よい。
地上とは全く逆の感覚だ。

飛行を終え、着陸態勢をとる。
この着陸という段階は地獄へ落とされるという状況に似ている。と操縦桿を握る度に思う。
また素敵な現実とご対面、だ。


「おかえり。調子は・・・当然よかったわよね。」
自称整備士界のアイドルが出迎えた。テスト飛行と称した殆ど私用のフライトに御機嫌急斜面といった感じだ。
「そう怒るなよ、テスト飛行も整備の一環だろ?」
彼女は極寒の表情を浮かべながら私に手紙らしきものを差し出した。しかしよくもまぁこんな寒い表情が出来るもんだ。
私はそれを茶化すように答える。
「おいおい、ラブレターにしちゃ分厚いな。」
「燃料代の帳簿よ。」
私は彼女と同じ表情を浮かべていた。彼女は予備タイヤの運搬をさせられたことに憤慨していた。
通常は業者が担当することだ。
「そもそもこんなこと私にやらせるのが間違いなのよ。考えてもみてよ、普通は上が手配して業者が
持ってくるもんじゃない。
そんなに切迫してる訳?ウチの会社は。こいつの整備代にしたって、一向に上がらないし。
別にね、勘違いしてる訳じゃないの。一応これでも会社の為に仕事は完璧にこなそうってご意向なのよ、私は。
総合評価の査定欄を気にしてる訳じゃないのよ。自分の仕事をこなしたいだけ。
でもさ、それなりの<扱い>ってのがあって然るべきだと思うわけ。
快適設備の使用自粛って何よ。もったいないからエアコン使うなってことでしょ?何ソレ、クールビズ?
あたしらだってまだ・・・ねぇ、聞いてるの?」

彼女は私に愚痴を吐きながらエンジンに手を伸ばした。長距離の飛行で焼ける程熱くなった外郭を撫で回した後
数十とある固定部品と配線類を恐ろしい手際の良さで外しにかかる。
そもそもこんなことは愚痴をこぼしながら出来る芸当ではない。
愚痴もそうだが、整備の腕も一流だ。
「もうすぐ上がるわね、明日の準備よろしく。」
整備を終えると彼女は天井と呼べそうにない穴の開いた屋根を見上げた。私もつられて上を見あげる。
飛行機が雲を引いているのが見えた。
彼女はずっと立ち止まって、その飛行機雲をみていた。
柔らかい笑みをうかべながら。

私は民間の痛く小規模な航空関連の会社に勤めている。航空と言ってもジェット機やヘリなんてものは無い。
遊覧飛行がメインだが取材用や観測、たまに農薬も散布するプラモみたいなセスナを1機所有。
そのセスナのプロペラによる風圧で傾く程の粗末な事務所ひとつ、限り無く収納を排した机六つ。
そしてどうみても博物館行きな黒電話一ヶ。心もとない居住域と連絡器機によりかろうじて外界との接点を確保する、
社長と社員5人からなる萎びた会社だ。
私の役職は操縦士。経理や営業、苦情処理が主ではあったがそんな雑務も思いのほか耐えられた。
飛行機を操縦できるという喜びが私にとってはこの上無しの糧であったからだ。
雲の上、時には雲の中が私の城。空が職場であることがとても誇らしかった。空に上がる度に気分が晴れた。

私は今、地上にいる。
見渡せば誰でもいる地上。
空とは全く逆の感覚だ。






060120

パースが違う構図。
わたしは違和感を感じていない。

階段が無い。ただの坂だ。
別の道を行く。

卵を落とした。
崖の上から。

キズを舐め合う。
一晩で癒された。

「明日も仕事なんだ。寝かせてくれ。」
「私と逢うのが仕事でしょう?」

ダンスは独りで踊るものなのだろうか。
私は手を振りほどいた。

恋の想い出は棄ててしまおう。
拾う神は居ない。

さぁ、私に値段をつけて。
「時価、だな。」

クラクラするの?
うん、それじゃフラフラしたらクラクラするね。






060315

この世界はバランスとレート、均衡と比率で成り立っている。
捨てる神がいる一方で拾う神もいるが、捨てちゃダメ!と怒る神もいるし、そんなの拾っちゃ
イケマセン!と叱る神もいる。夢を追う人、それを促す人。夢を諦めた人、諦めさせる人。
リアルとロマンの間にあるノーマル。この世界の定義はイエスかノーか、そのどちらでも無いか。
そのどれもが対をなす等価値な角であり、相対的に干渉しあう。
すべての事象にはそのどちらでも無いグレーゾーン、「灰色の段階」が存在している。
「世の中不公平だ」と吐いても決して平等を望んでいる訳ではないのだ。
多様な物事が交錯する中で誰しもが生活している。
灰色の段階、つまり日常のことだ。

日常生活に疲れている方々は大勢居る。
そうと感じる方々の大半が任意な強制を苦行の様にこなしている。
「バイト行きたくねぇ・・・」。だが生活の維持を司る神と大家はそれを許さない。
「魚がいねぇ・・・」。だが前述の神と漁業組合はそれを許さない。
設定変更不可な日常を過ごす。安定と安心と停滞と惰性、そして強制は同線にある。

灰色の段階。
ここから先へ進むか後へ戻るか、もしくは留まるか。
それら全ては等価値であり、その行動に善悪と優劣の概念は無い、のではないか。

モニター越しに戦争をみつめる。
この世界は バランスとレート、均衡と比率で成り立っている。
銃と爆弾で殺すか、それらに殺されるか、死んでいくか、生きようとするか。
そして、何気なく生き続けていくか。

グレーな日々はいつまで続くのだろうか。






060521

遠くにポケット
子犬のスキャット
空いたプリセット
凍ったポット
いらないタロット

小鳥もスライド
余ったメソッド
足りないコード

みつめたらスキ
めがあえばイヤ
みたくないユメ
みつめあうフリ
なきだせばウソ

カールする木の幹
シールにした言葉
タールがしみた水
ツールにいれた花
プールの底に街明り

ベージュのシーツ
パステルなガレージ
フェティッシュなバスタブ
イレースしたアジェンダ
ソリッドなラチェット

レンズであぶって
焦がしたぼくのクツ


























































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