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空談寸評

『しあわせのかたち』

コミックス、アスキー出版社(週刊ファミコン通信連載)、桜玉吉




へーげる奥田



 『しあわせのかたち』は、長きにわたる連載のなかでまったく別の作品のように変化していった経緯をもっている。元来単なるファミコンソフトのパロディマンガとしてスタートしたのだが、『ドラゴンクエストII』を扱った際、その主人公として「おまえ」「コイツ」「べるの」の「例の三人組」が登場する。この登場を機に、作品はオリジナルストーリー的な様相を強めていく。

 個人的には「べるの」が好きだ。彼女はもともとが『ドラゴンクエストII』のムーンブルグ王女であるから、半分「犬」である。セリフまわしは「〜だお」という「水森亜土風」だそうだが、後のアニメやCDドラマなどの佐久間レイの声がぴったりはまっている(と思っている)。

 このあたりのストーリーは、当時のオリジナルアニメブームの中でアニメ化されたが、これはかなり異様な作品に仕上がっていた。たしか、千葉繁の音響監督の第一作ではなかったか? 奇妙な音楽、何だか意味のわからん会話など、かなりディープなファンでないとよくわからん作りで、音楽はたしか川井憲次が担当していた。シナリオは伊藤和典じゃなかったっけな? ちょっと曖昧だが、このへんが「裏押井組」作品と言われる所以だ。まあ『サンサーラナーガ』でのキャラ設定の一件もあることだし、いろいろとつながりがあるのだろう。

 メディアミックスというのはこの後でよく言われる言葉であるが、実のところ『しあわせのかたち』は完全にメディアミックス展開をいちはやく実現していた。雑誌の漫画連載、オリジナルビデオアニメ、オリジナルCDといろいろ出たところを見ると、実はこの作品けっこうメジャー的人気があったのではないか。ちなみにCDドラマの第一作は千葉繁が、第二作は押井守が仕切っている。おかげで二作目はなんかやたらと込み入った、論理的に難しい作品に仕上がっている。さらに言えば、このとき当作品をさんざんけなした伊藤和典が、今度は自分が脚本家とはこーゆーもんだ的作品を書いてやるとかいろいろ言っていたが、結局これは実現しなかったようだ。

 さておき、作品は終盤を迎えるにつれ、桜玉吉自身の「絵日記漫画」の様相を強くしてゆく。べるのファンの筆者にとってはちょっと残念だが、まあこれも流れというやつであろう。釣りやオカルトの世界に何だか知らないが地球を護る使命を帯びた玉吉先生の活躍が綴られるのだ。

 こうした絵日記漫画のひとつの頂点が作中の特別編『しあわせのそねみ』ではなかろうか。なんかもう人生が嫌になるような私小説的世界が展開し、実に嫌な気分にさせてくれて大変好ましい。これを生み出しただけでも『しあわせのかたち』の甲斐があったというべきかもしれない。

 他にも『暗黒舞踏漫画』とか『ウッドホールの歌』とかいろいろと取り上げる部分が多いのであるが、とにかくひとつの枠でくくるのはむずかしい作品である。どうも健康を害されたようで連載終了以来あまり噂を聞かなかった玉吉先生であるが、近年会社を興されたと聞く。体調の方は大丈夫なのだろうか。願わくば、あの「例の三人組」と再会したいと、個人的には思っている。



1998/03


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